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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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030 【マルス視点】気になるあの人

 セシルさんに初めて会った時の事はよく覚えている。


 美しい顔と印象的な目。

 何よりも恐ろしいほどの戦闘力を内に秘めていた。 

 そして不思議な事に全く魔力を感じない。

 彼女の魔力が微小なのか、それとも魔力を隠蔽する技術に長けているのかはわからなかった。


「私はセシル。セシル・シャンタル。あなたは?」

「マルス。マルス・カスタニエです」


 これが初めての出会いだった。



 僕ことマルス・カスタニエは、帝都の貧しい地区で育った。

 物心ついた頃から、近所の獣人や長耳族(エルフ)の子供たちと遊び、街の塾へと通った。


 平民の娘であった母が、公爵である父の館へ奉公に行くうちに見初められ、僕が生まれたというわけだ。

 当然父には正式に結婚している女性がいた。

 そして生まれたばかりの僕は、母とともに屋敷を追い出されたという。

  

『実はあなたは由緒ある帝国貴族の息子なのです』


 正直母の言葉を信じていたわけではなかった。

 母は、お針子、花売り、酒場の給仕と、朝から晩まで働きづめだった。

 住む場所もしょっちゅう変わった。

 僕が貴族の息子なんていうのは、貧しい日々の暮らしが生んだ母の妄想なのではないかと、そう思っていた。

 

 母はできるかぎり僕に教育を授けようとしてくれていた。

 時には自らリヤウス教の教典を読み聞かせてくれた。

 塾の勉強でも道場の剣術でも、僕はいつもトップクラスの成績だった。

 母はいつも喜んでくれた。


 僕の住んでいた地域は、正直治安がいいとはお世辞にも言えない。

 子供同士に限らず、けんかやいざこざはしょっちゅうだ。

 そんな時に知り合ったのが、ガバロさんだった。

 だが母は僕が八歳の時に、流行り病にかかって亡くなった。


『何もしてあげられなくて、ごめんね』


 それが母の最期の言葉だった。

 僕は途方にくれていた。


 悲しみよりも、母の死が信じられず、実感がわかないというのが正直なところだった。

 とはいえ、僕の戸惑いも長くは続かなかった。

 翌日僕の家の前に豪華な馬車が止まった。


『間に合わなかったか……今まで苦労をかけてすまない、マルス。これからはずっと一緒に暮らそう』


 それは、どことなく僕と似ている金髪の美しい少年だった。

 母は亡くなる直前に、僕を頼むと父に手紙を出したらしい。

 

 後から知ったが、僕を屋敷へ招き入れるに際し、当然ながら義母は反対し父も渋ったという。

 だが兄は強硬に主張した。


 まだ十歳の子供といえどもその頃から兄の力は、一族内では無視できないものだったらしい。

 剣にも魔力にもすぐれ、頭もよく、さらには帝国の第一皇子たるクローヴィス殿下とも幼馴染である。

 

 ことに一族に伝わる伝説の神器を扱えるという事で、兄の発言権は増した。

 神器の力を引き出せる人間というのは、一族の血を引く人間であっても、めったにいない。

 結局父も義母も、僕を迎え入れるという兄の言葉を受け入れたとのことだった。


 僕は部屋とお付きの侍女と家庭教師を与えられた。

 僕の自室だけで、貧乏長屋の一棟くらいはありそうだった。

 庭も信じられないくらい広く、内装も調度品もどのくらい高価なものなのか見当すらつかない。


 兄は優しかった。

 何でも教えてくれた。


 僕はひたすら勉強や剣術の練習に励んだ。

 後から考えれば、母が亡くなった悲しみを紛らわせようという行為だったのかもしれない。

 十歳の魔力測定の時も、兄を除けばここ数十年で一族内でトップだったという。

 兄はとても喜び、その日に屋敷の宝物庫に連れていかれた。


『これを持ってみて、マルス』


 それは一振りの剣だった。

 僕がそれを握りしめる。

 すると剣から虹色の輝きが沸き起こり、それは部屋中に広がった。 


『やはりか。神器の本当の継承者は僕じゃない。お前だよ、マルス』


 あとから知ったが、それは伝説の十二の神器の一つ、風の神リボーグの剣らしかった。


 だが兄が優しくしてくれればくれるほど、僕はつらかった。

 勉強でも剣でも魔法でも、何一つ兄に勝てる物がなかった。


 兄に出会うまで、僕はそれなりに自信があった。

 だが何事も上には上がいるという事実を思い知らされた。

 兄のそばにいると、僕はいつも劣等感を抱いてしまう。


『しょせんは卑しい平民の血を引く子供よな』

『何一つお兄様にかなわないんじゃ、先が思いやられるわ』

 

 口さがない使用人達の言葉はたびたび耳に入った。

 客観的に見て、僕だってそれほどできそこないというわけではなかったろう。

 だが彼らの言っている事にも、一片の真実は含まれていた。 


『高等学院へ行きたいんです。マルス・カスタニエとして。基金のための試験も受けました』

『そんな必要はないだろう。正式に家名を名乗ればいい。父上にも母上にも、何も言わせないさ』

『僕は自分の力で何とかしたいんです』


 僕はまだ一族のお披露目をしていなかった。

 最後には兄も折れた。

 高等学院は帝国有数の名門だ。

 

