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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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028 黒蓮

 私とマルスは、来訪者の待つ一室へと向かう。

 部屋の前には護衛らしき男が二人立っていた。

 私たちを見ると、軽く礼をする。


「セシル!」

「セシルくん」


 そこにいたのは、エマと監督生(プリフェクト)のグレゴリだった。


「ご心配をおかけしました。わざわざ来ていただいてありがとうございます」

「いや、今来たばかりでね。うちの寮の人間が困っているのを放っておくわけにもいかんさ」


「セシル大丈夫だった?」

「なんともないよ、エマ」


 とりあえず、トラブルは去ったということで、グレゴリは学校へと戻る事になった。


「あまり妙な事に首をつっこまないようにね」


 最後にそう釘をさされた。

 私とエマとマルスは大人しく返事をする。

 しかしわざわざ監督生(プリフェクト)がこんな所まで来るとは驚きだ。


「こっちは何もなかったんだけど、お父さんが心配性でね。警備の人間を凄く沢山寄こしてさ」

「でもこれだけ人がいたら安心だね」

「私が戻って来てから、マルス君からの手紙が来てね。こっちは心配ないから孤児院にいるようにって」


 私たちは広間へと戻る。

 ガバロとファイーナが何やら親し気に話し合っていた。


「おお、セシルさん、エマさん、マルスさん。この度はありがとうございました。ほら、あなたちも」

「ありがとう」

「ごめんなさい、お兄ちゃんお姉ちゃん」


 ファイーナは深々と頭を下げつつ、ロンとクルトに礼を言うよう促す。

 二人も深々とお辞儀をして、それに続く。


「いえいえ、無事で何よりです。もう無茶しないでね」


「悪かったな、こんなチンケな事に巻き込んじまって」


 ガバロは一同に向かって言った。

 私はガバロとファイーナを見比べる。


「もしかして、お二人は知り合いですか?」


 気になって私はたずねてみた。


「引退前までは、ここにもちょくちょく来てたんだけどな」

「ええ。昔からよくしてくださってるの」


 それがガバロとファイーナの返事だった。


「それより、あの話はした方がいいんじゃないの、ガバロ?」

「おう、マルス。いまちょうどファイーナさんとその件でな」


 ガバロは耳をぴくりとさせると、話し出した。

 数日前に孫娘がガバロの家に遊びに来た時、少し目を離している隙に、急に意識を失って倒れてしまったのだという。

 医者や教会で診てもらっても原因がわからない。

 もう三日も寝たきりだそうだ。


 ガバロもその子の両親も裕福ではなく、高位の治癒師に伝手などない。

 どうしたら良いかわからず、途方に暮れているという。


「私も治癒魔法は得意では無くて。今は薬に詳しい者もいないので何とも」

 

 ファイーナは困惑した表情を浮かべる。

 

「必ず助けるなどお約束できませんが、私が診てみましょうか?母に教わって、多少心得はあります」


 私はガバロに言う。

 まがりなりにも、ならず者たちから助けてもらったお礼だ。

 だが、子供がまたトラブルに?

 何かがひっかかる。


「あたしも初歩の治癒魔法なら使えます!ていうか、お父さんなら腕のいいお医者さん知っているかもしれないから、頼んでみようか?」


 エマの言葉に私は少しためらった。 

 エマの父親は悪い人間ではないが、これ以上借りを作りたくない気持ちもある。

 だが私も治療の専門家ではない。

 手立ては多いにこしたことはなかった。


「ありがとう。そちらは悪いけど頼むよ」

「わかった。使いを出すね」

「おお、ありがてぇ。いやこちとら藁にもすがりたい気持ちでね」


 結局は私、マルス、エマの三人で、ガバロの息子の家へと行くことになった。

 息子夫婦はガバロとは別の場所に住んでおり、ここから馬車で三十分もかからないという。 


 ファイーナは当然孤児院へ残る。

 エマが呼んだ護衛数人は同行し、残りは念のためにこの場所にとどまることにした。

 一応話はついたとはいえ、まだ何が起こるかわからない。


 息子夫婦の家は、通りに面した集合住宅の一角だった。

 周囲には、食料品や日用品の店から、酒場や占い屋、何を売っているのかわからない店まで、様々な店舗が立ち並んでいる。


 ガバロの家も近くにあるらしい。

 ファイーナの教会と距離はさほど離れてはいないが、教区は違うという。


「父さん!この人達は?」

「ちょっとした知り合いでな。キーラは?」

「まだ目が覚めません。先ほど来ていただいた司祭様も原因がさっぱりわからないと」


 息子夫婦もまだ二十代であろう獣人族であった。

 私は挨拶もそこそこに、キーラという少女の様子を診る。

 肌の色、瞼の裏、爪、耳や脇の下を調べ、脈をとる。

  

