024 母からの手紙
「手紙が届いています」
寮へ帰ると、事務員の男から渡されたのは、一週間前に書いた手紙の返事だった。
母マリアからだ。
私は手紙に目を落とす。
ふと、先ほどの事を思い出した。
『うーむ。これは驚いた。これほどの力を持つものは見たことが無い。強化魔法かな?』
『そうだよ!セシルって凄いんだよ。私を助けてくれたんだ。それに頭もいいし』
『おおそうじゃったな』
『いやぁ……そのまぁ……そんなもので』
そんなこんなでその場はおさまった、と思う。
魔法が当たり前のように存在する世界で、魔法無しにこのような力を使える事を理解してもらうのは難しい。
私だって自分がなぜこういう存在なのかはわからない。
不思議な声が頭の中に響いて、なぜかこのような超絶的なパワーを与えられていたなどと、言えるわけもなかった。
この世界に住んでいるのは人族だけではない。
人族より力が強いといわれるのは、獣人族、竜人族、そして鬼族等である。
私のような力をもっていても、そういうものだと受け取ってもらえるようである。
一応私は何か言われたらどうやら鬼族であるらしいということにしている。
『実は私は母の本当の子ではなくて、よくわからないんです』
ぼかしてそういうと、むしろ同情されたくらいだった。
嘘をついているようで、逆に心が痛む。
私の力や種族に関してはよくわからないのは本当だが、まさか異世界から転生してきた人間だと言うわけにもいかない。
私には時々思い起こす記憶がある。
『機能ロック解除。神力無効を発動します』
『機能ロック解除。鉄の体を解放します』
私の頭の中に響いた声。
あれはなんなのだろうか?
私はもしかすると、ロボットかアンドロイドなのか、人工的につくられた生物なのか。
それは真っ先に思いついた。
しかし、怪我をすれば血が出る。
たまに風邪もひく。
食事や睡眠も必要だ。
だが怪我のなおりは、常人よりも、遥かに早い。
私の頭の中には、AIでも埋め込まれているのだろうか。
それともなにかの魔物にでものっとられているのだろうか?
母は私の特異な体質とでもいうべきものに、気づいていた。
母は私を魔力で探査した。
だが魔力は私の体をとおりぬけることなく消滅する。
『ごめんなさい。あなたのような存在は聞いたことが無いわ。魔法を跳ね返す魔法もあるし、魔法に強い種族もいる。でもあなたはそれとは違う。大祭司長様もわからないとおっしゃっておられた。遥か昔には……いえ……』
この世界にも転生の概念はある。
しかし母には全てを話していない。
私が別世界から転生した人間であることも、頭の中に響く不思議な声のことも。
そんな事を言えば、それこそ頭がおかしくなったと思われるに決まっているし、余計な心配をかけたくなかった。
私はいつものように、目を閉じて念じてみる。
(あなたは誰?私の体は一体どうなっているの?)
だがいつものように、何の声も聞こえず何も起こらなかった。
自分の体の中に、自分ではどうしようもないものがあるという違和感はなかなか慣れない。
ここは前世とは違う。
魔法もあるし、不思議なことも起こる。
そういう世界だし、私はそういう種族なのだろう。
もともと魔法なんて存在しない世界で生きてきたのだからと思うものの、私は諦めきれてはいない。
暇さえあれば母に貰った魔術書を読み、呪文の詠唱は続けている。
私は一つため息をつくと、再び手紙を読み始めた。
――セシル。元気そうでなりよりです――
私の体を気遣う文章に続き、簡単な村の近況が記されていた。
――事情はわかりました。私も教団本部の方へ問い合わせてみます――
私は母にそこまで頼んではいない。
私の文章で何かを察したのだろうか。
――あなたがこれからやる事を応援します。子供たちのための服もいくらか用意できると思います。ジルニの粉とロル草に関しては、入手できる所を紹介します。それと銀行口座の魔法カードを同封します。これはあなたが、村の人たちのために働いた時のお礼を貯めておいたものです。有効に使ってくれると信じています。
それではまた手紙待ってます。あなたの母、マリアより。――
私はあらためて封筒の中を見る。
カードと銀行の所在地や、ジルニの粉とロル草の入手場所などを記した別の用紙が入っていた。
私の口座だというが、どのくらい入金されているのだろうか。
日常生活にお金がさほど必要なわけではないので、手持ちは多くない。
だからありがたい。
さすがに施設の整備費や職人に支払う代金までは負担はできないだろう。
だがパンをつくるにもお金がいる。
パウンドケーキやシフォンケーキにも挑戦したい。
それらを売ってお金をかせげば……
といっても私は商売の事などよく知らない。
エマにも相談しなければならないだろう。
しかし大事なのは、あの孤児院が自立できるようになれるかだ。
パンやケーキやロル草でどこまでの事ができるかはわからない。
ただ、名物として有名になれば、教会や孤児院の知名度を上げる事もできるのではないか。
そうすれば、色々な面で協力を得やすくなるかもしれない。
まぁあまり考えすぎても仕方がない。
今はできることからやるだけだ。
奉仕活動ばかりしているわけにもいかない。
私には母のような聖女になるという大切な目標がある。
勉強も頑張らなければならない。
魔術実習では単位はもらえないだろうから、その分を他で補わないとならない。
聖女科への進学は、競争率も高いらしい。
それに忙しさにかまけてやっていないこともある。
この世界の歴史や魔法についても知りたい。
私のような種族の記録があるのかも調べたい。
せっかくこの国一の学園に入学したのだ。
図書館に通っってみようと思う。
それにロマンス小説や冒険小説も置いているかもしれない。
そうだ、そうしよう。
やりたいことはいっぱいある。
そしてそれをできる立場にいるというのは、幸せな事だ。
「それで、まずどこで売ろうかな」
「教会の方が信用あるかもしれないけどあの場所はねぇ……うちのお店は?商業地区の一等地にあるんだ」
私はエマとおしゃべりしながら校内を歩いていた。
通りすがりの生徒がエマと軽く挨拶をかわしていく。
彼女は私と違って、かなり社交的らしい。
学校の敷地はかなり広い。
教室、食堂、寮、実習棟に研究棟。
大学や各種研究機関も隣接している。
この世界において大学は、法律や神学等、特殊な分野を学ぶ人が行くところであり、現代日本でいうところの大学院のようなものらしい。
「あれ?」
「どうしたのセシル?」
「あっちって研究棟で、私たち関係ないよね?」
「うん。まだ一般教養だから。専攻分野に分かれてから行くところみたいね」
私が目にしたもの。
それは公爵令嬢だというリーリアだった。
あの金髪と背格好や歩き方、ちらりと見えた横顔から間違いない。
彼女は私と同級生だ。
研究棟になんの用なのだろう?
とはいえ、他人の詮索なんてしてもしょうがない。
あちらの方面へ何か用事があったのだろう。
そう思いなおしたものの、この時の私は漠然とした不安のようなものを感じていた。
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