027 ガバロ団
「マルス、ガバロ団を知ってるの?」
「ちょっと心当たりがあるんだ」
私はマルスを見る。
そういえば昔この地区に住んでいたと言っていた。
迷っている暇はなかった。
「わかった。そっちは頼むよ」
「私はどうしましょう。ここを離れるわけにはいきませんし」
ファイーナは困惑した声を出す。
「まず学校に連絡した方がいいでしょうね」
「学校ってどういうこと、マルス?」
「担当教官や監督生に連絡するのさ。何かあったらすぐに報告するようにと言ってたろ?教会じゃなくて、僕らが連絡するのだからね」
確かにマルスの言う通りかもしれない。
衛兵も、この教区の人間も頼りにならないとすれば、あとは学校だ。
高等学院は生徒の安全を守る義務がある。
それに学校にも警備の人間もいるし、高度な魔法を使える人間も大勢いる。
気がかりなのは、私たちは全員平民であり、本気で助けてくれるかどうか不明なことだが、今はそんな事を気にしても仕方なかった。
「そうだ。お父さんに連絡して、護衛の兵にきてもらおうよ」
エマが言う。
大商会ともなれば、私兵を雇っているらしい。
なるべく戦力は多い方がいい。
エマは実家へ手紙を書き、孤児院の下働きの男にことづける。
そして彼女は学校へ向かい、マルスは心当たりの場所へと行く事になった。
「ここにセシル一人で大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、エマ。セシルは強い。帝国親衛隊だってかなわないさ」
マルスは力強く断言する。
「それほどでもないけどね。私はここで子供たちを守っているから、二人とも頼むよ」
「お願いします。私も多少魔法が使えます。子供たちとセシルさんを守るくらいなら」
ファイーナも覚悟を決めたようだった。
だが事態は私たちの思惑通りにはいかなかった。
マルスとエマが出立してからしばらくして、ガバロ団の使いの者がやってきたのだ。
要は早く来いとの事だった。
「私が行きます」
これは私が蒔いた種だ。
私が子供たちに言い聞かせていれば、余計なトラブルに巻き込まれる事もなかったのにとも思う。
もっとこの地区の事情を知っていれば。
それとも私のやったことは、余計なことだったのだろうか。
だがそんな事は無いはずだ……いやだめだ。
こんな時にまでくよくよ考えるのは私の悪い癖だった。
「わかりました。これを」
ファイーナは私にベルトと銀細工の短剣を差し出す。
教会にこんなものがある事自体、ここは平和ならざる地区なのだろう。
私は腰にベルトをまき、太腿の所に鞘を吊り下げる。
大きめの作業着に隠れて、外からは見えない。
「行ってきます。もうすぐエマの家の者が来ると思うので、お気をつけて」
私はガバロ団の使者だという小柄な男と共に、彼らのアジトへと向かうことになった。
彼は私を上から下までじろじろ見る。
背丈の割に幼い顔立ちが気になったのかもしれない。
だがまさか私が十四歳だとは思わなかったろう。
「まぁいい、ついてきな」
私一人の身なら何とでもなるという自信があった。
迎えの馬車に乗り、出発する。
不安そうな子供たちに笑顔で手を振った。
「目隠しはしないの?」
「そんな必要はねぇよ。俺たちは何も悪い事してるわけじゃないからな」
子供をさらっておいてそれはないだろうと思ったが、私は返事をせず肩をすくめた。
アジトは異臭を放つ水路の近くにあった。
狭い路地には、家と家の間にロープが渡され、洗濯物が干されている。
男はドアをノックする。
中から眼帯をした、もう一人の男が出てくる。
中肉中背といったところだが、私の方が見下ろす形になる。
「例の教会からだ」
もう一人の男も、じろじろと私を上から下まで見回した。
「まぁいい、入れ」
身体検査もされなかった。
私は中の様子を素早く観察する。
矮人族や獣人、長耳族、人族などの雑多な種族の十人ほどの男たちだった。
奥にフードを被った男が座っているのは、野良魔術師だろうか。
「ロン、クルト大丈夫?」
「お姉ちゃん」
「セシルのお姉ちゃん……」
私を見て、二人の青ざめた顔に希望の光がともる。
「乱暴してないだろうね?」
「今ん所はな。困るんだよなぁ、こういうのは」
私に話しかけた大柄な片目の男が、どうやらボスらしい。
「子供たちは何もしてない。ただパンを売っていただけだと聞いている」
「だからそれがよぉ。うちに断りもなくそういう事やられちゃ困るって言ってるだろ」
周囲の男たちはにやにやと笑っている。
