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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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022 救い

「ありがたいお話ですが……」


 孤児院の施設長のファイーナは戸惑っているようだった。

 この施設の力になりたいと、私は率直に申し出た。

 

 建物の修理や掃除、子供たちに勉強を教えることだけでなく、施設が運営していける費用を捻出する手伝いをしたいと言った。

 自分で言っていても、偉そうで大それた事を述べているように思う。

 

「いえ、お気になさらずに。私の母は聖女なのです。困った時はお互い様ですわ」

「しかし、私どもには何もお返しできるものがありません。心苦しい限りです」

「とんでもないですわ。同じリヤウス教の信徒同士。母からは常々、困った人の力になるように言われております。私も高等学院で聖女を目指す身。これも聖女アニエス様のお導きだと思いますわ」


 実際のところ私の内心は、こんなに信心深いわけではない。

 私の好意を偽善だという人もいるだろうか。

 だが何もしないで他人を非難するよりはマシだと思いたい。


「わかりました。お力をお貸しいただけるのであれば、ありがたいです。なんでもお聞きになりたい事があれば」


 ファイーナは何かを決意したように言った。

 私たちを信じたかどうかはわからない。

 どのみちこのまま何もしないでいれば、もって一年と言っていた。

 とりあえず、私たちの話だけでも聞いてみようという事かもしれない。


「寄付をつのるのも難しいとなれば、教会自身がなんらかの収入を得る手段を持った方がいいと、私はそう考えたのです」


 そして私の構想を話す。

 孤児院の運営費を手に入れるには、材料の入手や製造がさほど難しくなく、他では手に入らないものを作って売るしかない事。

 具体的には、パン、ケーキ、薬である。


「おっしゃる通りかもしれません。ですがこの施設には問題がたくさんございまして」


 ファイーナの話は、大方の予想通りだった。

 とにかく人手がたりない。

 施設のあちこちも壊れたままだ。


 こういう時に役に立つのがバザーである。

 不用品を持ち寄って売り、学校や教会、福祉施設の運営費にあてるという、あれだ。

 だがそもそもこのあたりは貧しい人たちしかいない地区で、住民にそんな余裕はない。

 伝手を頼って、貴族にも協力を頼んでみたものの、けんもほろろに断られたという。


「ところでパン窯はあるんですか?」

「ええ。ですが今は壊れてまして」

 

 窯を直す費用も厳しいという。

 労力を考えなければ、小麦を仕入れ、粉にひいて、パンをこねて焼く方が安上がりである。

 だがそれができないので、今はパンを仕入れているという。


 逆説的だが貧乏というのは、金がかかる。

 まとまったお金が用意できないので、高くつくことをしなければならない。

 解決できないパラドックスである。

 

「やれやれ。やるべきことは数限りなくあるということですね」

「マルスくんもまた来るとは思わなかったよ」


 当然ながらというべきか、マルスとエマも一緒だ。


「それで、あのパンはいかがでしたか?」


 私は先ほど、子供たちと一緒に食べたパンの感想をたずねる。


「素晴らしいですよ。ふっくらとして柔らかくて美味しくて。でもあれはよほど高くつくものでしょう?」

「いえ、そんな事はないんですよ」


 材料は、小麦粉、塩、水。

 それにジルニの粉とレモンだ。

 エマに聞いたところ、レモンは帝国の南方で主に栽培されており、比較的手に入りやすいそうだ。

 ジルニの粉自体も、さほど高価なものではないはずだ。


「なるほど。作って売れれば、いくらかの運営費用の足しにはなるかもしれません。以前はこちらの薬草園で作ったものを、調合して販売したりもしていたのですが」

 

