053 魔導研究所
宮殿の敷地内に入ると、馬車は魔導研究所へと向かう。
それにしても、とてつもなく広い。
やがて前方に、煉瓦作りの瀟洒な建物が見えてきた。
門の前にいた衛兵が、うやうやしく頭を下げる。
「ご苦労」
クローヴィスは鷹揚に声をかける。
そして私たちは研究所の一室へと案内される。
中にはビーカーやフラスコ、蒸留器といった見慣れたものから、何に使うのかわからない装置まであった。
もしかすると、この装置も古代遺物の一つなのかもしれない。
「さて、大体は話したと思うが、今日は調査に協力してもらいたい」
「具体的には何をするのでしょう?」
「なに、大したことはない。魔術による探査と、ちょっとそこの装置に入ってもらうことだ」
「わかりました」
私はリュウジに向かって話しかける。
理解できるかどうかはわからないが、あらかじめ事前に言い聞かせてはいた。
「リュウジ。何も痛くもこわくもないからね。ちょっと協力してね」
「クー……」
リュウジは不安そうに私を見上げる。
最初は魔術師による探査らしかった。
魔法陣の中央に移動するように言われる。
リュウジだけだと不安がるので、私が抱えて魔法陣の上に乗ることにした。
周囲に魔術師らしき人間が数人集まる。
そして目を閉じ、なにやら意識を集中していた。
「うーむ……これは」
「どうした?」
「いえ、殿下。やはりこの竜には魔核がございませぬ。それと……その」
「なんだ?言え」
「いえ、こちらのご婦人なのですが……魔力が感じられませぬ……これは私の未熟ゆえかもしれませぬが」
その男は私を指さす。
魔力とはこの世の全てのものに多かれ少なかれ宿るとされる。
私のように全く魔力が無い存在というのは、この世の常識の外にある。
「まぁそのようなものだ。とりあえずはこの竜に関してだ」
「はっ」
クローヴィスは魔術師の疑問をさらりと受け流す。
次は何やらあやしげな測定装置での検査だった。
これは何かとたずねてみたら、やはり古代遺物の一種らしかった。
今の技術ではつくれないそうだ。
私はリュウジと一緒に円の描かれた床に移動する。
上から透明な円形の筒のようなものが下りてきて、私の体と周囲を遮断する。
魔術師や研究員らしき人間たちは、壁のスクリーンのようなものを見ていた。
何やら文字が流れているが、私にはよくわからない。
人々はひそひそとクローヴィスを交えて何か話をしていた。
やがて透明な筒は上方へと上がっていき、どうやら検査は終わったようだった。
「あの……どうなんでしょう」
私はおずおずと聞いてみた。
「まだ詳しくは分析してみないとわからないと思うが……」
クローヴィスは魔術師の方をちらりと見る。
「魔核はありませんが、微弱ながら魔力反応はあります。体の構造的にも、竜の子供であることは間違いないでしょうが、これ以上は」
「ふむなるほどな」
クローヴィスはしばらく考え込む様子だった。
「あの、それで……私は、いえ、私とリュウジはどうしたらいいでしょう?」
「これまで通り生活しいてくれてかまわないさ」
「はい。でも大丈夫でしょうか?」
私はこの間生徒たちとの事が頭によみがえる。
「それに関しては私からも、あらためて言って聞かせる。どのみち他にどうしようもない。野生に返すにも、どこに行けばよいかわからぬしな」
この世界には竜が存在する。
だがその数は極めて少なく、住む場所も限られているという。
「実はな」
クローヴィスは少しためらった様子だったが話しはじめた。
おそらく近い将来復活するであろう魔神ザイターンと、配下の魔族達との戦いのために各国のみならず、各種族の集団にも連絡をとっているという。
その中に竜族もいた。
だが竜族というのはなかなか気難しい。
そのため現在の所、交渉はうまくいっていないという。
「そうですか」
「まぁこれは余計な事だったかもしれん。リュウジは、この研究所にいるのが無理なら、とりあえずは高等学院にいてもらう他はない」
「ねぇリュウジ。リュウジはここで暮らす?」
リュウジは急いで首を振る。
「じゃあ、リュウジは私と一緒にいる方がいい?」
今度は勢いよくうなずいた。
しかし賢い子だ。
あっという間に人間のジェスチャーを覚えている。
「この竜に関しては、今回発見された碑文や古文書含め、各種文献を調べてみようと存じます」
魔術師の男がクローヴィスに言う。
「もしかすると、珍しい種族であるというだけで、力のある生物というわけではない可能性もあるな。とりあえずは光の遺跡で見つかった碑文や古代遺物の解析を優先した方がいいだろう」
「承知いたしました」
クローヴィスの言葉に男は頭を下げる。
「今日はこれで調査は終了だ。今後も何か頼むかもしれん。協力感謝する、セシル」
「いえ、とんでもありません……リュウジ、よく頑張ったな。ご褒美だ」
私はリュウジの頭をなでてやると、バッグからリンゴを取り出す。
持ってきた皮の台の上でナイフで切り分けた後、リュウジに与える。
リュウジは嬉しそうに鳴きながら、リンゴを頬張り、かみ砕く。
「ああ、そうだ。カールに会っていってやってくれ」
クローヴィスの言葉に、一瞬私はどう判断してよいか迷う。
「その……本当にかまわないのですか?」
「ああもちろん。君がよければだが。前にも言ったかもしれないが、世間の人が想像しているような事はないよ。少なくとも私はね」
積極的にカール王子に会いたいという気持ちもないが、さりとて断る理由もない。
それに皇帝家の内情というのに、私は若干、ゴシップ的な興味もあった。
研究所にとどまるというクローヴィスと別れ、私は数人の騎士たちに案内されて、リュウジと一緒にカールのもとに馬車で向かった。
「来てくれたか」
到着すると、カールはすでに建物の外で待っていた。
「その……こんにちは」
何をいってよいかわからず、私は軽く頭を下げる。
カールのそばには、このあいだの執事とメイドらしき男女がいた。
私を送り届けた騎士たちは、一礼すると立ち去っていった。
どうせ誰かがどこかで見張っているのだろうけれど。
「色々話したい事がある。ゆっくりしていってくれ」
「この竜の子も一緒ですけどかまりませんか?大人しくて暴れたりしませんので」
私は足元のリュウジをさししめす。
「ああ、かまわないさ」
カールは興味深そうにリュウジを見つめる。
「クー」
リュウジは私にうながされて、挨拶した。
だが私は視界の端で、執事とメイドが軽く眉をひそめるのをとらえていた。
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