「これは……黒蓮(ブラックロータス)の中毒症状ですね。間違いないかと」


 母からも教わり、一度だけ治療をしていたのを見たことがある。


黒蓮(ブラックロータス)だと!?聞いた事はあるが……でもなんで」


 ガバロが不審そうな声を上げる。

 黒蓮(ブラックロータス)は、幻覚や昏睡状態を引き起こす、いわば麻薬であった。

 麻酔薬として使用されたこともあるようだが、強烈な毒性のため現在では使用も流通も禁止されている。


 ごく一部の神殿で研究用として栽培されているらしいが、栽培自体が難しく、例え裏社会のルートであろうと、ほぼ入手不可能であるはずだ。

 ただ闇魔術、特にデギル教の暗黒魔術において、術の威力を高める補助として使われるという事を母から聞いていた。 

 これは確かにその辺の医師や治癒師では手に負えないだろう。


「暗黒魔術の波動を感じるよ、セシル」

「僕もエマと同意見だ」


 黒蓮(ブラックロータス)を使った暗黒魔術となれば、上位の治癒師や聖女で無ければ解呪は不可能だろう。

 だが母から貰った解毒剤があれば、初歩の治癒魔法でも治せるはずだった。

 もはや一刻の猶予もない。


「一旦寮に帰って解毒剤をとってきます。マントはありませんか?」

「では馬を用意するからそれで」

「いや、大丈夫です、ガバロさん」

「しかしよぉ」

「セシルさんに任せれば大丈夫です、ガバロさん」


 マルスの言葉に何かを感じ取ったのか、ガバロはそれ以上何も言わなかった。


「ここは大丈夫だ。エマの護衛もいるし」

「頼むね、マルス」


 ガバロが使っていたというマントが家にあった。

 彼は大柄なので私にちょうど良い。 

 私はマントを羽織りフードを被ると、家の外へと出る。

 

 なるべく目立つことはしたくないし、校外でみだりに魔法を使う事は禁じられていた。

 私の力は魔法ではないのだが、はた目にはそうは見えないだろう。

 私はなるべく誰かに見られないように祈りながら、路地を全速力で走り出した。


 通りをぬけ、塀を飛び越え、壁を駆け上がって走る。

 私が本気を出せばどのくらいの速度で走れるのかはわからないが、馬よりも速いのは確かだ。

 そして十分ほどで学校へと到着する。

 

 どうせだめだろうが、私はまず奉仕活動の担当教官に報告する。


「前にも言ったはずです。頼まれたことだけやればいいと……」

「わかりました。門限までには戻ってきます」

「これ、待ちなさい。セシル。セシル・シャンタル!」


 私は急いで寮の自室へと急ぐ。

 部屋に入ると棚をあけ薬箱を取り出す。


「これだ」


 茶色の瓶に入った液体。

 私は薬箱をかかえて大急ぎで部屋を出る。

 そして再びガバロの孫の家へと戻った。


「おいおい。高等学院へ行ってきたのか?ここからじゃ、馬でも無理だろうこんな時間じゃ」

 

 ガバロは驚いたような声で言う。


「まぁ、これは生まれつきの体質で」


 私は適当に返事をして、ベッドに寝ている孫娘のもとへと向かう。

 皆が見守る中、私はその子の唇に、茶色の瓶に入った液を数滴たらす。

 

 変化は急激だった。

 キーラというその子の顔にたちまち血色が戻る。

 そして穏やかな寝息を立てる。


「たのむよ、エマ」


 エマは軽くうなずくと、目を閉じて手をかざす。

 やがて女の子の瞼がぴくりと動き、目をひらく。


「……うーん……あれ?ここは?おじいちゃんは?」


「おお、キーラ」

「キーラ」

「キーラぁああ」


 ガバロと息子夫婦は一斉に歓喜の声を上げる。


「あとはゆっくり休めば大丈夫だと思います。食事はミルク粥がいいですね。急に固形物を食べないように。念のために、お医者にも診せた方がいいと思います」

 

 私はほっとため息をつく。

 私にも必ず治るという確信はなかった。

 今回は運が良かったのだろう。


「ありがとうございます、何とお礼を言っていいか……」


 キーラの父が言葉を発したその瞬間、私は外に危険な気配を感じる。

 同時にマルスも扉の方を振り返る。


「……なんだ、お前らは」


 護衛の叫びが聞こえる。

 私は内ももの短剣の感触を確かめる。

 棍棒を手にしたガバロが扉に近づき、一気に扉を開け放った。

読んでいただき、ありがとうございます。

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