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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第二章 高等学院二年生編

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054 カール王子

「どうぞ」

「ありがとうございます」


 年若いメイドが紅茶とクッキーを運んで来て、私の前に置いた。

 私の方に、興味深げな視線を向ける。

 リュウジは私の横で床にすわりながら、テーブルの上を興味深そうに見上げていた。


「それで、クローヴィス様から、カール殿下が私にご用がおありだとうかがったのですが」


 私は話の口火を切る。


「いや、それはこの間言ったろう。僕を強くしてくれと」


 カールの後ろには、例の二人が立っていた。

 何を考えているのかはわからないが、必ずしもカールの言う事に賛成でもないようだ。


「私でお役に立てるかどうか。他の方に頼まれてはいかがですか?」

「他に心当たりもない。ずっとガストンに習っている」


 カールはちらりと老執事の方を見る。


「それなりに自信はありますが、私より強い人間はたくさんいますよ。私は学生の身で時間も十分とれません」

「魔術師同士の模擬戦も見た事はあるが、おまえのように魔法を完全に無効化してしまう戦士を見たのははじめてだ」

「あれは……まぁ……」


 私は何と言おうか迷う。


「私の母は教団の聖女なんです。それで特別な加護があるというか……」


 最後の方は嘘をつく罪悪感からか、若干もごもごとした言い様になってしまった。

 だがやはり、リヤウス教団の威力は絶大だった。

 

「そうか。なら無理にとは言わない。だがお前の身のこなしも只者ではない。剣術だけでも教えてもらえぬだろうか」


 私は少しの間、考える。

 元々私の成績は悪くないし、単位も足りている。

 問題だったのは魔術に関してだ。

 それらも実習やクローヴィス皇子の特別授業を受講することにより、何とかなりそうではある。


 だから王子に武術を教える時間はとれなくはない。

 といって勝手にそんなことをしていいものだろうか。


「わかりました。毎週というわけにはいかないかもしれませんが。私が知っている事はお教えできると思います」

「それはありがたい」

「ただし私は学生の身。学校とそれに帝室の許可が必要かと存じます」


 断る事もできたろう。

 だが、相手が熱心に誘ってくれているのに、これ以上断るのも気づまりに感じていた。


「それはこちらからも言っておく」

「はい。お願いします」


 帝室の隠された秘密、隠された王子に、いささか興味があったのは本当だ。

 だが何となく雰囲気に流されたのかもしれない事に、多少忸怩たるものがあった。

 

 そこでカールは、侍女のディアーヌと執事のガストンに出ていくように命じる。

 二人は最初は拒んでいたが、カールの意志が固いとみると、渋々ながら命令に従った。


「僕は外の世界の人間と話した事がないのだ。学校とやらも行った事がない」

「そう……ですか」

 

 この王子は孤独なのだ。

 そして自由などない。

 私が指南役を受け入れてしまったのは、その孤独な瞳と境遇が、前世の私を思い起こさせたからなのかもしれない。

 

 カールのような立場の場合、どのようになるのだろうか。

 私は前世の世界での歴史について記憶を探ってみる。

 

 前王家の血筋を手厚く遇したという話もあれば、王位争いに敗れた場合は一族皆殺しのケースもあったと思う。

 ルディア皇帝家はどうなのだろう。

 皇帝と考えが違うようなニュアンスの事も、クローヴィス皇子は言っていた。

 

