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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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002 村の日常

「そうね。この頃前より目立ってきたから……気になる?」

「うん」


 何で牙が生えているのと思わず言ってしまったが、早まったかなという気がしなくもない。

 だがそれは元々セシルという女の子の心の中にあった感情のように思える。


 とはいえ私は元の人格を乗っ取ったわけではなく、神楽優衣からセシルとして転生したのであり、前世の記憶は今まで眠っていただけだ。

 もしあの夢の通りだとするならば。

 今の私は前世の記憶と今世の記憶、日本語と現在の言葉の知識が入り混じり、少し混乱している状態だった。

 

 なるべく今の状況を把握したいが、おかしなそぶりをみせれば、魔物にでも精神がのっとられたのかと思われるかもしれない。

 注意しておくに越した事はなかった。


「ねぇ、セシル」


 母マリアは真剣な顔で言った。


「あなたがそうなのは、何もおかしなことじゃないわ。髪も肌も顔かたちも、色々な人がいる。人間だけじゃない。この世界には長耳族(エルフ)矮人族(ドワーフ)や色々な種族がいるの。母さんはあなたが大好きよ」


 半ばは予想していた答えだが、最後の言葉は予想外だった。

 あなたが大好き……前世で母から言われたことはなかった。


「その……ごめんなさい」

「ううん、謝ることじゃないわ、セシル」

「私も……私も……お母さん大好き!」


 私は思い切って言ってみた。

 これは嘘ではない。

 前世の記憶を取り戻す前のセシルも思っていた事なのを感じる。

 

「ありがとう」


 母マリアはそういって微笑んだ。

 私は嬉しいような気恥ずかしいような、妙な気持ちだった。


(こんなふうな気持ちになるんだ……これからもどんどん言おう)


 私は初めての体験に、ちょっとふわふわした気分がしばらくは抜けなかった。

 結局私が何なのかは、はっきりとは言ってくれなかった。

 けれどちょっと変わった人間か、そんなに珍しい種族でもないのだろうと、とりあえずは納得することにする。


「さぁ、今日はセシルがヴァレリーに餌をあげて」

「はい」

 

 私は馬小屋へと向かう。

 うちの敷地は、他の家と比べて広い。

 庭の片隅には薬草園があり、屋根のついたパン焼き窯もある。

 ヴァレリーというのは、母が飼っている馬だ。


「おはよう、ヴァレリー!」


 ヴァレリーは嬉しそうに鼻を鳴らした。

 この数日間、私の姿が見えない事で心配していたのかもしれない。

 私はヴァレリーに干し草を与え、水をかえる。

 背中までの高さは五歳の私より少しだけ上だった。

 

 週末までの数日間で、五歳までのセシルの記憶と前世の意識が混じりあった混乱も、大分落ち着いた。

 どうやら本格的に記憶を取り戻す前も、所々前世の事を夢に見たりしたようだ。

 思い出した日本の景色や文明の事を、母や村の大人達に話した気がする。

 子供の言うことだと、微笑ましく受け取って貰えたようなのは幸いだった。


 そしてどうやらうちの家は、他と比べて裕福らしい。

 家の中には様々な本もあり、母の仕事場には化学の実験で見たビーカーや蒸留器のようなものもある。

 水洗ではないがトイレがあり、お風呂も備わっていた。

 電気が無い事を除けば、幼い頃に暮らしていた祖父母の家とさほど変わらない。

 

 そして、日曜になった。


「マリアさん、セシル、おはよう」

「おはよう。みなさん今日はよろしくね。近くのお宅にお届けものがあるから、私も後でのぞいてみるわ。では森の神テュルス様のご加護を」


 母に見送られ、朝早くからみんなと出発する。

 今日は森に木の実を取りに行く予定だ。

 私は麻の服に革の靴、革ベルトに小物入れをつけた、ここらの農民と同じ格好だった。

 みんな袋を手にし、天秤棒を持っている人もいる。

 

 一行は五人で、一人だけ年長者の十代後半くらいの男の子がいるのは、お目付け役だろうか。

 あとの四人は私と同い年の人に、十歳くらいの子に……と考えていたところで今更ながら気付いた。


(私って……でかいよね)


 パメラという女の子は私と同い歳のはずだが、私の方が頭一つ以上大きい。

 私はセシルの記憶をさぐってみた。

 背が高い事を多少気にしていたようだ。

 男の子にからかわれた事もあった気もする。


(まぁ、でも……)


 前世で小柄だったせいかは知らないが、私は大きな女の人に憧れがあった。

 この体を貰ったのも、むしろ喜ばしい事かもしれない。

 

 目的地は、村から歩いてほど近い森らしい。

 冬の冷たさと違う、四月のあたたかな陽気を感じさせる空気。

 緑の木々や山、小川のせせらぎ、新緑の香りと、家畜の匂い。

 道は当然舗装などされていないが、日本の田舎の風景と大して変わらない。

 

 時々何かの神像と祠らしきものがある。


「アニエス様、ごきげんよう」

「テュルス様、今日はよろしくお願いします」 


 通りすがりにみんながかける声を私も真似する。

 リヤウスというのが最高神であったはずだが、どうやらこの世界は、あらゆるものに神が存在すると考えている多神教らしい。

 

 アニエスというのは、母も話してくれたように、人間の聖女だ。

 神々と同じように、信仰を集めているのだろう。

 

