046 隠された王子
「あ、いや……私は別にそういうものでは」
私はあわてて両手をあげて、害意が無い事をしめそうとした。
ところどころに設置された魔導灯が私たちを照らしている。
私はその男の子をちらりと見る。
最初に思ったほど幼くはない。
私より三、四歳下といったところだろう。
「黙れ!女にしては高すぎる身長。鋭い目と牙、隙の無い身のこなし。どう考えても、僕を暗殺するためにやってきた鬼族だろう」
「いや、その……私は、この宮殿に招かれた客でして」
これほどはっきりと鬼族だと言われたのは初めてだ。
やっぱり私の見た目は普通の人と違うのだと、あらためて思い知らされる。
そして建物から二人の人影があらわれた。
「殿下!」
「カール様」
中年の二人の男女だった。
男が私との間に立ち、女は少年を抱きしめる。
「この方が何をなさったというのですか?なぜ何の罪の無いこの方が死なねばならぬのですか!」
「ディアーヌ殿、下がっていなされ」
男が一歩進み出る。
手に杖を持ち、こちらに向かって突き出す。
「あなたたちに害を加えるつもりはないです。とにかく話を……」
「屋敷を覆う障壁を破って侵入してきたからには、殿下のお命を狙う刺客以外何があるというのだ」
「それは驚かせて申し訳ありません。わざとではないのです。ごめんなさい。ただ……とにかく乱暴な事はやめてください。私、強いですよ」
「黙れ!」
それなりの魔術の使い手なのだろうか?
杖の先から炎の槍が私目掛けて射出される。
だが当然のことながら、私に触れる前に炎の槍は消え去った。
「なんだと!」
男の顔が驚愕の表情に彩られる。
「風刃!」
すぐさま、女の声が響く。
だが風の刃も、私の服に一筋の傷をつけることすらできなかった。
神力無効の力は、魔法が私の体に直接触れなくても作用するのはありがたい。
服を切り裂かれなくて幸いである。
一瞬の間の後、男が杖で打ちかかってくる。
なかなか鋭い攻撃だったが、私は難なく片手で受け止める。
回転させつつ棒を奪うと、片手に力をこめる。
鈍い音を立てて、棒は折れた。
「もうやめましょう。尊いお方のお住まいに許可なく足を踏み入れたことは謝罪いたします。ただ実は私も少々困っておりまして」
しばらく沈黙の時間が流れる。
「おまえは一体何者だ」
中年男の声は少し震えていた。
私の鋭い嗅覚は、体臭変化からも男の緊張状態をとらえていた。
「セシルと申します。今日は宮殿に招かれた客人的な立場でして。あ、障壁の事はあんまり気にしないでください。これは生まれつきの体質みたいなもので」
私は軽く頭を下げる。
それまで黙っていた少年が口を開く。
「やめろ、ディアーヌ、ガストン」
「しかし、殿下……」
「こいつが僕たちを殺そうと思えば、いつでも殺せたはずだ。話を聞いてみようではないか」
少年は男に落ち着いた声で言う。
ようやくまともに話になりそうで、私はほっとする。
「無断で侵入した事は、重ねてお詫びします。中庭を散歩していたら、迷いこんでしまって。私が泊まっていた客室がどこにあるのかだけ教えていただければ幸いです」
相手にこれ以上の無用な恐怖を与えないように、私はなるべく落ち着いた柔らかな声色をつくる。
「それなら多分、ここから東にある、あの赤い屋根の棟だろうが……それより、お前強いな。名は何という?」
少年の瞳が興味深そうにきらめいた。
「セシルと申します……殿下」
私は念のために敬称をつける。
「カールでいい。お前は誰に呼ばれたのか?」
「第一皇子のクローヴィス殿下です」
「お前はクローヴィスの臣下か?」
「いえ、同じ高等学院の先輩で。特に仲が良いというわけでも」
私の言葉は歯切れが悪くなる。
クローヴィスとどういう関係かと聞かれても、若干困る。
ルディア帝国の国民として、帝室には従わねばならないのだろうが、私は彼に仕えているわけではない。
別に嫌いではないが、特に好意を抱いているわけでもないし、これ以上仲良くしたいわけでもない。
「ふむ。そうか。では頼みがある。僕を強くしてくれ」
私の言葉に何かを感じ取ったのか、カールという少年は言った。
「殿下!」
ディアーヌという女性が叫ぶ。
「僕は強くあらねばならんのだ」
カールはきっぱりといった。
私はそっと三人を観察する。
事情がさっぱりわからない。
カールが高貴な血を引く王子であるのは確かなのだろう。
それにしてはなぜこれほど暗殺者を警戒していたのか。
なにやら皇帝家にまつわるきな臭いものを感じる。
その時一斉に、周囲の魔導灯に火がともった。
「セシル!セシルどこ?」
「セシルさん!」
私を呼ぶ声は、エマとマルスのものだった。
「マルス、エマ、こっちだよ!」
私の声が聞こえたのか、幾人かの集団がこちらへやってきた。
マルス、エマ、騎士や魔術師らしき人間に、クローヴィスだ。
「すいません、夜の散歩をしているうちに、こんな所まで迷い込んでしまって。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
私は皆が何も言わないうちに一気にまくしたて、頭を下げた。
こういう時は先に謝るに限る。
「そうか。それはこちらも不手際だった」
クローヴィスが背後の部下をちらりと見る。
「いえ、殿下。障壁は破られておりませんでした。臣も一体なにがどうなっているのやら」
フードを被った魔術師らしき男が、下を向きながらおどおどと言い訳がましく言う。
「すいません。あの、この人のせいじゃなくて、私が悪いんです」
「ふむ。なるほど……」
クローヴィス皇子が私を意味ありげな目でじっと見つめてきた。
「まぁとにかく夜の散歩も十分楽しんだろう?そろそろ休んではどうかな」
「はいそういたします」
「いや、こちらの不注意もあったからな。気にしなくていい、セシル」
そこでクローヴィスは、カール王子の方を向いて言った。
「さわがせてすまなかったな、カール」
「いや、クローヴィス」
双方とも無表情であり、その心の奥に何があるのかは、うかがい知れなかった。
エマやマルス以外の周囲の人間は、私を若干薄気味悪そうに見ていた。
おそらくは私の神力無効の力のせいだろうが、先ほど王子に言われた言葉も引っかかっていた。
やっぱり私の見た目は怖いのか。
エマは私の事を美人でかっこいいとほめてくれる。
逆にエマ以外は言ってくれない。
つまり……そういうこと……か?
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