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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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019 決意

「うーん、厳しいわね」


 エマが難しい顔をしている。

 目の前には、生徒が行き来していた。

 こちらの方に目も向けない。

 私とエマは今、校内に募金箱を持って立っていた。


 孤児院から帰った後、担当教官に施設の現状を報告した。

 教官の反応は芳しいものではなかった。


『わかりました。ですが我々の役目は施設の運営に干渉することではありません。相手が望む範囲で、手助けする事です』


 そう言われてしまえば、返す言葉もない。

 だがこのままだと、何も変わらない。

 そこでエマと相談して、私たち二人で募金をつのることにした。


 もちろん、自分たちでもできることはするつもりだ。

 といっても、私もエマも学生の身で、使えるお金は多くは無い。


「そう甘くないねぇ。私があげられるものといえば、昔使っていた筆記用具とか本とかくらいかなぁ」

「あたしは、服とか持って行ってあげようかな」


 エマは小柄な矮人族(ドワーフ)なので、むしろ子供たちにはちょうどいいかもしれない。

今私たちがやっている事は何かの役に立つのだろうか。


 孤児院の経営が厳しいとなれば、私たちのお小遣い程度のお金では何もできない。

 そもそも職員の数も足りなければ、建物もボロボロ、子供たちの教育費だって……


 その時ふと、前に立つ人影を感じる。


「募金よろしく」


 と言いかけて気づいた。


「少ないけど、セシルさん」


 マルスはにっこり笑うと、木箱に大銅貨を一枚いれた。


「いや、いいよ、マルス」

「あって困るものじゃないですよ」

「わかった。ありがとう」


 そして私たちは、食堂で夕食をともにすることにした。


「毎日あそこに立ってるんですか?」


 マルスは目の前の、川魚のムニエルをつつきながら言う。


「うん、あれからね」


 私は何となく下を向いてしまう。

 案の定というか、募金の反応は良くない。

 というか全く良くない。

 無視されるならまだしも、中にはこちらを見てくすくす笑いながら通り過ぎていくものもいた。


「この学校の子弟は貴族が多いですから。そして貴族ほど利に敏いものはない。自分の得にならないことなんてするはずないですよ」

「そうなの?」


 私はそのあたりの事はよくわかっていないのかもしれない。


「ですね。彼らが奉仕だの寄付だのするのも、自分の名声を上げるためですよ」


 マルスは強い口調で断言する。

 私はそのマルスの顔を見る。

 なにやらわけがありそうだ。

 だが理由を聞き出すのも、多少遠慮する気持ちがあった。


「あたしたちのお小遣いだけじゃどうしようもないよね」

「そうだね、エマ」


 私もエマも、使えるお金は多くは無い。

 たとえ有り金はたいても、そんな程度では足りない。

 何しろれっきとした施設を運営するとなると、職員の給料も払わなければならないのだ。


 できるなら、孤児院自身がリヤウス教団から予算を配分してもらえるようになるか、何かしらで稼いでいくのがベストだろう。

 前者は私には、どうしようもない。

 だが後者はどうだろうか。

 

 中世の修道院は、病院や薬局の役目をしていた。

 またチーズやビールを製造して販売していたりもした。

 それが施設の運営費になったわけだ。


 同じようなことはできないだろうか?

 チーズ作りは少し習ったことがあるが、酒の醸造の知識はない。


 だが母に料理や薬の製造を習い、ノートに書き溜めたものがある。

 村の人に、樽や籠、小物の作り方も教わったりもした。

 あとは戦闘技術か。

 これはお金になりそうもないが。


 もし孤児院の窯でパンやケーキも作れる。

 それを売れば……

 とりあえず色々聞いてみよう。


「それでどうするんですか?またあそこの孤児院へ行きます?」


 マルスが言う。


「もちろん」

 

 私は力強く言う。


「でも、なんでそんなに肩入れするんですか?一回訪問しただけでしょう?授業の単位のためですか?」

「それがないといえば、嘘になるけれど」

 

 私はあらためて考えてみた。

 単なる私の気まぐれだろうか?

 単なる授業の単位のためだろうか?


 どちらも正しいだろう。

 でも何か違う気がする。


 何かが心に引っかかっている。

 私は心の整理がつかないまま、話し始めた。


「私はね、何かイヤなんだ」


 私の心の中で、何かがぼんやりと形になろうとしていた。

 

 そうだ。

 確かに私はイヤだった。

 なぜだろうか。


「何がですか?」

「うん……あの子たちには、いろんな可能性があると思うんだ」


 言葉にすれば平凡なものになってしまう。

 でもそれは正直な気持ちだった。

 あの子たちが何を望んでいるかはわからない。

 ただのひとりよがりかもしれない。


 しかし私は思うのだ。

 あの子たちにだって、やりたい事があるかもしれない。

 なりたいものがあるのかもしれない。

 

 それができないというのが、私にはたまらなく悔しいのだ。

 それは前世から続く、私自身の思いなのだろう。

 私は自分の考えを整理できぬまま、とぎれとぎれに語った。


「……変わってますね、セシルさんは」


 マルスはぽつりと言った。


「うん、セシルって変わってると思う」


 エマもマルスに同調する。


「そうかな?」


 確かにそうなのかもしれない。

 いま私がいる世界は、日本とは違う。


 身分制があり、なにより宗教と魔法が支配している。

 ありていに言って、あの子たちの将来だって、そんなに選択肢があるわけでもない。

 あなたたちには無限の未来があるなんて言葉はかけられない。


(それでも……)


 私は二人と別れた後、自室の勉強机でノートを取り出して読んでいた。

 誕生日に、母がくれたものだ。


 私はそれに母が教えてくれたことを書き込んでいた。

 料理のレシピ、薬の製法、それにちょっとした生活の豆知識も。

 それに前世で私が学んだことなども覚えている限りは記録している。

 いつか何かの役にたつかもしれないと思ったからだ。


 私はマルスやエマとの会話の事を考えていた。

 私のやろうとしていることは、単なる偽善なのだろうか?、

 ただ一時の哀れみで手を差し伸べたとしても、継続的に支援できなければ意味がない。

 

 私が彼らをずっと養うことなどできない。

 なぜかお金を出し渋る教団から何とか費用を出してもらう事が一番良い。

 だがそれができるならとっくにやっているだろう。


 とにかく当座のお金を何とかしなければという思いから、柄にもない募金活動などをやってしまった。

 この世の全ての人を救えるなんて思ってはいないが、目の前の困っている人を見捨てるのも何か違う気がする。


 私が憧れた物語の中の聖女たちならどうするだろう。

 いや、母ならどうするだろう。


 私はノートを読み返した。

読んでいただき、ありがとうございます。

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