食べ物の山と様々な愛の形
主人公 アイ 身長 140~150センチ
服装 赤いゴスロリ衣装を着た少女
髪 金髪でツインテール
年齢 15歳で成長が止まっているため不明
容姿 西洋系の可愛い子供
職業 見送人
キーアイテム 玉 対象の命を対価に願いを叶える。ただし対人への物理的や搾取行為はできない
現在いる町はここ1年で急に農業が盛んになり、あらゆる食材を栽培し、他の街との交流を始めた活気ある町である。
アイは目の前の料理に泣いていた。
とろけるような食感のお肉、小さい赤い玉のような果物、風味豊かな麺、見渡す限りある料理の山。それをすべて食べなくてはならない。
今回の依頼人はこの料理を作った料理長チーファ。目の前で仁王立ちをして見つめている女性。
「ごちそうさまでした・・・」2時間後やっと食べ終えたアイは未だ口の中に食べ物が入っている中しゃべった。
「お粗末様。おいしかったかい?」チーファは皿を片づけながら話す。
確かにおいしかった。ここ数年で1番おいしい料理なのは確かだが、とにかく量も種類も多かった。
「申し遅れました。リュミエールです。チーファ様が残したいものを何でも残します。」
チーファは大きい体でアイを見下ろす。
「私が残して欲しいのは満腹による幸せ。そしてその幸せを町のみんなにいつまでも残したい」
何を言っているのか分からなかった。
「本当なら嬢ちゃんが料理を残してくれたら満足したのだけど、まだまだ私も未熟だね。」チーファは頭を掻きながら食べてもらった事による歓喜の涙をながした。
無理に出された料理は食べなくて良かったのか・・・
アイは後悔の涙を流した。
全くかみ合わない2人が涙を流している姿は異様であった。
しばらくしてチーファは事の経緯と町の事情を話した。
「御覧の通り、この街は自然も多く、豊かな土壌がある。決して荒野ではない」
「だが町は昔貧困街で、外部との交流が少なく、1週間に1度食べ物にありつければ奇跡のようなひどい有様だった。」
「そこにたまたま私が来たのだけど、何でそんなに食べ物に困っているのかが分からなかった。なぜそんなに困っていたかわかるかい?」
想像したがよく分からなかった。
「実はこの町の人は馬鹿だったんだ。」チーファは続けて話した。
「私が来た当初、これだけ恵まれた大地で農業を行っている人がいなかった。」
「農業に関する知識がなかったんだ。実際ここの町の土はフカフカで、栄養が豊富、農業を行えば間違いなく栄える町だった。」
本当にそんなことがあるのだろうか。さすがに食糧難であれば誰かが考え、畑を作ったりして気づくような気がするのだが。
顔に出ていたのかチーファはニヤッと笑いがながら話した。
「話を聞くとたまたま農業を行う文化がなかったらしい」
「そしてここの人達はなぜか新たな知識を自ら知ろうしない。」
「教えれば覚えるし、新しい事に対して感動もする。だけど、それだけ。普通、料理を一品食べて感動したら他にもないか聞いたりするはずなのだけど。。。」
「おそらく欲がない。現状で満足している。受けの姿勢なんだ。」
ありえない。そんな人間がいるのだろうか。閉鎖的な村は何度か見た時あるが、少なからず欲が存在する。
「そんなときに私がきて、知識と技術を教えたんだ。」
「一瞬だったよ。土も良い土だったから半年で作物が出来上がったし、その間に色々教えたらみんなすごい勢いで知識を吸収していたよ。」
「話を聞くとそれまでは土を食べてる人も結構いたらしい。今では1人もいないけど・・・」
「そして一年で栄えたのがこの町。外部との交流も増え、色々な食物が出来ることが分かり流通も良くなった。ここはありとあらゆる食物が出来る土がある土地だったんだ」チーファは懐かしさを思い出すように話した。
「だけど、町の人は自分たちで新たに交流を増やそうとは思っていないけど。」
「さて、町の話はいいとして、私の話なんだけど。」
アイはやっと本題かと思った。
「実は問題が発生していてね。あまりに食が発展しすぎたせいか今度は食に対する幸せを感じられなくなったんだ。何を食べても感動しない、何を栽培しても喜ばない。満腹になっても幸せにならない。」
良くある話だ。馴れてしまいそのありがたみを感じなくなることは本当に良くある。
この街は飽食文化になったということだ。だが決して悪いことではないと思うけど。
「だから、私の命と引き換えにこの町の人たちに満腹になったときの幸せを永遠に与えたい、食の大切さを残したいと思った。」チーファはポケットからたばこを取りだし火をつけた。
「変なのは重々承知している。狂っていると言われてもしょうがない。でもそう決めたからそうなの。」
雲行きが怪しくなってきた。
なぜそんなことに命をかけるのか、寿命でもない、病気でもない、命を粗末にする行為だと思った。
「ここの人達ってすごい馬鹿だったけど、すごい素直でいい人なの。食の幸せを失わせたのは私のせいだから、それを取り戻すのも私がやりたい」
意味が分からなかった。それは他人の事情であって、自身の都合で気持ちを変えるのは良くないことである。
あたかも聖職者のようなことを話しているが、やろうとしているのは気持ちの押しつけであり感情の上塗り。
「あなたは狂ってるし意味が分からない。」アイは辛辣に話した。
「本当にそうね。でもその狂っている事が出来るのが。。。」たばこをこちらに向ける。
