058 竜族
エマの家への訪問は、思わぬほどのリフレッシュになった。
去年からのもろもろで、知らないうちにストレスをためこんでいたのかもしれない。
エマの許可を得て、私はロマンス小説を借りて、少しづつ読むことにした。
帰ってくると私は早速リュウジに挨拶する。
「よーし。高い高ーい」
「クー、クー、キュルルルル」
リュウジを持ち上げると、嬉しそうになく。
最近なんとなくやってあげたのだが、思った以上に好評だった。
「ねぇねぇ、あたしもやらせて?」
「うん。リュウジ。エマが高い高いをしてくれるって」
「クー、クー」
リュウジはエマに、続いてアリスにも、高い高いをしてもらってご満悦の様子だった。
「リュウジが人間と一緒に生きていくんだったら、もっと他の人にも慣れた方がいいと思うんだよね。私だけじゃなくて」
「そうだねぇ。あたしも何人か、竜を見に行かない?と声をかけてみたんだけど……断られてね」
「いやぁ、リュウジちゃん可愛いっすねぇ」
あの事件以来、生徒たちが私とリュウジを見る目にどことなく、恐れが入り混じっているような気がする。
リュウジはいつも見張り兼護衛がついているし、さすがに生徒たちに危害を加えられる恐れはないだろうけれど。
「竜ってそんなに恐れられてるのかな」
「竜族は、魔物や魔族たちともまた違うっすからねぇ」
竜族は古の戦いでは人間側について戦った。
一説には聖女アニエスが、竜を使い魔にしていたとも言われる。
恐ろしい力を持っているが、今は数も少なくなり、絶滅寸前という説もあるそうだ。
「みんな敬遠してるなら、無理に誘うのも悪いかな」
「あたしも折を見て、いろんな人に話してみるよ」
そのようなやりとりの数日後、迎えの馬車でリュウジと一緒に宮殿へと向かう。
「やぁ、よく来たね」
クローヴィスは少なくとも表面上は、にこやかな対応だった。
今回呼ばれた理由はわかっている。
この前の授業で、リュウジが魔術を中断し無効化させた件だろう。
「それで何を?」
「大した魔力はないのかもしれないと思っていたが、あんな事があったからな。これは凄い力を秘めている竜なのかもしれない」
というわけで、幾人かの魔術師が鑑定したり、装置で測定したりしたが、やはり特に変わった特徴は見られなかった。
「ふむ……あの時のような力は感じられないか。セシル。ちょっとリュウジにこの間のような事ができるか頼んでみてくれ」
「わかりました。リュウジ、この間みたいな声だせる?」
「クー?」
「キュイィイイイイイイーーーーーって言ってみて、リュウジ」
「?……キュイィイイイイイイーーーーー」
リュウジは私の真似をして鳴き声を上げる。
周囲はじっと見つめていたり、何やら装置のパネルを見たりしていた。
「ふむ……特別な効果や魔力の変化は無し……か」
「さようでございます殿下」
一人の研究員が答え、私はさらにリュウジをうながしてみたが、結果は同じだった。
そのうち疲れてしまったのか、声が出なくなる。
「もう限界みたいです。お水を」
私は研究所の職員から水を貰い、リュウジに飲ませ、持ってきたオレンジを与える。
リュウジは喜んでむしゃぶりついた。
「なぜ何も起こらないのだ?」
「もしかすると、精神の集中具合だとか、何か特別な条件があるのかもしれません」
クローヴィスと職員は何やら色々と話していた。
私はせがんでくるリュウジに、ひとしきり高い高いをしてやる。
「あの……そんなにリュウジのこの力は重要なのでしょうか?」
私はクローヴィスにきいてみる。
「ザイターンの事はさておくとしても、デギル教の活動が各地で盛んになっているのは事実だ。魔族やデギル教徒が得意とするのは暗黒魔術。それに対抗できる手段は多い方がいい」
「なるほど」
魔術について勉強してきたつもりだが、まだまだ知識の抜けはあるし、ぴんとこないところもある。
自分が魔術を使えなくても、もっと私自身も勉強が必要かもしれない。
私の神力無効は、私自身にしか効果がない。
だが戦いは一対一とは限らない。
むしろ魔術の真価は多人数戦だろう
「そうだな。もう一度、光の遺跡に行かねばならんだろう」
「それは?」
「この間君が見つけた古代遺物や碑文は今解析させている。だがそれも君がつい最近発見したものだ。それ以外にもあるかもしれない。この竜の力に関連するものがな」
私はリュウジを見る。
不安そうに見ているリュウジをなでてやる。
「リュウジ。リュウジがいたところに、おでかけしよう」
「クー?」
「あのね。これは……リュウジのためなんだ」
「クー」
「いい子にしていれば、これからも一緒に暮らせるよ」
「クー、クー」
リュウジはうなずく。
「あの……リュウジはこれからどうなるんでしょう?」
私は思い切って、クローヴィスに聞いてみた。
「どうとは?」
「その……実験体にされるとか、大きくなったら殺されるとか……」
「そんな事はありえないさ。われわれと竜族とは、かつては魔神ザイターンを倒すために共に戦った。もっとも今ではめったに会う機会も無いが」
「少し安心しました。でも、このままリュウジがどんどん大きくなったらどうしましょう?」
「帝国は広い。どこでもリュウジが暮らせる場所はあるさ。それに前にも言ったかもしれないが、今、竜族とコンタクトをとっている。協力を頼めるかもしれない。もっとも向こうもなかなか警戒心が強いようだが。」
「はい……」
あまり将来の事を心配しても仕方なかった。
いや、考えたくなかったのかもしれない。
「今日のところは、こんなものか。ご苦労だった」
「それでは、私は、カール王子のところへ行きます」
「ああ、頼む」
私は馬車に乗り、リュウジと一緒にカール王子の住居へと向かう。
正直、クローヴィスが何を考えているのかよくわからない。
クローヴィスにとってカールは、父の兄の息子、すなわち従弟になる。
この場合、皇位継承順はどうなるのだろう。
というより、もしカールの父が生きていれば、どうなったのだろうか。
クローヴィスは現皇帝ルシアヌス三世の第一皇子であるが、血筋的にはカールの方が継承順位は上になる気もする。
そもそもルディア帝国の皇帝になるには、リヤウス教団が了承しなければならないが。
私は単なる平凡な一庶民にすぎない。
面倒な皇位継承争いに巻き込まれるなど、私はまっぴらである。
しばらくしてカールの館へと到着し、私は馬車を降りる。
「来たか」
待っていたのはもちろんカールだった。
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