「僕に色々教えてくれ」


 ということで、私は故郷の様々な事や、学生生活について、カールに色々と話す。

 もっとも私だって、この世界に関しては、生まれてから十五年ほどの記憶しかない。

 だがそれでもカールは興味深そうにきいてくれた。


「ほう。ところでその生き物はどこで拾ったのだ?」

「古代遺跡で会った竜です。いろいろな事情で今は一緒に暮らしています」

「クー」


 私は床にいるリュウジをなでてやる。

 皿の水を替え、クッキーを何かけらか与える。


「そうか。僕も書物でしか知らないが、珍しい姿と毛並みだな」

「そのようですね。なついてくれるので、この子は家族みたいなものです」

「なるほど、家族か」


 思わず発した言葉だったが、余計な事を言ってしまったかと焦る。

 だがカールは気にした様子もなく話を続ける。


「僕には家族というものがいない。ディアーヌやガストンや……あとは何人かの人間としか、ほとんど会ったことがない」

「そうなんですか」

「知らないふりはしなくていい。クローヴィスから聞いているのだろう?」

「え、ええ。まぁ……」


 帝室の内情に関しては、私もエマから聞いた以上の知識はなかった。

 だがカールは私の様子に何かを感じたのだろう。

 まだ年若いが、思った以上に利発な王子なのかもしれない。


「僕は父の顔も母の顔も知らない。両親とも物心つく前に亡くなった」


 カールは話しはじめた。

 私は軽い相づちをうつだけで、カールが話すのに任せた。

 私の意見など必要としていないことはわかっていた。


 両親の顔も知らず育ったこと。

 部下達にあなたは正当なる帝位の後継者であると言われてきたこと。

 家庭教師に勉強を習ってきたこと。


「その……そんなに立ち入ったことまでうかがってよろしのですか?」

「何がだ?僕の言った事など皆知っているさ。皇帝も、クローヴィスもな」

「そう……ですか」

「彼らと仲が悪いわけではない。ガストン達は、ああ言うがな」


 こんな重い話を初対面の私にされても困ってしまう。

 だが考えてみれば、こんな事を話せる人間も、少なくとも宮廷にはいないだろう。

 それに何をいうにも、まだ十二歳の少年だった。

 私は気になっていた事を、思い切ってたずねる。


「最初に私を暗殺者だと間違えたのは、まさか……その……」

「今までも僕を襲撃したり誘拐しようとしたりする人間たちはいた。だがそれらは全てとらえられ、罰を受けた……と皇帝は言う」

「そう……ですか」


 私なんかより、この十二歳の少年の方が、よっぽど波乱万丈の人生を送っていそうな気もする。


「それで、殿下はどうお考えなのですか?」

「正直よくわからない。ガストン達は、皇帝一家は僕の命を狙っているのだという。皇帝は身に覚えはないと言う。ガストン達が言う事が正しい気はするが……」


 そこでカールはテーブルの上の蜂蜜水に手を伸ばした。


「だがそこまで皇帝やクローヴィスに恨みは感じないのだ。それはそうだろう?父上も母上も叔父上も、僕が物心つく前に亡くなった。正直なところ、それほどの思いもない。僕を冷たい人間だと思うか?」

「いえ、それもまた正常な人の心の動きかと」


 私は部屋の周囲に潜む気配を感じていた。

 この家の使用人か、はたまたクローヴィスの部下たちか、あるいはその両方か。

 どのみち伝声管だかのぞき穴だか魔法だかで、監視されているだろう。


「いずれにせよ、知識を得て見分を広め、強くなることは必要だと思っている。少なくとも僕は、やっかいものの王子になる気はないのだ。協力してくれるか?」

「わかりました」


 カールは年の割に随分と大人びている。

 というより境遇的に、そうならざるを得なかったのかもしれない。

 そして私とリュウジはカールの住居を去り、クローヴィスのいる研究所へと戻った。


「そうか。よろしく頼む」


 カールの剣術指南役となる許可を求めた私に、クローヴィスはそう言った。

 特に驚いた様子もない。

 事前にカールから聞いていたのだろうか。


「時間がある時は、ついでにうちの研究所にも寄ってくれないか。どうやらうちの研究員が君に興味があるらしい。リヤウス教団の手前、あまり表だって依頼はできないが」


 どうやら私の魔法無効化について、色々調べたいらしい。

 実験対象になったようで、あまり良い気持ちはしない。

 なるべく善処しますと、私は曖昧に返事をする。

 こうして私は、諸々の所用でルディア帝国の宮殿へと通う事になった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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