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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第二章 高等学院二年生編

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049 リュウジ

 私は窓を開ける。

 ぱたぱたと羽をはばたかせて、黄金色の体毛に包まれた竜の子供が入っている。

 もちろんあの(ドラゴン)だった。


「どうやって逃げ出したの?でもまぁ来ちゃったものはしょうがないね」


 私はその子を抱きかかえ、そっと頭をなでる。

 (ドラゴン)は嬉しそうにクークーと鳴いた。


「お腹すいたろ?ろくなものないけど、こんなんでも食べるのかな?」


 私は棚にあったクッキーを差し出し、お皿に水を入れて竜の目の前に置く。

 (ドラゴン)の子は美味しそうにぽりぽりと食べ、水を飲んだ。


「それにしても、名前無いのは不便だね」


 私は少し考える。 

 竜の子供は、その私をじっと見ていた。

 

「そうだ。リュウジっていうのはどう?おまえの名前はリュウジだよ。いい?」


 思いついた名前を言ってみた。

 私にネーミングセンスはこの際おいておく。

 だが竜は羽をゆらしながら、嬉しそうに少しの間部屋を歩き回る。


「じゃあ今日からお前はリュウジだよ。私はセシル。よろしくね」


 私は竜を指さし、その後に自分を指さした。

 リュウジはジャンプして私に抱きついて来る。

 

「今日はとりあえず、一緒に寝ようか」


 私はリュウジを抱きかかえてベッドに横たわる。

 リュウジのあたたかいぬくもりが伝わってきた。


 そうはいっても、寮で飼うわけにはいかないだろうし、少々困った事になったかもしれない。

 だが明日の事は明日考えればいい。

 私はそう考えつつ眠りについた。


「おはよう」

「クー、クー」

 

 私の隣に横たわっているリュウジをなでる。

 そういえば私はペットを飼ったことがない。

 前世の家族はペットというものが嫌いだった。

 

 今世では、馬や母の使い魔の猫や鳥は世話したことはある。

 だがあれはペットだとは言えないだろう。


 リュウジはうろうろして、窓の外をながめ、私を見て鳴く。

 なんとなくトイレに行きたいのではとひらめいた。


「ちょっと待ってて」


 私はそっと廊下を見る。

 朝早く、まだ眠っている生徒も多いようだ。

 私はリュウジをマントでくるんで全速力でお手洗いまで行く。

 そして用をすませたあと、再び部屋に戻った。

 幸いなことに、誰にも見つからなかった。


「まずは朝ごはんだよなぁ」


 私はリュウジに、ここで待っているように言う。

 私の言いたい事がわかったのか、リュウジは大人しく椅子に腰かけた。

 私はエマの部屋へと向かった。

 エマはすでに起きていた。


「実はさ、あの竜が戻って来ちゃったんだよね」

「ええ!」


 私はリュウジの朝ご飯を確保するために協力を求める。

 エマは余計な事は言わなかった。

 食堂へ降りていくと、ちょうどアリスと出会う。


「実はさ……」


 ここでアリスを無視して事を運べば怪しまれるだろう。

 私はアリスにも事情を話す。


「わかりました……っす」


 アリスは小声で返事をした。

 私たちはまずは通常のように朝食をとる。

 そして周囲の様子をうかがうと、手分けしてこっそりと服の下にパンの切れ端を隠す。


「セシル先輩……これを」


 アリスがリンゴを差し出す。


「いいよ。そこまでは」

「この間のお礼っす。図書館で本を譲ってもらったっすから」


 アリスは多少未練そうな表情をしていたが、目をつぶってそっと私の服の下に押し込んだ。


「ありがとう」


 私は笑顔で受け取る。

 とりあえずはアリスの好意に甘えることにした。

 いずれ別の形で返せばいい。


 それから私の部屋に戻り、待ちかねていたらしいリュウジに確保してきた朝食を与える。


「可愛いっすねぇ」


 リュウジはパンの切れ端を食べ、水を飲む。

 その様子をアリスは目を輝かせて見ていた。


「リュウジ、これ食べる?」


 私はナイフでリンゴを切り分け、リュウジの口の前に持っていく。

 リュウジは匂いを嗅いでいたが、安全だと思ったのか、一息で飲み込んだ。


「クー、クー、キュルルル」


 羽を動かして私に向かって鳴く。

 もっとくれというのはわかったので、私は残り全部をリュウジに食べさせた。


「ごめんね。それしかないんだ」


 私が言うと、少し残念そうに水を飲む。


「リュウジっていうんすねぇ」

「そうだよ。昨日名付けたの。でもパンやリンゴなんかあげても大丈夫かな?」

「普通は何でも食べるから。竜によっては木や岩だって。そんなひ弱な竜はいないと思うけど、セシル」


 とはいえ、授業の時間はせまっている。

 リュウジをここに放っておくわけにもいかない。

 だが私の戸惑いも長くは続かなかった。


「セシル、いるんだろ?」


 ノックの音に続いて少年の声がする。

 それは当然ながらクローヴィスだった。


「どうぞ」


 私は鍵をあけて、彼を招き入れる。


「やっぱりか。ここしかないと思っていたけど」


 クローヴィスはリュウジに目をやる。


「グググ、ギューギューギュー」


 リュウジは私の後ろに隠れ、そっと頭だけのぞかせ、抗議の声をあげる。


「失礼かもしれないですけど、妙な事はしてないでしょうね?」

「別に大したことはしてないさ。とにかく暴れてね。上級魔術師十人がかりでようやく魔力の檻に閉じ込めたのだが逃げ出してな。どうも魔法があまりきかないらしい」


「それは……」


 私はリュウジに目を落とす。

 リュウジは私の脚を這い上がろうとしていたので、抱っこしてやる。


「その竜は物凄い魔力を秘めている、というわけでもなさそうなのだ。微弱な魔力しか感じない。不思議だ。どことなく君の力に似ている」


 やはりリュウジは普通の竜と違うのだろうか。

 普通の竜がどんなものか、私は知らないが。


「この子は嫌がっています。檻にとじこめなくても、調査はできるでしょう?」

「なぜか君の言う事は聞くようだな。まさか君の使い魔という事は……いや」


 自分の言葉に馬鹿馬鹿しさを覚えたのか、クローヴィスはかぶりを振った。

 何千年も封印され、発見されなかった部屋にいた生き物が、私と何かかかわりがあるはずもなかった。


「とりあえず、今日は実験棟の一室にでもいてもらう他はあるまい。後の事はそれからだ」


 こうして私とクローヴィスは、学院の研究棟に向かう。

 彼に導かれ、一つの部屋の前にやってきた。


『第三文明研究室』というプレートがある。


「ジュスラン、いるか?」

「でかい声出さないでも聞こえてるぞ、クローヴィス」


 中から出てきたのは、神経質そうな顔をした男だった。


「大丈夫だセシル。愛想は悪いが信頼できる」

「セシルと言います。よろしくお願いします」


 とりあえずこの場はクローヴィスの言う通りにする他はない。

 リュウジを預かってくれるように、私とクローヴィスは頼む。

 仕方ないという表情で、ジュスランは軽くうなずいた。


「なぁリュウジ。とりあえず昼間はここにいてくれ。絶対あとで迎えにくるから」


 私はリュウジを抱き上げ、顔を見ながら、何度も言い聞かせる。


「クー、クー、キュー……」


 リュウジは私の言っていることを理解したのか、下を向いてうなだれる。

 私はそのリュウジをそっと抱きしめると、研究室をあとにした。

読んでいただき、ありがとうございます。

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