020 パン作り
母からは色々な事を教わった。
料理、裁縫、簡単な薬や美容品のつくりかた。
もちろん基本的なこの世界の知識や勉強も。
「そんなに都合よくはいかないなぁ」
お金を稼ぐには、何かを売るしかない。
前世で読んだweb小説だと異世界で、紙、砂糖、化粧品、ポーション等々、色々なものを作る描写があった。
私のいるこの世界ではそれは困難である。
私は貴族でもないし、商人の娘でもないし、魔法も使えない。
材料の入手にも、作れるものには限りがある。
それにどう売るのか。
この世界にはギルドというものがあり、商売も制限されている。
(大体貴族とかに生まれてるよね、web小説だと)
なによりも、リヤウス教だ。
今までの経験や母の話を聞く限り、この世界のあらゆるものにリヤウス教が絡んでいる。
名目上かもしれないが、皇帝の任命もリヤウス教の大祭司長が行うのである。
この世界はかなり文明は進んでいる気はするが、その恩恵は広く行き渡ってはいない。
宗教団体と貴族たちが支配しているのだ。
とりあえずは、今度孤児院に行ったときに相談してみよう。
あの孤児院も、まがりなりにも教会付属のものだ。
何かしらの特権や優遇措置があるかもしれない。
私は便箋を取り出すと、手紙を書き始める。
宛先は母マリアだ。
村にいた時は、質のいい紙などめったにお目にかかれなかった。
だがここでは売店で簡単に手に入る。
――お母さん、お元気ですか?私はようやく学校にも慣れました――
なるべく書き間違いが無いように頭の中を整理する。
考えてみれば、私は手紙というものをほとんど書いた事が無い。
前世ではメールやメッセージアプリでの連絡が大半だった。
私は再び便箋に向かってペンをはしらせる。
少しだけ学校に慣れた事。
友達ができた事。
何とか授業についていけそうな事。
そして、訪れた孤児院の事。
困っている孤児たちを助けたい事。
――お母さん。お願いがあります。お母さんに教わった知識を、下さったものを今こそ使いたいんです――
母は聖女であり、様々な魔法を使えるだけでなく、色々な知識や技術を持っている。
だがあくまでリヤウス教団の聖女としてそれを使っていた。
『こういうのって、誰かに教えたり使ったりしてもいいの?教団の秘密とかじゃないの?』
『技術も知識も使うためにあるのよ。セシルならきっと有効に活用してくれると思うから』
色々な事を教えてくれたのも、私が魔法を使えないので、そのかわりになるものが必要なためだったのかもしれない。
何かを製造してお金を手に入れるにしても、ワインだのビールだのは作れない。
チーズも考えたが、競争が激しそうで他と差別化しにくい。
比較的材料の入手が容易でお金になりそうなものと言えば、パン、ケーキ、薬草栽培だろう
あの孤児院は古びてはいるが、それなりに庭は広いし薬草が栽培できそうな場所もある。
ロル草なら葉が傷薬になるし、乾燥させれば胃腸薬になる。
しかも栽培の手間がかからないのがいい。
母は様々な薬を持たせてくれている。
私は治癒魔法がきかないということで、解毒薬、外傷薬、胃腸薬、黒蓮の解毒剤まである。
黒蓮の解毒剤なんて一生使う事はないだろうけれど、母の思いやりは素直にありがたい。
その中にジルニの粉があった。
洗浄剤としての用途が一般的だが、教団ではたまにクッキーやケーキをこのジルニの粉を入れて作ったりするそうだ。
ジルニの粉をパンの生地に混ぜる事でふっくらとした焼き上がりになる。
ただ、どうしても苦みが出る。
どうやらこの粉は、前世でいうところの、重曹らしい。
パン酵母はこの世界にもあるが、質の良いものは高い。
それに発酵させるのに時間もかかる。
この苦みをどうするかについては、私にはアイデアがあった。
魔物を倒して魔石や素材を売ってお金を得るという方法もあるだろう。
しかし私しかできないような事は意味がない。
あくまで施設が継続的にできることでなければ。
職員だけでなく、子供たちの力も借りなければならないかもしれない。
この世界の子供たちは、早いものなら十歳頃から働きに出るらしい。
ただ孤児院の子供たちが働くことにおわれ、学ぶ機会が無く学校にいけないとしたら、それは本末転倒になってしまう。
(魔法が使えればなぁ)
生産魔法とやらで、武器や道具を作り出せれば便利だろう。
web小説の知識を思い出しながらそんな事を考える。
だがこの世界の魔法はそこまで便利なものではない。
過去には、偉大な魔術師は気象を変えたり、異界から精霊や神獣を召喚したり、死者を蘇らせる聖女もいたというが、どこまで本当なのだろうか。
できない事に思いを巡らせても仕方ない。
そこまで考えた時に、私はいささか先走りすぎたと思った。
まだ誰にも何も相談していない。
孤児院側が、私の提案に賛成してくれるとも限らないのだ。
変な押し付けになってしまっても嫌だが、できる事はしておこうと思いなおす。
――孤児院の子供たちのために、ジルニの粉でパンを作って売りたいです。それとロル草は手に入らないでしょうか?お金が必要なら、将来働いて必ずお返しします。――
何かといえば親を頼るのも気が引ける。
母には学費や生活費を出してもらい、十分よくしてもらっている。
できることなら、自分でなんとかしたいという気持ちもあった。
――それと、私の子供の頃の服がまだあれば送ってください。では、お体にお気をつけて。また手紙を書きます――
私は少し迷っていた。
孤児院が教団からの予算を十分にもらえないことをもっと説明すべきなのだろうか。
孤児院はリヤウス教団が運営している。
そして母は聖女としてリヤウス教団に所属している。
母から事情をきいてもらうか、あるいは孤児院に便宜をはかってもらうように頼むか。
そのことでうまくいくかもしれないが、余計な事をするなと本部に言われ、母がまずい立場になる可能性もある。
母の仕事の内容も、教団内での地位も、あまり知らない事にあらためて気づいた。
(もっと聞いておけばよかったな)
私の考えは、十四歳の少女らしからぬものだったかもしれない。
もし前世の記憶を取り戻していなければ、違うようにふるまった可能性もあっただろう。
そして翌朝、私は寮の管理室へと手紙を持っていく。
「ではお預かりします。ロレーヌ伯領カンブレーなら、三日ほどで着くと思いますよ」
眠そうな目をしたおじさんが、ぼそりと言う。
そんなに早くつくとは意外だった。
馬車で十日はかかる距離だ。
安価な便だと届くには下手したら一ヶ月後くらいになる。
特別な連絡網、ひょっとしたらルディア帝国の飛脚便を使っているのかもしれない。
前世においては、中世の大学では飛脚制度を持っていた所もあったようだが。
さて、今週はまた孤児院訪問だ。
とりあえずはふわふわパン製作に挑戦して持っていきたい。
だがどうやって作るか。
奉仕活動の授業担当の教官には頼みにくい。
そう思った時だった。
目の前を、監督生のグレゴリが通りかかった。
「あの……」
私は思い切って声をかけた。
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