 まだ僕は将来の事をはっきりとは決めていなかった。

 だが高等学院に入れば、何にでもなれる。

 聖女ですら、神殿学校ではなく、高等学院を卒業しなければならないほどだ。


 こうして僕は高等学院へと進学することになった。

 そしてセシルさんと出会ったわけだ。


 その後も彼女とちょくちょく顔を合わせるようになり、言葉をかわすようになった。

 次に会ったのは剣術実習の授業だった。

 授業のトーナメントでの決勝の相手は、当然のことながら彼女だった。

 

 僕が唯一兄に勝っているかもしれない点。

 それは気配を消すことだ。

 初見で僕の動き出しを察知された事は無く、兄にすら最初は攻撃が当たった。

 僕が踏み込み剣を突き出した時、彼女はまだ反応していなかった。


(勝った!)


 たとえ世界最高の剣士であろうと、かわせない。

 その確信があった。


 だが次の瞬間、僕の剣は空を切る。

 僕の剣は彼女の影すらとらえられずにかわされ、僕の胴を彼女の木剣が軽く叩く。


「さすがですね、セシルさん。兄以外であれをかわされたのは初めてですよ」

「いや、運が良かっただけだよ。強かったよマルスは。私が今まで戦った中で一番」


 僕の言葉に対する彼女の返答がそれだった。

 正直お世辞にしか思えなかったけれど。


 それ以降、僕は廊下ですれ違ったり、彼女の寮との合同授業では挨拶程度はかわすようになった。

 彼女はエマという女生徒と一緒にいることが多かった。


 最初に感じた通り、彼女は魔法が使えないらしい。

 実際はそういう人間がほとんどだろうが、そもそもそういう人間はこの学校に来ないはずだ。

 それに魔法が使えないのはともかく、魔力を全く持たないという事などありえるのだろうか?


 そして奉仕活動の授業で、彼女と一緒に『聖クラリッサ孤児院』へと行く事になる。

 僕が住んでいた近くの東区ラルズレー通りにあり、孤児院の子供とも遊んだ事があった。

 福祉施設の訪問だの神殿での奉仕作業は授業の一環である。


 貴族たちはやたらと慈善活動をアピールしたがる。

 だが僕は貧しいとはどういう事か知っている。

 

 罵声もとんで来なければ危険な目にあうこともない。

 清潔で安全な場所でにこやかに会話し、恵まれない子供たちの話を聞いて涙を流す。

 彼らのすることなど、単に自己満足の偽善にしか思えなかった。


 だから彼女たちが『聖クラリッサ孤児院』に行くと決めた時は驚いた。

 そして思わず、僕も行くと言ってしまった。


 孤児院は想像以上にひどかった。

 壁も床も扉もボロボロである。

 施設長の言葉によれば、どういうわけか運営費が十分にもらえないのだという。


 そして彼女たちはどうやらあの孤児院のために活動する事に決めたようだった。

 学校で募金活動をはじめたのだ。

 当然ながら、皆に無視されていたが。


 「でも、なんでそんなに肩入れするんですか?一回訪問しただけでしょう?授業の単位のためですか?」


 僕は聞いてみた。

 あの子たちには色々な可能性があるので、力になりたい。


 それがセシルさんの返事だった。

 正直よくわからない。


 他人への過剰な同情心や哀れみを抱いていれば、生きていけない。

 幼い頃の僕はそんな環境で育っていた。

 

 彼女は普通の人とはどこか違った。

 聖女にでもなるつもりだろうか?

 

 実際は、立派な志で聖女になる人間ばかりではない。

 リヤウス教団はこの大陸では大きな力を持ち、名門貴族は一族の人間を教団へと送り込んでいる。

 さらに平民が権力をもつためには、神職につくのがほぼ唯一の道だ。

 何しろこの国では皇帝ですら、リヤウス教の大祭司長が任命するのだから。


 結局孤児院の活動資金を得るために、パンを作って売る事になったらしい。

 そんなことでどうにもならないだろうと思ったが、彼女のパンは悪くなかった。

 聖女である彼女の母から習ったらしい。


 それからはとんとん拍子に事がはこんだ。

 壊れた施設もエマの祖父が直してくれることになったらしい。

 僕も多少手伝ったが、セシルの作ったパンは大人気で飛ぶように売れた。

 施設の運営費全てをまかなう事などできるはずもないが、いくらかの足しになるに違いない。


 そんなある日に、あの誘拐事件が起こった。

 ロンとクルトという少年たちがガバロ団にさらわれたのだという。

 どうやらセシルたちのパンを真似して作り、路上で売ろうとしていたところを捕まったという。


 ガバロ団?