「よろしくね」チーファはたばこを吸い終えた。こちらは対価が貰えればそれでいいのだが、とても無責任でとても不愉快だった。
「やり方は簡単、誰かにご飯を食べてもらって幸せになって貰う。その気持ちを使い町の人たちに広める。そしていつまでもその気持ちを留めておく。」
チーファはやり方について指示をだした。
「残念だけど、感情の搾取はできない」
アイは事実を盾に拒絶した。ポケットにある玉は大体のことは叶えるが、他者から何かを奪うことはできないからだ。
「感情を奪うのではなくその感情を広め、浸透させ留めるのだから可能でしょう」
チーファは変わらずたばこを吸った。一気に半分以上灰となった。
吐いた大量の煙は部屋を一瞬で灰色にした。
「明日、ここに違う貧困街から来る人間を招く、そしてご飯を食べてもらう。」
後は分かるだろと言うと、チーファは部屋から出て行った。
アイの体全体にたばこの煙が漂っていた。
夜、アイは憤りを感じていた。
「まったく意味ない。エゴの塊。。。」感情がほとんどないアイが感じた感情であった。
気持ちの押しつけがこれからどの様な悲劇を生むかが想像できる。
そしてもう一つ憤りを感じることがあった。
おそらく明日、その人間は死または何か障害がおこるのは明白であった。
感情の上塗りは感情をコピーしたものを使うのではなく、街の人々の分だけその感情が増幅され、それを分割してまき散らす形になると思われるからだ。
あくまで可能性であるが、仮に違うとしても感情に何か手を加えることは決して良いものではない。
実行するのはアイ本人であり、アイはその憤りを感じながら眠りについた。
翌朝、アイはおいしい食事をした。とても美味であった、しかし幸せにはなれなかった。
店に行くとそこには、1人の少年がいた。服は汚く、髪も長い、痩せ細ったいかにも貧困街にいる人間を思わせる風貌だった。
「おはよう!さっそく始めましょうか。よろしくね。」バンダナを頭に巻いたチーファが調理場へ行った。
玉を出した。アイの足下が光り出した。これほど不愉快な作業は久しぶりだ。
すると、「綺麗な玉だね。なんていう名前なの?」
少年が話しかけてきた。その瞳はまるで宝箱を見つけた時に発するワクワクとドキドキを秘めている瞳をしていた。
「名前は特にないの。」アイは玉を見つめた。
ずっと昔にアイは適当に名前を決めていたはずだが既に忘れてしまっていた。
「そうね。あなたが名前を付けて」アイは少年に話した。なぜ少年にそんなこと言ったのか分からなかった。それでもなぜか聞いてしまった。特に理由はない。
少年はちょっと悩んだ後、玉を見つめながら言った。
「竜の目に見えるから竜目。なんか昔の本にも似たようなものあった。」
安直だし恥ずかしい名前であるが、以前アイが決めた名前も似たような名前であったと記憶している。
「竜目じゃなくてロマンチックに竜の瞳にするわ。ありがとう。」
アイも竜の瞳を見つめた。
すると少年が突如厨房へ顔を向けた。口からは滝のようによだれを垂らしながら。
「お待たせ。」厨房からチーファが料理の山を運んできた。
肉、魚、麺、ご飯、果物。あらゆる食材が並べられた。
どれも実際おいしそうであり、朝食を食べたアイですら一口食べたいと思った。だがそれと同時になんともいえない感情が出てきており、食欲が抑えられた。
「召し上がれ。思いっきり幸せになっておくれ」チーファは少年に母親のような笑顔を向ける。
「いただきます。」少年はまるでハイエナのように目の前にある肉にかぶりついた。
「おいしい!!」満面の笑みで言った。
その後少年はこれでもかと言うほど食べた。それこそ涙を流しながら。
アイは考えるのをやめた。
2時間後
「お腹いっぱい。こんなに食べたのは初めてだよ。」
「幸せ。このまま天国にでも行きたい気分だ。」少年は満足そうに言った。
アイの足下が更に光を帯びた。
そして少年の身体から光が溢れその光は1つの塊となった。
満腹による幸福感だ。
その光が竜の瞳へ吸い込まれていた。実に綺麗な光だった。
「終わったようだね。」チーファが厨房から出てきた。その身体は光を帯びていた。
「これで私の役目は終わり。これで私はみんなから神様扱いされる。」
「最高の気分。うれしい。」天井を見上げ高揚とした表情をしたままチーファは光となりそのまま竜の瞳へと吸い込まれた。
その光は実にまぶしく、醜いものだった。
アイは一呼吸をして少年の幸福感である光を竜の瞳から取り出した。
そしてその光を町の人々に上塗りするために町を一望できる高台へと移動した。
光の眩しさは目を閉じても失明しそうなほど光り輝いている。
アイは空にその光を掲げると瞬く間に街を照らした。
アイの仕事は終わった。店に戻ると
少年からは幸せな表情はなく、ただ廃人として椅子にもたれかかっていた。
感情に何らかの影響を及ぼし、少年がその感情に耐え切れなかったのだろう。
1年後、町は滅んだ。ゴーストタウンとなり、そこには腐った食べ物が並ばれていた。
あの後、常に満腹という幸せを手に入れた町民は食べ物を食べなくなった。料理もしなくなった。そして自殺するものも現れた。
食べれないほど満腹であり幸せであり、死んでも良いと思うほどの多幸感。
町民は誰1人食ベ物をたべなくなり、餓死することとなった。
外部のものも初めは気にかけていたが、その異常な状態に恐怖を覚え交流を閉ざしたのだ。それでも町人々は幸せであった。なぜなら満腹だったのだから。