048 古代の竜
私はすぐに体勢を立て直したが、真っ暗な穴を滑り落ちていく。
自分でブレーキをかけようとしたが、やがて勾配はゆるやかになり、しばらくすると小部屋へと到達した。
そして私の目が暗闇に慣れる前に、うっすらと灯りがともる。
そこはどうやら宝物庫のような部屋だった。
見慣れない装置や武器、本や石板がある。
見回したが、出口らしきものは見当たらなかった。
(困ったな、これは)
いざとなったら、元来た穴を登っていくか、壁をぶち破って外にでるしかないか。
そう思った時だった。
私の目は部屋の隅に吸い寄せられる。
周囲より少しだけ高くなった台座の上に、五十センチくらいの大きな卵が乗っている。
それが微妙に揺れていた。
(え……やば)
こんな狭い部屋で、未知の生物と一緒にとじこめられるなんて、ぞっとしない。
鳥か蛇か、それとも何らかの魔物か。
蛇だけは勘弁して欲しかった。
足が無いものが動き回るのは、前世から私は耐えられない。
そして卵にひびが入り、中から黄金色の毛に包まれた生き物が出現する。
(トカゲ?……いや)
どうも本で見た竜の子供に似ている。
「クー、クー」
その生き物は鳴き声をあげると、よちよちと私に向かって歩み寄る。
そして私の脚の間に来ると、身体をこすりつけ、つぶらな瞳で私を見上げた。
(か、可愛い……)
私はそっと手を差し出すと、その竜の子供はペロペロと舐めた。
頭をなでると、目を細めて喉をならす。
「なぁ、ずっとここにいたのか?お前は誰なんだ?」
竜の子供は首をかしげて私を見る。
竜というのはかなり知能が高い生き物らしいが、私の言う事を理解しているのかわからない。
「ここからどうやって出るか、お前は……知らないよなぁ」
私は壁を叩きながら部屋を歩く。
竜の子供はその私の後をついてくる。
その時かすかに私を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!ここだよ!」
私も叫び返す。
そして壁に手ごたえを感じる。
力をこめて押すと、壁の一部が奥へと動いた。
どうやら回転扉のようになっていたらしい。
「セシルさん!」
「セシル先輩」
通路の向こうに、アリスとマルスの姿が見えた。
「よかったです、無事で……こんなところに部屋があったんですね」
「心配しましたよ、先輩」
「クー、クー……キュルルル」
その時私の脚の間にいた竜が声を上げる。
アリスが目を見開いて、私と竜を見比べる。
「何すかそれ……まさか……あの……先輩が産んだっすか?」
「違うって!」
次第に人が集まってくる。
口々に驚きの声があがる。
「おおこれは」
「こんな所にまだ発見されていない宝物庫があったとは」
「でかしたぞ、セシル」
「いや、まぁその……単なる偶然で」
クローヴィスの言葉に私は何といってよいかわからずそう答えた。
結局私は「光の遺跡」の隠し部屋を発見した功労者という事になってしまったようだった。
それまでの授業は中断され、早速部屋の探索へとうつる。
「おおこれは」
「古代文字のようだが、どの言語かはすぐにはわかりませんな」
宝物庫には、古代遺物や呪文書、古文書等が山のようにあった。
「とりあえず今日は、全て調べるのは無理だな。後日専門の調査団を派遣しよう」
クローヴィスはそう言うと、私の足元を見る。
「それは何だねセシル君?」
「いや、私にもさっぱり。部屋にあった卵が割れて、そこから出てきた生き物で……」
教官が私に向かってたずねたが、私だってわからない。
「クー、クー、クー」
一人の生徒が近づいて触れようとすると、竜の子供は抗議の声を上げる。
そして一層私の脚にしがみついた。
というわけで、私たちは光の遺跡を後にすることになった。
竜の子は仕方ないので、私が抱きかかえて運ぶ。
そして私たちは一旦学校へと戻る。
「その竜を、ここに置いておくわけにもいくまい」
「はぁ……まぁそれは確かに」
私は膝の上に座る竜の子をそっとなでる。
実習室の中には、クローヴィスと教官がいた。
「しかしあの部屋にあったものは、おそらくは数千年前のものだ。とするとそれは、ずっと昔の古代竜ということになるな」
「生まれたばかりの子竜のようですし、おそらくは卵の状態で封印されていたのでしょうけれど」
クローヴィスの言葉に私がそう言った時、ノックの音がして、数人の魔術師らしき人間が入ってきた。
「あらかじめ連絡しておいた。この竜は帝国の研究所で預かる。色々調査もしなければならんしな」
「え?でも……まさか……」
「別に解剖したりはしないさ。もしかしたら毒を持っているかもしれんし、どんな性質の生き物なのかもわからん」
確かに私もこの世界の竜については良く知らない。
知性が高い生き物ではあるらしいが……
目を落とすと、子竜は不安そうに私達の顔を見回している。
「ごめんね。あなたと一緒にはいられないの」
「クー、クー、クー」
子竜は私にしがみつく。
それからが大変だった。
ひとしきり暴れまわり、魔術師が拘束魔法を使おうとしたが……
「これは……魔術がうまくかかりません。完全に遮断しているわけではありませんが」
「ふむ。あのような場所にいたからには、ただの竜ではないと思っていたが」
竜は念のためにと持ってきていたらしい檻に入れられてしまった。
「ごめんね。絶対あとで会いに行くから」
私の言葉に、ようやく諦めたのか竜はうなだれる。
私はたまらずクローヴィスに尋ねる。
「この子とここで一緒に暮らすのはだめでしょうか?」
「そういうわけにはいかないさ。どんな力を持っているか、どのような生態か、どのくらいの狂暴性があるのかもわからんのだ。一般的には竜は知性が高く、無暗に人を襲う生き物ではないがな」
クローヴィスにそう言われては、返す言葉がなかった。
私一人ならまだしも、他の人間に迷惑がかかる事があっては、責任のとりようがない。
「何か後味悪いよね」
「仕方ないんじゃない、セシル」
「セシル先輩を親だと思ってるのかもしれないっすね」
夕食はエマ、アリスと一緒だった。
話題はやはり今日の実習のことだ。
「ここは天国っす。食べ物は美味しいし、本はいっぱいあるし。この学校に来て良かったっす」
アリスはにこにこしながら言う。
アリスは長耳族の国として知られる、ルディアの東方にあるキンメリア王国の出身らしい。
最初は無口で引っ込み思案な性格なのかと思ったが、そんなこともないようだ。
気心の知れた人相手なら、元々おしゃべりなのかもしれない。
食事の後、私は二人と別れ部屋に戻る。
お風呂に入りベッドに横たわった後も、なかなか寝付けなかった。
ふと思い出したのは前世の出来事だった。
(そういえば、子猫を助けたっけ)
あれは確か私が死ぬ直前のはずだった。
あの鳴き声とぬくもりは覚えている。
不思議なほどに、前世の生活になつかしさは感じない。
私が死んだあとはどうなったのだろうと思う事はある。
だが仮に生き返ったとしても、帰りたい場所も会いたい人もいない……
その時だった。
コツン
コツン
何かが窓を叩く音がする。
私はある予感にかられて、ベッドから飛び起きた。
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