055 決闘
「へぇー、そうなんすか」
「でも単位は大丈夫なの、セシル?」
夕食の一時、私は宮殿であった事を一通り話した。
このところ、私はエマだけでなく、アリスとも一緒にいる事が多い。
最初は引っ込み思案で大人しい子なのかなと思っていたが、仲良くなると結構しゃべる。
「授業も試験も大丈夫。頑張ってるから」
それにしても、リュウジといい、カール王子といい、なんだか妙な人物?に好かれてしまうのは私の特技なのだろうか。
そして翌日は、いつものように、アリス、エマ、マルスたちと一緒に魔術実習の授業だった。
といっても大してする事はない。
そう思った時だった。
「待ってください」
教師の注意事項の説明が終わった後に発言した生徒がいた。
それは副監督生となったリーリアだった。
「何ですか、リーリアさん」
「一つ、この高等学院の生徒として納得できないことがあります」
彼女は私を指さした。
「なぜ魔法も使えない彼女がこの授業を受けているんですか?なぜ単位をもらえるんですか?」
「もうそういう時代ではありません。これは学校側が決める事です。いくら副監督生といえどもあなたに権限は……」
「私は納得できません。この学校では、いえこの国では、高度な魔術を行使できることが価値であり評価される条件だったはずです。無能のセシルはこの授業にも、最優秀生徒にもふさわしくないと思います」
リーリアは周囲を見回す。
幾人かから賛同の声が漏れる。
どうやら元々私に反感を持っている貴族の子弟らしい。
他の生徒たちも口々に前へ進み出て、リーリアを擁護する。
魔法が使えようと使えまいと差別されず、公平に評価される。
それはあくまで建前だ。
リヤウス教団の指導部やこの世界の貴族や王族たち。
彼らはこぞって魔法が使える。
それが価値であり、その高い魔力と魔術ゆえに、彼らは神に近いところにいる存在とみなされる。
実際の所、私のように魔法が使えない人間の方がずっと多い。
だが本来なら、全く魔力を持たない私のような存在は、神に見放された者として攻撃や排除の対象となる可能性もあった。
そうならなかった理由は二つだろう。
全く魔力が無いという事が、この世界の常識にあまりにも反しており、人々はその考えに至らず信じられないでいること。
そして私の母がリヤウス教団の聖女としてそれなりの地位を占めていたこと。
私がリヤウス教団の後ろ盾により守られているのは、不本意ながら認めざるを得ない。
クローヴィス達も、私を教団の聖女の子として遇し、背後に教団の存在があるとみなしている。
貧乏性の私としては、教団の威を借りているようで、若干気詰まりではある。
「それで、あなたたちはどうしろというのですか?」
一部生徒の勢いにおされ、教師はやや譲歩した発言をする。
「私とセシルの魔法戦を認めてください。もし私に勝てば、彼女がこの授業にふさわしい存在だと認めます」
「いいですよ、私は」
私は即座に返事をする。
周囲がざわつき、私たちに視線が集まる。
彼女の言うことなど無視してもよかったろう。
そもそも学校側が決める事なのだから、私に責任も決定権もない。
だがそれでも勝負を受けたのは、私自身がかかえる若干の後ろめたさのせいだった。
どこかズルをしているような気分をずっと感じていたからだ。
前にリーリアが言っていた言葉が頭の中に蘇る。
(あなたが何を知ってるの?ずっと期待を背負い、努力したのに、報われず失望させてしまった辛さがわかるの?平民のあなたに、多くの人に責任がある立場がどういうものかわかるっていうの?)
