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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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029 裏切り

「お前は……ゴラン!どういうつもりだ」


 ガバロの声には驚きがあったが、すぐに事情を察したようだった。

 家の周囲には、数十人の男たちがいる。


「時代は変わったんですよ。古い時代の奴には去ってもらわねぇとね」


 ゴランはにやにや笑いながら言う。


「てめぇが禁制の品に手を染めたり、真正のクズどもとつるんでるって噂は聞いてた。あれは本当だったんだな」


「今まで信じてなかった、あんたが甘いんですよ」


「息子夫婦はカタギだ。用があるのはわしだけだろう。この子たちも関係ねぇ」


「そうはいきませんね。あんたの孫娘にはちとまずい所を見られてましてね。ついでにそこの坊やとお嬢ちゃんたちにも役に立ってもらわねぇと」


「正気か!この人達は教会に来てる高等学院の生徒だぞ」


「そいつらはリヤウス教団とは直接関係ない。それに皆平民だから問題ないと聞いてますぜ」


「どうあっても思いとどまる気はなさそうだな」


 ガバロの体が急に何倍にも膨れ上がったように感じる。

 荒くれたちは、一瞬その迫力にひるむ様子を見せた。

 さすがは、かつてのボスというべきだろうか。


 どうやら一戦交えなければおさまらないらしい。

 だが私に恐怖はなかった。

 

「少しは見どころがある奴だと思ったんだけどな。どこで道を外しちまたんだ、ゴラン」


「俺はもうたくさんなんですよ。こんな所で、しみったれた店の上前はねて終わるつもりはないんでね、あんたと違って。美味いもん食って、いい女抱いて、やりたい事やって。じゃなきゃ生きてるなんて言えねぇんでさ」


 ゴランの言葉には奇妙な事に、私の胸をうつ真実の響きがあった。


「そっちのお嬢ちゃんは、妙な知識を持ってるらしいからな。殺すなよ」


 ゴランは私を指さして言った。

 すでにあたりは暗くなっていた。

 通りには人っ子一人いない。

 

 周囲の店や家々の人間も、おそらくは閉じこもり様子をうかがっているのだろう。

 少しやっかいなのは、男たちの集団の後ろにいるフードを被った連中だった。


(あの魔術師たちは私が相手する。マルスは後の奴らを頼む。エマたちは家の人を守って)


 私は小声で囁く。

 エマは無言でうなずき、マルスも余計な事を言わなかった。


 私は目の前の男たち目掛けて突進する。

 たちまち数人が、数メートルも跳ね飛ばされた。

 私はかまわず突き進む。

 

 不意をつかれたはずだが、魔術師たちは迎撃態勢をとる。

 彼らが何者なのかはわからないが、それなりの技量の持ち主だったのかもしれない。

 

 黒い霧が私に向かって伸びる。

 何の魔法かわからないが、おそらくは拘束魔法だろう。

 だがその黒い霧は、私の体に触れるか触れないかのうちに消えた。

 

 魔術師たちは、一瞬何が起こったかわからないように硬直する。


 相手がどのくらいの魔力を持っているか、どのような魔法をつかうのか。

 魔術師ならある程度はわかるものだ。

 騎士や聖騎士達であったとしても魔力を持っているし、主に剣や自分の肉体を媒介とした魔法も使う。

 

 私を見て、魔法がつかえないか、使えても微弱な魔法でしかないと侮ったのだろう。

 魔法が使えるか使えないかで、戦闘力は天と地ほども違う。


 私は彼らの魔術具を破壊し、拳と蹴りで一瞬にして気絶させる。

 死んではいないはずだ、多分。

 

 そしてすぐさま、マルスたちの応援へと向かった。

 ゴランも老いたりとはいえ、まだまだその戦闘力に衰えは見られないようだ。


 だがマルスの力は想像以上だった。

 手にした棒を振ると、発する雷光が数人まとめて打ち倒す。

 男たちの手にした剣や棒はマルスの体に触れることすらできない。


 私は短剣を使う手間すらかけなかった。

 左右の手で、それぞれ暴漢をつかんで振り回し、周囲の人間をなぎ倒した。

 男たちの集団は一瞬にして戦闘力を奪われた。

 残った人間たちは、散り散りになって逃走する。


「待ちやがれ、ゴラン!」

「俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねぇのよ!」


 さすがの判断の早さというべきか、ゴランは一目散に逃げだした。

 その後ろ姿を見る私の脳内に、先ほどのゴランの言葉がよみがえる。

 彼の言葉や行為に同調などできない。

 

 だが彼は少なくとも、自分の願いや望みのために、ためらわず前へ進む人間だったのは確かだろう、前世の私と違って。 

 例えそれが間違ったものであろうと。

 

 その彼の人生が満足いくものだったのかは、わからない。

 ゴランは通りを歩いていた小柄な人影を見つけると、人質にしようとしたのか全速力で近づいた。

 それが彼の最後だった。


「下がれ、下郎!」


 鋭い叫びは少女のものだった。

 次の瞬間、ゴランは無数の風の刃に一瞬で切り裂かれ、地面に倒れ伏して絶命していた。

 