 しかしガバロは子供たちの商売から売上をかすめとるような、ケチな真似はしなかったはずだ。

 あの頃既にそろそろ引退すると言っていたので、代が変わっているのかもしれない。

 

 それにしても、いくら治安の悪い地域とはいえ、真昼間から大胆なことだ。

 ロンとクルトの商売そのものというより、彼らの身柄自体が目的だろうか。

 東方ではまだ奴隷制度が残っているという。

 しかし正面切ってリヤウス教の孤児院の子供をさらうとは、想定外だった。


 そういえば兄が話していた気がする。

 このところデギル教の信者が増えており、活動も活発化しているそうだ。

 もしかすると、それと関係あるのだろうか。


「ガバロ団か……セシルさん。ちょっとだけ待ってもらえませんか?」


 僕はそういうと、孤児院を後にした。

 ガバロなら話せばわかってくれるだろう。

 そして色々あって、僕はガバロの家へとたどり着いた。

 僕の事を覚えている人がいたのは幸いだった。

 

「ガバロさん、お久しぶりです。マルスです」


 ガバロは僕を見ると、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。

 だが僕はすぐに本題に入った。


「ふむ。わかった。すぐ話をつける。妙な事に巻き込んですまねぇな」

「いえ。それより浮かない顔なさってますが、何かあったんですか?」

「それが数日前から、うちの孫娘が倒れてな……いやまぁとりあえずは急ごう」


 孫娘の話はあとで聞くとして、僕たちはガバロ団のアジトへと向かう。

 今はゴランという男が団長をつとめているらしい。


 色々あって一旦は問題は解決し、僕たちはガバロの孫娘の家に行く事になった。

 結果としてセシルさんの秘薬と僕らの治癒魔法で孫娘の病状は回復したのだが、僕たちはゴラン一味の襲撃を受けた。


 どうやらガバロからの言いつけを守らず、悪事に手をそめていたらしい。

 だが今は目的や動機は今はどうでもいい。

 

 気になるのは、男たちの一団の後ろにいる魔術師たちだ。

 デギルの闇の波動を感じる。

 おそらくは暗黒魔法の使い手だろう。


(あの魔術師たちは私が相手する。マルスは後の奴らを頼む。エマたちは家の人を守って)


 僕は軽くうなずく。

 次の瞬間、セシルさんは男たちに向かっていく。

 周囲を取り囲んでいた荒くれ数人を、一瞬で吹っ飛ばす。

 そして魔術師たちの魔法は、彼女の体に触れた瞬間に消滅した。


(障壁(バリア)?……いや)


 相変わらず魔力反応はない。

 そして魔術師たちは一瞬にして戦闘力を奪われた。

 

 その間僕も、雷で男たちをなぎ倒す。

 ただの初級魔法だし、手加減したので死んではいないはずだ。

 魔術師さえいなければ、他におそれるものはなかった。


 魔術師を倒して戻ってきたセシルさんは、今度は相手を片手でつかんで振り回し、男たちの集団にダメージを与える。

 恐ろしいほどの強さだった。

 彼女の戦闘力は既に、最上級の聖騎士すら上回っていたかもしれない。


 結局ゴランは、なぜかその場にいたリーリアに倒された。

 魔術師たちは死に、その他の悪党たちは一網打尽になった。

 この件はどうもきなくさい。

 真相が判明するまで、時間がかかるかもしれない。


 ガバロの孫のキーラは、どうやら密輸だか人身売買だかの現場を目撃してしまったらしい。

 それで魔術で眠らされたというわけだ。


 キーラにはめったにないほどの魔力を感じた。

 もしそれがなければ死んでいたかもしれない。

 ただ貧しい家庭で生まれ、このような場所で育つ彼女に、その才能を開花させる機会はないだろう。

 魔法の才能を磨くための教育を受けるにも、結局お金がかかる。


 学校に帰った僕たちは、当然ながら教官や監督生(プリフェクト)から叱られる。

 学校の外で騒ぎを起こすな、むやみに魔法を使うなと言われていたから当然だろう。

 僕とエマは黙って聞いていた。

 だがセシルさんは猛然と反論する。


「なぜですか?私には納得できません。自分たちの息のかかった神殿や施設におざなりに顔を出し、綺麗な部屋で笑顔で談笑する。それが奉仕活動なんですか?」


 その後に監督生(プリフェクト)副監督生(ヴァイスプリフェクト)の言った事も、彼女に響いているようには思えなかった。

 リーリアとも激しく討論していた。


 僕は彼女からいつのまにか目が離せなくなっていた。


「人は誰しもなりたいものになれる自由があるはずです」


 そんな彼女の言葉が頭から離れなかった。

 僕はそんな事を考えた事もない。

 他の人の口からきいた事もなかった。


 もっと彼女を知りたい。

 彼女のやる事を見ていたい。

 そう思うようになっていた。


「正直セシルさんのやってることが正しいのかはわからないです。でも、僕はセシルさんのやる事が好きですよ」


 それは僕の素直な気持ちだった。


「ありがと、マルス」

 

 彼女は言った。

読んでいただき、ありがとうございます。

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