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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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026 誘拐事件

 あれから二週間たった。

 ふわふわパンは毎回飛ぶように売れている。

 精製していない小麦粉のものと、中程度の小麦粉のものと二種類作っていた。

 この世界にはまだ純化機(ピュリファイアー)というものが無いようなので、上等の小麦粉は非常に高価らしい。


「土日限定っていうのがいいのかもね、多分」


 エマはそう言う。

 材料は結局ヘルトリング商会から格安で分けてもらっていた。

 私も毎回店に張り付いているわけにもいかない。

 販売は店の人に任せることにした。


 ある日銀行に行き、母から貰った魔法カードを見せると、口座の残高が確認できた。 

 なんと、職人の給料二年分くらいのお金があった。


 知らない間にこんなに稼いでいたとは思いもよらなかった。

 村にいた頃は、川に落ちた馬車を引っ張り上げたり、暴れ牛から幼い少女を助けたりもしたと思う。

 私にとってはたやすい事であるので、何があったか逐一覚えてはいない。

 もしかしたら助けた人の中に、貴族でもいたのだろうか。


 ジルニの粉とロル草は、私が受験の時に泊まった神殿で手に入れる事ができた。

 何度か辞退されたが、私は銀行からおろしたお金をいくらか置いて帰る。

 ロル草は薬草園を整備した後に植えた。

 肥料も水も少なくてすみ、害虫にも強いのが利点であり、十月ごろに葉を収穫予定だ。


 エマの古着と母から送ってもらった服で、子供たちの服装も随分とよくなった。

 そして幸運な事に、エマの祖父のオラフさんの知り合いが、何人か手伝いに来てくれることになった。

 彼らも東方派で、自発的な奉仕活動という事だった。


 そして私もうかつだったが、エマのお店の一角を借りて販売しているのだから、場所代くらいは払わねばならないと気づく。


「とんでもありません。そんなものはいただけませんよ」

「そうよ、セシル。気にしないで」


 父親のヨゼフに続いてエマが言う。

 さらに気にする私に向けて、エマが続ける。


 パンの評判を聞いて、店には客が増えているという。

 目当てのパンだけでなく、他のものも購入していく、相乗効果があるそうだ。


 さらには、教会が生産したものを扱っているというブランド価値。

 それはさらなる信用につながる。

 もちろんヘルトリング商会が所有する店はここだけではないし、一般客だけを相手にしているわけではない。

 

 扱う品目も、食料品、衣料品、建築材料、香辛料等々の多岐にわたる。

 それらへの波及効果も見込める。


「ありがとう」

「ううん。がんばろうね」


 そういうものかはわからないが、そういうものだろうと、自分を納得させる。

 好意に甘えるのも、時には必要だろうと、私は割り切ることにした。


 そして次の週。

 孤児院で落ち合う事をエマと約束し、私はまず朝一番に銀行に寄って預金をおろす。

 それから私は孤児院へと向かった。

 今日はエマの祖父のオラフがいるはずだ。


「おお、セシルさん」

「これを受け取って下さい」


 私はオラフに銀貨の袋を差し出す。

 それは職人の一年分の収入ほどの金額だった。


「ふむ。こういうものは受け取らないと言ったはずじゃがな」

「これは私が稼いだお金の一部です。それに大工仕事までお願いするのは」


 パン窯の修理はともかく、扉や屋根を直すとなると、オラフも専門外だろう。

 どうらや知り合いの大工に頼んでいるようだが。

 

 そこまでしてもらうのは、違う気がする。

 ただ助けてもらいたいわけでもない。

 できるなら、私は施設が自立できる手助けをしたいのだ。


「なるほど。じゃが施設長のファイーナさんは、なんと言われておるのかな?それはこの施設とそれを運営している教会が決めることではないかと思うのじゃが」

「それは…」


 確かにそうだ。

 そこまでは考えてはいなかった。

 私が勝手に決めてよい事ではないかもしれない。

 だがオラフは何かを感じ取ったのか、一笑したあと言った。


「わかった。これは預かっておこう」

「おじいちゃん」

「なに。なかなかしっかりした考えを持つお嬢さんだ」


 私は頭を下げる。

 確かにエマの祖父のオラフが言ったように、施設長のファイーナと話し合うべきだろう。

 あまり先走って、好意の押し付けになってもいけない。

 私はこれからの計画について、ファイーナに話した。 


「わたしどもとしては、ありがたい事です。少しでも運営の足しになれば」


 そのようなファイーナの返事だった。

 私は彼女とエマやマルスも交えて話し合う。


「しかしなんで予算が下りないなんて事になってるのかなぁ」


 と私が言うと、エマがこたえる。


「お父さんが知り合いの司祭さんに、この施設の事を聞いてみたんだって。教区が違うから、よくわからないというのよ」


 教区というのは、組織運営や布教活動の単位である。

 通常はいくつかの教会ごとに定められ、国家で言えば町や村、なんとか伯爵領等のようなものに該当する。

 私はファイーナの方を見る。


「基本的には他の教区の事は、口出しできないのです。他の教会に聞いてみたら、うちの教区は全般的に予算が厳しいのは確かなようです。私は他の教区にも教会にも知り合いも相談できる人もいなくて」