「リーリア?」


 フードを上げた顔は私たちの同級生、公爵令嬢リーリア・ド・クレルモンだった。


 後始末は楽しいものではなかった。

 エマの家の護衛たちが、荒くれどもの集団をとらえ、衛兵の詰所へと突き出す。

 だが魔術師たちはいつの間にか絶命していた。


「仕込んでいた毒を飲んだか、失敗した時は死ぬ暗黒魔術をかけられていたんでしょう」


 とは、マルスの言葉だった。


 どうせ下っ端たちは何も知らないだろう。

 ゴランが死んでしまったので、事件の真相が解明されるかはわからない。


 私たちは、ガバロや息子夫婦、キーラからも何度も御礼を言われた。

 孫のキーラは、ガバロの家に遊びに行っている時、たまたまゴランの悪事を目にしてしまったらしい。

 それで口封じに、黒蓮(ブラックロータス)の粉を吸わされ……ということのようだ。


「何かおおきな荷物がね……よくわかんない」


 小さな子供なので、言う事は要領を得なかった。

 しかし彼女がゴランの悪事を目にしたのは偶然なのだろうか。 


「あの子さ、かなり魔法の才能あるよ」


 マルスの言葉にエマもうなずく。

 本来死んでもおかしくなかったが、私の薬やエマの治癒魔法だけでなく、生来の魔力が彼女を死の淵から救ったのだろうという事だった。


「本当に何とお礼を言っていいか」

「学校の奉仕活動の一環ですし、個人的に何も受け取るわけにはいきません。ご好意は孤児院や教会へお願いします」


 何度目かのお礼を言うガバロの息子に、私はそう告げる。

 期待しすぎてはいけないが、あの孤児院を助けてくれる人間は一人でも多い方がいい。


 そして私たちは学校へと戻る事になった。

 当然のことかもしれないが、帰って来てからは、お説教タイムである。


 担当教官、寮長(ハウスマスター)監督生(プリフェクト)のグレゴリ、副監督生(ヴァイスプリフェクト)のクローヴィス皇子、リーリアとマルスの寮の副監督生(ヴァイスプリフェクト)であるシャルルという少年が私たちの寮の一室に集まる。

 シャルルは名門ロシュフォール家の子息だと、エマがこっそり教えてくれる。

 初めて対面するはずだが、その風貌にはどこか見覚えがある気がした。


 どうせ嘘をついてもすぐにばれる。

 私たちは全てを正直に話した。


「セシル、エマ、マルス。あなたたちはまったく……」


 まずは担当教官の話が始まる。

 昔はどうだったとか、高等学院の設立理念がどうだとか。

 私たちはとりあえず拝聴する。


「今回、大事にならなかったものの、そのように危険なまねは看過できません。それに学外でみだりに魔法を使ってはいけないとあれほど……」

「いえ、私は魔法を使ってません。何しろ使えませんので……ごめんなさい」


 勢いよく宣言したものの、教官に睨まれて、あわてて謝る。


「あなたたちは、あまりにも深入りしすぎています。今後は余計な事をしないように」

「なぜですか?私には納得できません。自分たちの息のかかった神殿や施設におざなりに顔を出し、綺麗な部屋で笑顔で談笑する。それが奉仕活動なんですか?」


 私は語気を強める。


 その時ノックの音がして、地味な格好をした男が一人入ってくる。

 そして副監督生(ヴァイスプリフェクト)のクローヴィスに何やら耳打ちする。


「魔術師達は死に、残った下っ端は何も知らず。大した事はわからんだろうという事だ。だがセシルたちが、街中でみだりに魔法を使い騒ぎを起こしたのは事実。何らの処分無しともいかんだろう」

「まぁまぁ、クローヴィス。そうは言ってもセシルたちは自分の身を守っただけだろう?孤児院の人達もセシルたちに感謝しているそうだし」

 

 監督生(プリフェクト)のグレゴリがとりなす。

 私は大きく息を吸い、言葉を続ける。


「あの子たちには可能性があります。それぞれのやりたい事や夢があります。人は誰しもなりたいものになれる自由があるはずです。だから私はその手助けをしたいのです」


 その時リーリアが言う。


「あなたのその考えは危険だわ」

「なぜ?」

「リヤウス神のもと、教団、皇帝家、貴族、平民、それぞれが分を守り、それぞれの役目を果たす。それこそがこの世の平和と秩序を保つ道よ」

「私はそうは思わないけどね。『人は誰しも己の心のままに歩むべし、従うのはただ神の言葉のみ』と聖女アニエス様も言っておいでだから」


 一同は私とリーリアの言葉の応酬に黙りこくったままだった。

 何となくしらけた雰囲気が漂い、「今後は気を付けるように」という問題先送りの教官の言葉でその場は終わった。 

 結局副監督生(ヴァイスプリフェクト)だというシャルルは、一言も言葉を発しなかった。

 

 私は先ほどの事件を思い出していた。 

 そもそもリーリアは何であんなところにいたのだろう。

 彼女があの場にいる必然性など無いはずだ。

 彼女の振舞いには怪しい点がある。


「気にしないでねセシル。これからも頑張りましょ」

「エマ。変な事に巻き込んでごめんね」

「ううん。そんなことないよ!私だって好きでやってるんだし」


 マルスは別れ際に少し真剣な表情で言う。


「正直セシルさんのやってることが正しいのかはわからないです。でも、僕はセシルさんのやる事が好きですよ」

「ありがと、マルス」

 私が言えるのはそれだけだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

「主人公を応援したい」「続きが気になる」

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