 まだ多少記憶に混乱があるのか、この世界の知識を思い出せない事もあった。

 というより私にあるのは五歳の女の子セシルの記憶だ。

 子供なので、ぼんやりとしか把握していない事も多々あるだろう。


 少年少女たちの一行は、金髪や黒や茶色の髪、薄茶色や青い目をしている。

 私の母も金髪に水色の瞳だ。

 風景からしても中世だか近世だかのヨーロッパっぽく感じる。


「コームさんて魔法が使えるんでしょう?」


 年少の男の子が一番年長のコームという少年に、興味深々にたずねた。


「ああ。でも大したことないよ」


 それでもせがまれて、指先に炎を出現させてみせる。

 子供たちは口々に喝采を送る。


「この程度じゃ、魔術師として雇ってくれるとこなんてないよ。十歳になればみんなも教会で魔力検査を受けられるさ」


 コームはいささか面映ゆそうに言う。


 夢で見た記憶の通り、やはり魔法は存在するらしい。

 どうやらここは、前世の世界と違う法則が支配している異世界なのは間違いない。   


「セシル、今日はあんまりつまみ食いしちゃダメだよ」


 パメラが私に向かって言う。


「え~、そんな事したっけ?」


 記憶の混乱からそう答えた。

 一瞬しまった、と思ったが


「またまた」

「セシルは食いしん坊だからなぁ」


 周囲の子供たちも私にむかって、からかうような口調で言う。

 私がとぼけていると解釈してくれたようだ。

 どうやら、持って帰るはずだったキイチゴを、私が籠ごと全部食べてしまった事があったらしい。

 これだけ体が大きいのだから、ちょっとくらい大目にみてくれないものかと、私は少々自分勝手な事を考える。


 目的地までは一時間もかからずについた。

 そこからはそれぞれ、クワの実や野イチゴ、コケモモ等をとったり、花でちょっとしたアクセサリーをつくったりする。

 男の子たちはなにやら木の実を投げ合って遊んでいる。


 一番年長のコームという男の子が、これは切り傷に効く草だとか、この木の実は食べられるとか教えてくれる。

 子供の遊びではあるが、自然に関する知識を伝えたり、木の実を採取して食料にしたりといった、実用的な目的もあるのかもしれない。


 前世では幼少の頃、両親の仕事の関係で田舎の祖父母の家で育てられたが、その時の事を思い出していた。

 そして私にあんな事を言っていたが、みんな結構キイチゴやコケモモを食べている。


「えー、みんなずるい」

「ちょっとなら、いいんだよ!」


 そんな調子で時間はあっという間に時間は過ぎる。

 私は男の子たちの遊びに混じったり、パメラと木の実を使った首飾りをつくったりする。


(こういうのも楽しいな)


 前世の暮らしへの懐かしさは不思議なほどなかった。

 その辺りの感性は、生まれてからここの暮らしに慣れ親しんでいる、セシルの意識が優先されているのかもしれない。

 そもそも私は地味な学生生活を送り、卒業してからも仕事漬けで大した趣味もない。

 最新の流行だの最先端のエンタメだのにも縁はなかった。


「じゃあそろそろ帰ろう」


 コームが言う。

 元々、昼までには帰る予定だった

 籠や袋の中は、木の実で一杯である。

 

 そしていざ立ち去ろうとした時だった。

 草むらが揺れ、何かがこちらへ近づいて来る。

 そして十頭ほどの、黒い猪のような姿があらわれる。


闇猪(ダークボア)!なんでこんな所に」


 コームが叫んだ。

 周囲にも緊張が走る。


 私は闇猪(ダークボア)について思い出そうとした。

 漠然とした恐怖やおそれの感情がある。

 

 セシルは知識として知ってはいるが、多分見た事は無い。

 闇猪(ダークボア)は、魔物(モンスター)ではないが、通常の野生の獣よりもさらに強力な獣なようだった。

 子供たちにとっては、十分以上の脅威である。 

 

「みんな、ゆっくりと下がるんだ。背を向けちゃいけない」


 私たちは指示通りにゆっくりとその場から下がる。

 みんな無言だった。

 だが、恐怖を押し殺したような息遣いが聞こえる。

 少年の手にある天秤棒は、武器としてはいかにも頼りない。


 闇猪(ダークボア)は、赤い目を光らせてて、こちらへじりじりと近づいて来る。

 私たちもじりじりとさがる。


「きゃぁあ」


 私は声のした方を見る。

 パメラが木の根につまづいてしまったらしい。


 パメラは恐怖に顔をゆがめながらも、何とか立ち上がろとする。

 だが闇猪(ダークボア)たちは、それをきっかけに一斉にこちらへ襲い掛かってきた。


 もはやみな、声をあげて必死に逃げ始める。

 その中で、最年長のコームはみんなの前に立ちふさがり、棒を手に闇猪(ダークボア)に殴りかかった。

 炎の魔法も使ったようだが、そんな小さな火など狂暴な獣に効果があるわけもない。

 あっという間に跳ね飛ばされる。

 

 その闇猪(ダークボア)は次の獲物をパメラへと定めたようだった。 

 急激に近づいてくる。

 パメラは覚悟をきめたように、目をつぶる。


「パメラ!」


 私はパメラの前に飛び出し、闇猪(ダークボア)に立ちふさがった。

 半ば本能的な動きだった。

 私は不思議な感覚の中にいた。

 恐れや怯えは感じられず、どこかぼんやりとした夢の中にいるような気持ちだった。


 その時ふいに頭の中で声が響いた。

 あの夢の中と同じ声だった。


『機能ロック解除……鉄の体(アイアンボディ)を解放します』

読んでいただき、ありがとうございます。

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