たかが子供のやることに、おおげさなことだ。
「それはすまなかったな。以後気を付ける。そういうことなら、ではな」
私はすたすたと子供たちの所へ歩み寄ろうとした。
だが数人の男に行く手をさえぎられる。
「そうはいかねぇよ。払うもん払ってもらわねぇとなぁ」
やっぱりそういう話になるか。
だがこいつらは大したことない。
どう考えても、野猪や黒色熊の方が強いだろう。
私はすでに相手の力量を見抜いていた。
「セシルのお姉ちゃんは関係ない!」
ロンが叫ぶ。
「ここへ来た時からうるせえんだよ、お前はよぉ」
一人の男がそう言って、ロンに殴りかかろうとする。
だが次の瞬間、私はその男の手をつかんでいた。
「なっ!」
私の動きは、奴らにはとらえられなかったろう。
数メートルを瞬間移動したとしか思えなかったに違いない。
私はその気になれば、常人の目にもとまらぬスピードで動けるのだ。
「先生!」
ボスらしき片目の男が奥の魔術師を振り返る。
「いや、こいつには大した魔法は使えないはずだ」
ボスは私の方を向いて、歪んだ笑みを浮かべた。
「まぁいい。信じられねぇ上等なパンをとんでもない安値で売ってたな。それにあの教会は最近やけに羽振りがいいじゃねぇか。払うもんは払ってもらわねぇとな。じゃなきゃ、あんたら三人まとめて売り飛ばすまでよ」
「あの程度の商売にせこい奴だな。あれは教会の秘密だ。それに人身売買は帝国法で禁じられているよ」
「役人どもはこんなとこまでこないぜ。それにいつまでもリヤウス様の時代じゃねぇんだよ……おっと」
片目の男は口をつぐむ。
なるほど、こいつらはどうやら最底辺のさらに下のクズどもらしい。
帝国では表向きは奴隷も人身売買も無い事になっている。
だが禁止されているという事は、それを行う人間がいるという事だ。
パンがどうとやらは口実で、本命は人身売買なのかもしれない。
しかしいくら柄のよくない地区とはいえ、真っ昼間から子供をさらうとは大胆きわまりない。
彼らの妙な自信の理由は気になる。
だがいずれにせよ、こいつらを叩きのめし、とっつかまえて、役人に引き渡すしかない。
そう思った時だった。
いきなり扉が開いた。
「おいおい、どういうわけだいゴラン」
入ってきたのは、白髪の大柄な獣人とマルス、そして数人の男たちだった。
「先代!」
周囲の荒くれたちは、あわてて一斉に頭を下げる。
ゴランと呼ばれた片目の男は、素早く一同を見回した。
そして表情を消して、他の男たちと同様に、老人に向かって頭を下げた。
「なに、ちょっとした冗談ですよ、先代。おいたが過ぎた坊主どもをちょっとこらしめてやろうと思ってね」
「だとしてもこんな事までする必要はねぇだろうがよ」
「時代が違うんでさぁ。甘い顔ばかりもしてられませんやね」
ゴランは顔を上げて老人を見る。
「ふん。まぁいい。この子たちを連れて帰っていいんだろうな?」
「そりゃもちろん。お騒がせしてすいませんね」
というわけで私たちは、その老人、マルス、ロンとクルト、老人の護衛らしき人間たちと、教会へと戻る事になった。
「とんだ目に合わせちまってすまねぇな。しかしお嬢ちゃんすげぇ度胸だな。感心したぜ」
老人はそういって一笑した。
「助けて頂いてありがとうございます。ところであなたは?」
「セシル、紹介するよ。ガバロさん。昔の知り合いなんだ」
「おうよろしくな、セシルさんとやら」
「あらためてお礼を言います、ガバロさん。マルス、あなたもね」
今はゴランに任せて引退しているが、この老人は先代のボスでガバロ団の創設者らしい。
私たちは馬車に乗り込む。
ロンとクルトはすっかりしょげていた。
「勝手なことしてごめんなさい」
「ごめんなさい」
「いいのよ。無事で良かったわ」
私は二人の頭をなでる。
やがて馬車は孤児院へと到着した。
施設の前には、馬車がとまり、馬がつながれている。
武装した警備の兵らしき人間が何人かいた。
戸口のところにいた人間に、帰還を告げる。
しばらくすると、ファイーナが出てきた。
「おお、セシルさん。お客様がおいでです」
読んでいただき、ありがとうございます。
「主人公を応援したい」「続きが気になる」
そう思った方は
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします。
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。