 そんなものだろうか。

 教団の運営については、私たちも踏み込めない。 


「当面私たちが頑張らなくちゃね」

「それがさぁ。お父さんがしつこく聞くんだよね。あのパンはどうやって作ってるんだって」


 やはりか、と私は思った。


「それでエマはどう言ったの」

「セシルしか知らない。これはセシルが聖女のお母さんから習ったもので、教団の秘密なんだから詮索するもんじゃないって」


 実際はそれほどの事はないかもしれないが、エマの好意はありがたかった。


「ありがとうね、エマ」

「あたしがやりたくてやってるんだから気にしないで」

 

 とエマは笑った。

 パン窯の修理も完了し、ふわふわパンはファイーナや手伝いの人間に製法を教え、こちらの施設で作ることにしていた。

 売るためのものだけでなく、自分たちで食べるものもだ。


 パンを膨らませる粉の正体については、誰にも話してはいない。

 よほど詳しいものではないかぎり、何を使っているのかはわからないはずだ。

 

 もちろんパン作りだけでなく、子供たちと遊んだり、勉強を教えたりもする。

 子供たちは、施設の扉や壁も急に新しくなって、大喜びではしゃいでいた。

 

 色々な子がいる。

 大人しい子、頭がいい子、引っ込み思案な子、目立ちたがりな子。

 私は子供たちと、かけっこ、木登り、おままごと、鬼ごっこ等で一緒に遊んだ。

 こういった遊びというのは、異世界も現実世界も大して変わらない。


 マルスは子供たちに剣を教えていた。


「魔法の才能ある子もいますねぇ」


 マルスが言う。

 私には魔法が使えないので、そもそも相手がどのくらいの魔力や魔法の才能を持っているのか、全くわからない。

 

 そんなある日の事だった。


 いつものように、三人で孤児院へ来てみると何やら騒がしい。

 子供達はひそひそと不安げに話し合い、施設長のファイーナは難しい顔をしている。

 

「ロンとクルトがガバロ団の連中につれていかれたんだ」


 一人の子供が言った。

 ガバロ団とはこの一帯を仕切っている、ヤクザやマフィアのような存在らしい。


「衛兵の詰所に連絡しようかと思ったのですが、この地区までは中々来たがらなくて。それと教区の責任者にも使者を送った方がいいのか……これを」


 ファイーナは板切れを差し出す。

 そこには、とある住所が記されている。

 こちらの場所へ来い、誰にも余計な事は言うなと書かれていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。もっとお金があればって。それで……」


 一人の女の子が泣きながら言う。

 他の子供からも事情をきくと、どうやらロンとクルトは、例のふわふわパンを自分たちで作って売ろうとしていたらしい。


 ファイーナの作業をこっそりとのぞき見していたようだ。

 パンをこねるのは子供には大変だろうが、二人ともこの孤児院の中では年長で、力が強い獣人の子供だった。

 そしてそれを近くの路地裏で販売しようとしていたところ、誰に断ってここで商売をしているんだと因縁をつけられ、さらわれたとのことらしかった。


「ガバロ団の方たちは決して悪い人たちではなくて、先代の頃はよくしていただきましたのに」

 

 ファイーナはおろおろした声で言う。


「まさか、子供……しかも教会の運営する孤児院の子供をさらうとはね」


 私はこの世界で得た知識を思い起こす。

 リヤウス教団の力は大きい。

 政治、経済、文化、人々の生活にまで影響を及ぼしている。

 

 帝国各地にほぼ自治領のような領地を持ち、実働部隊すなわち軍事力すら所有している。

 そして形上ではあっても、神聖ルディア帝国の皇帝を任命するのは、リヤウス教団の最高指導者たる大祭司長であった。


「どんなろくでなしのヤバい奴らでも、リヤウス教団に関わる人間にだけは手を出さない。そのはずなんだが……」 


 マルスがあごに手を当て、何やら考え込みながらつぶやく。

 悪党が教団の関係者に手を出さないのは、信仰心からではない。

 魔法がものをいうこの世界で、リヤウス教団は強大な魔術師の部隊をかかえている。

 聖女、聖騎士、聖魔術師。

 

 いくら腕っぷしに多少自信があろうが、ただの一般人が魔術師や聖騎士にかなうはずもない。

 リヤウス教団の人間に手を出したが最後、恐ろしい神罰、つまりは報復を覚悟しなければならない。

 信仰心だけでなく、実力でもって教団はこの世界で大きな勢力をしめているのだ。


 純粋な軍事力なら、当然国家や大貴族たちの方が上だが、教団の人間には各国の貴族や王族もいる。

 その政治力や神の代理人たる宗教的地位に、人々の敬意や信仰心。

 それをたかだか子供のやる事に因縁をつけて誘拐するとは、なにやらきな臭いものを感じる。


 その時マルスが私に向かって言った。


「ガバロ団か……セシルさん。ちょっとだけ待ってもらえませんか?」

読んでいただき、ありがとうございます。

「主人公を応援したい」「続きが気になる」

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