少なくともリーリアは幼い頃から努力してきたのは確かだろう。
クレルモン公爵家の一人娘として。
けれど私だって、小さい頃から私なりに頑張ってきた。
前世の私よりもずっと。
「おお」
「セシルは魔法が使えないというが……これは見ものだぞ」
「模擬戦だ!」
生徒たちは一気に盛り上がる。
こういうイベントに沸き立つのは、どの世界も同じらしい。
学内での決闘行為は禁じられている。
だが授業での模擬戦となれば別だ。
私としては誰かと敵対したりしてきたつもりはない。
だがマルスと初めてあった時の貴族の子弟とのトラブルといい、その後も小さないざこざはあった。
最優秀生徒の件も、魔法が使えないのに魔術授業の単位をもらって聖女科に進級することも、彼らにしてみれば私が不当な特権を受けていると感じているのかもしれない。
周囲の生徒たちはすっかりその気になっていた。
教師同士は何やら話し合っている。
その時クローヴィスが手を上げて発言を求めた。
「この学校では、生まれや身分に関わらず実力が評価される。それもまた事実。力をしめすのも、ひとつのありようかと思います」
彼のその言葉が、最後の一押しになったのだろう。
「わかりました。これから模擬戦を行います。リーリア、セシル、前へ」
生徒たちはわきたち、にわかに周囲がさわがしくなる。
私の鋭い目と耳は、幾人かが何やら賭けに興じている様子をとらえていた。
私たちは演習場の中央へと移動する。
地面に魔法陣が描かれ、周囲を囲む台には水晶球が配置される。
致死量に及ぶような魔術の威力を低減させる装置だった。
私とリーリアは、危険な武器や古代遺物を持っていないか身体検査された後、魔法陣の中央へと進み出る。
「ではルールを説明します。勝利条件はこの魔法陣の外に出るか地面に倒れるか、もしくは負けを認めた時。使う魔術に制限はありません、そして……」
他にも教官は色々ルールを言っていたが、私は半ば聞いていなかった。
私にとっては意味が無いことだからだ。
訓練用の杖を渡され、開始の合図が始まる直前に私は声を発した。
「リーリアだけでいいんですか?私は相手が何人でも構いませんし、何人がかりでも負けませんから」
魔法勝負となれば、私の負けはありえない。
だが少しでも負ける確率を低くするのは、戦士としての義務のようなものだ。
故郷で師範に教わった事だが、相手の冷静さを失わせるのも戦法の一つだった。
あまり私好みの手法ではなかったが、プライドの高い貴族の子供たちには効果はあったのだろう。
あたりを素早く見回すと先ほど抗議の声をあげた生徒たちの顔色が変わっていた。
「まずは私からお相手します。ご不満かもしれませんが」
リーリアは表情を消して言った。
自分が負けるとは全く思わない。
だが私の勝ち方に彼らが納得するだろうか?
「はじめ!」
教官の声で勝負が始まる。
「炎槍!」
リーリアの鋭い声が響いた。
この世界において魔術に詠唱を使う事はあまりない。
だが発動する魔法の名前を叫ぶ事はある。
体に刻み込まれた魔力の流れと魔法のイメージを明確化するためである。
私目掛けて飛んできたその炎の槍を、私は素手でつかむ。
そしてそれは次の瞬間突如消滅した。
リーリアは表情を変えないまま、次の魔法を発動する。
「炎嵐」
突如私たちの周囲に炎の嵐が巻き起こる。
だが結果は同じだった。
炎の群れは、私に触れる直前で、前触れもなく消え失せる。
呆然とするリーリアに近づき、私は手に持った杖で、相手の杖を叩き落す。
「もう終わり?詠唱してもかまわないよ。攻撃はしないから。次は誰?何人がかりでも相手するから」
周囲の生徒たちは、あっけにとられたように話している。
「教官が障壁で防いだんじゃ?」
「いや。それにしてもあんな風に魔法が消滅するわけはない」
「あの結界は致死ダメージを防ぐだけだ。魔法やダメージ自体を無効化するのとは違うさ」
目の前で起こっている事がにわかには信じられないようだ。
私の力を直接見たことがあるのは、クローヴィス、リーリア、マルス、エマくらいだろうから当然だった。
だがその時、突如地面の魔法陣が消失し、周囲の台に置かれた水晶球が音をたてて割れた。
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