 ファイーナの言葉に、私とエマは顔を見合わせる。

 これは希望があるかもしれない。


「今はされておられないんですか?」

「お恥ずかしい話ですが、それどころではないというのが現状です」


 人手もたりないし、設備も破損している。

 施設のあちこちも修繕しなければならないという。


「わかりました。まずはそこからという事ですね。掃除洗濯料理、建物の整備。なんでもお手伝いさせていただきます」

「ありがたいお話ですが、何から手をつけたら良いのやら、途方にくれておりまして。感謝の申し上げようもございません」

「先ほども申し上げましたが、お気になさらないで下さい。これもリヤウス神と聖女アニエス様のお導き。それに高等学院の授業の一貫でもあるのですから」


 私はそう言った。

 あくまで奉仕活動の一貫だと言った方が、心理的負担も少ないかもと思ったからだった。


 そして私たちは、施設の中をあらためて、案内してもらう。

 何やら施設長も覚悟を決めたようだった。


 このあいだも少しだけ見たが、中は想像以上にひどい。

 あちこち扉もガタがきており、ところどころ壁が崩れている。

 屋根に隙間があいているところも見える。

 ただ、見た目の割には、掃除は行き届いていた。


「これがパン窯ですわ」


 ファイナーは一つのものをさししめす。

 屋外に設置されているパン窯はところどころ崩れかけている。

 前世で祖父母の家ににあったパン窯にも似ていた。


「なるほど。とりあえずは、これか」

「色々直しがいがありそうね、セシル」


 私の言葉を聞いているのかいないのか、エマは目をきらきらさせながら、一人でぶつぶつと呟いている。


「いや、これくらいなら、何とかなりそうかな……あれをこうしてっと」

 

 どうやらエマの創造欲を刺激してしまったらしい。

 私も村にいた時、家の修理を手伝ったり、テーブルや机の作り方を教わったりしたことくらいならある。

 何でも自分でできるように、というのが母の方針だったからだ。

 とはいえ、ここまでの修繕となると、どうやればいいか私には見当もつかない。 


「こちらがお恥ずかしいですが、薬草園だったところでして」


 次に見せてもらったところは、庭の一角だった。

 確かに薬草園だったところというしかなく、雑草だらけである。

 だが一応温室もある。


「ところで、仮に何かを作ったとして、孤児院または教会で売る事はできるのでしょうか?」


 私は施設長のファイーナにたずねる。


「ええ。この教会も特別な権利をあたえられておりますが、でも……今の私たちには何も売るものがないのです」

「そこは私たちの腕の見せ所ですね」


 ファイーナの言葉に何やらエマは浮き浮きして答える。

 エマは商人の子であるだけでなく、ものづくりが好きだと言っていた。

 

 ファイーナの話によると、どうやら、窯を直す材料費くらいはなんとかなるらしい。

 だが職人に頼むお金は無いという。


 私も頭をかかえる思いだった。

 想像以上に状況は良くない。

 パン窯の修理費用も必要だし、他にも修繕すべきものはある。

 多少ならば、奉仕活動の一環ということで、学校も費用を出してくれるかもしれないが。


 パンよりも、ロル草を育てて薬を作って売った方がいいかもしれない。

 ただ、ロル草も手に入るかわからないし、薬を作るにも道具がいる。


 スポンジケーキかシフォンケーキの方がパンより高く売れるだろう。

 ただ材料費がかかる上に、パンより売上の見込みが立ちにくい。

 そもそも窯が壊れていてはケーキだって焼けない。

 

 思考が堂々巡りになりかける。

 まずは本当にこのふわふわパンが売れるかどうかだ。

 それを試してみないことには始まらない。

 できる事から地道にやっていくしかない。

 

 とりあえずは、私たちは学校で作ってきたパンを試しに売ってみるということになった。


「やれやれ、大変な事になってきましたね」

「別にあなたに手伝ってとは言わないよ、マルス」

「ここまで来てそれはないでしょ、セシルさん。僕もできる事はやりますよ」


 どのくらい頼りになるのかわからないマルスの返答であった。

 

 やるべき事は多い。

 奉仕活動だけをしているわけにもいかない。

 中々、難儀な事であった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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