秋の夕日に照らされた田の実り
もぐもぐ
アイは丘に敷いたシートに腰掛け、茶色い棒状の食べ物を食べていた。香ばしい米に味噌が塗られ、甘さが引き立つ。水筒には具だくさんの食材と独特の鳥肉のスープが入っている。棒状の食べ物を食べ、スープを飲む。交互に食べると絶妙にあう。ペロリと食べ終わり一息入れる。
丘から見える景色は広大な海、海にそびえる風車、黄金に染まった絨毯のような稲穂、そして山々。夕日のもと陸海空が同時に見られる風景は最後の風景に相応しい。
丘にいるせいか、やや肌寒いのでブランケットを膝に掛ける。
暖かい感触が心地良い。
今までアイは色々な人を見送った。他人の助けになりたい者、想いを受け継がせたい者、形はどうあれ幸せを広めたい者、不幸を広めたい者その他にも何かしら熱く深く重い思いをもった人を見送った。
ザッ
草をふむ音が背後から聞こえた。
アイは振り向かない。誰が来たのか知っているから。
「久しぶりだね。何年ぶりかな」
「100年は過ぎましたね」スーツ姿の男性は優しくゆっくり話した。
「シャボナ様のご依頼以来ですね。」
「あの依頼はとても奇妙だったけど、あなたがシャボナさんに依頼したの」アイはスープをすする。
「いえ、あれはシャボナ様ご自身の判断です。また、言いそびれておりましたがシャボナ様から伝言がありました。」
アイは後を振り向いた。相変わらず老いもしないその立ち姿を見た。
男性は咳払いをした。「幸せになることを心から祈っているとのことです。」猫の様な丸い声を発した。
全然似てない。寄せているのはわかるが変に寄せているせいかイライラした。
「ありがとう。幸せになったかはわからないけど、少なくてもシャボナさんのおかげで人間不信にならなかったし、色々な事に関心をもてた。」
心から思った言葉だ。あの依頼がなければ間違いなく人間不信になり機械の様な性格になっていただろう。
・・・会話がなくなり風だけが流れている。
日も落ち始めているがなぜか寒くはなかった。
ザッ
しばらくして背後にもう一つ足音が聞こえた。
アイは振り向いた。
紺色でアイと似たようなロリータファッションで黒髪の少女。ショートボブのかわいらしい少女。
「お久しぶりです。アイさん、いつ以来でしょうか。」
「お久しぶりです。ウィユさんおぼえていないけど150年くらいでしょうか」
アイは立ち上がりスカートつまむ。胸元のブローチが七色に煌めいている。
「ここは本当に良い景色ですね。」ウィユはにこりと微笑む。
「そうですね。自慢の場所です」アイはまるで自分のふるさとを自慢する様に話す。
ここはアイのふるさとではない。しかしずっと昔に依頼で来たときに「最後はこの場所」にと決めていた。
「アイさん、まだまだ時間があります。これまでの事を話していただけませんか。」
ウィユはシートに座った。アイも座ると男性がホットミルクを二人に差し出した。
それからしばらくアイはこれまでの話をした。
その表情ははっきりと喜怒哀楽が表れ、活き活きしている。男性は邪魔すまいと口を閉じているがその口元は綻んでいた。
アイが話し終わると満足したかのように息を吐いた。
「本当に色々経験してきたのですね」ウィユは呆れた声をだした。
アイは本当にたくさんの人と交流し、出会いと別れ、一期一会を体験してきた。その中にはアドベンチャーさながらの体験もしてきている。ウィユは今後同じような経験をするのかと思うと頭痛がした。
「だからウィユさん、これから大変だけど楽しいこともたくさんあると思う。色々な人とも会うと思う。間違いなくウィユさんのためになると思う。だから・・・・」
アイはウィユの手をやさしく握った。
「お願いしま・・・」
「わかりました」ウィユは被せるように話した。
「確かに受け取りました。」ウィユは立ち上がった。
「ありがとうございます。」アイも立ち上がった。
本日の依頼は金髪の小さい少女。赤いロリータを着こなし数多の人々の想いを残していった少女。
ウィユが彼女から依頼された内容は全てをウィユに受け継いでもらうこと。
金髪の小さい少女はポケットから玉を取り出した。それは竜の瞳のように丸く美しく、まるで銀河のように神々しい。少女は両手で包み込み見つめた。これまでの思い出を振り返り、礼を伝えているように見える。
「うん!」
そして満足したように両手をウィユへ差し出した。
「この子をよろしくお願いします。」その表情は今まで一番美しい笑顔だ。
「はい」ウィユは微笑みながら受け取った。
想く重い、そして暖かい。そして二人の足下が光りだした。
「今までお疲れ様でした。」ウィユは頭を下げた。
「別に対したことはしていませんよ。でもありがとう。」
「最後に一つよろしいでしょうか。」
「なに?」
「そのイヤリング、今気づきましたがとても綺麗ですね。光を取り入れていつまでも光り続けている」ウィユは少女のイヤリングを指さした。イヤリングは白く光を放っていた。
「最近やっとしっかり色が移るようになったの。そのとき吸収した色を映し出しているの」
少女はイヤリングを軽く指ではじいた。風鈴の様な綺麗な音色を奏でた。
少女の体が光へと変わり玉へと溶けこんだ。
ウィユは玉をポケットにしまい景色を見つめていた。
辺りは暗く、月と星の光が夜を照らしていた。
「アイさんは竜の瞳と呼んでいました。」男性が思い出したように口にした。
「良い名前ね。私もそう呼ぶわ」
「それとこれは彼女へのプレゼントです」男性は手を突き出した。
稲穂の絨毯がある方角、稲穂が光り出しそこから光の粒が空へと舞い上がった。
キザな人ね。
ウィユはそう思いながら歩き出した。