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その手は岩のように堅く柔らかい

主人公 アイ 身長 140~150センチ

       服装 赤いゴスロリ衣装を着た少女

       髪  金髪でツインテール

       年齢 15歳で成長が止まっているため不明

       容姿 西洋系の可愛い子供

       職業 見送人

キーアイテム 玉  対象の命を対価に願いを叶える。ただし対人への物理的や搾取行為はできない

地面に蜃気楼が見える。

ミミズは干からびて、落ちた汗は一瞬で蒸発する季節。

アイは冷たい麺をすすっていた。最高級の牛骨でダシをとり、上品な甘塩っぱさがある冷たいスープ、少し辛い野菜が入ったその料理をスープも含めてペロリと平らげる。3杯目である。

デザートの白いチョコレートでコーティングした卵のようなパンケーキを食べ、紅茶を飲み干す。

「さてと・・・・」

席を立ち店をでる。

今回の依頼場所は渓谷にある洞窟。

その場所は船でしか行けない場所にあり渓流は流れが速い。

舟に乗ったアイはあまりの流れに一刻と持たず船酔いになる。

「エ~~~」アイは背中を擦られながら吐いていた。

これからまだ1時間近く船に揺られながら旅をする。

「もう二度とこんな所に行きたくない・・」体制を維持しながらアイは泣き言を漏らした。

1時間後、目的の場所についたアイは河原に足を付けた。

顔は蒼白、来ていたゴスロリ服は唾液まみれになっていた。

「・・・・新しい服に着替えなくちゃ」

バッグから予備の服を取り出した。

茶色と白の縞々の服。一見貧乏くさい服に見えるが今回は適当な服となった。

洞窟は明かりが灯されており、道も整備されている。

洞窟というだけで、街の道路環境とさして変わりないほどである。

歩いて行くとそこには小さな工房と隣接するように大きめの家が建っている。家の左右には水車がくっついていた。恐らくそれで電力をまかなっているのだろう。よくわからない。

工房の窓を覗くと、物はほとんどなく綺麗というよりは閑散として見える。

その部屋の真ん中でひげの蓄えた小さい男性が熱いであろう金属を叩いていた。

よく見ると壁には刃物の他にお茶のポットや透明な箱などがぶら下がっている。

アイは扉を開け、蓄えたに向かって叫んだ。

「お仕事中失礼します。フラッパー様ですね。リュミエールと申します。」

「ちょっと待ってくれ。今仕事中だから家の中で待っててくれ」

こちらをチラッと見た後、指を家の方へ指した。

指示に従い家に入ると、中は涼しく、部屋は明るい、清掃も行き届いている室内をしていた。

見た目とは裏腹に私生活がしっかりしているのにアイは好感を持った。

白いソファーに座りしばらく待っていると、別の扉が開いた。

黄色い綺麗なエプロンと鮮血の様に赤く綺麗な長い髪に、青い瞳、20代の美しい女性が盆を持って立っていた。

上には何やら果肉の入った菓子とお茶がのっている。

「お待ちになっている間にどうぞ召し上がって下さい、今来ますから」

とても澄んだ声が部屋を走った。

女性はテーブルに2セット置いて部屋を出て行った。

アイは皿のお菓子を食べる。

甘酸っぱいその果肉と中に入っている甘い餡が絶妙にあっている。またお茶の渋みが口当たりをリセットしてくれるのが素晴らしい。一瞬でおやつを食べ終えた。

「もう1個食べようかな・・・・」アイはもう一皿に手を伸ばした。

ガチャ

「いや、遅くなりました。すまんね」

しかしその要望は通らなかった。


作業を終えたフラッパーと隣には先ほどいた女性、そして3人の若い男性が立っていた。

アイはお茶をゆっくり啜り飲み、苦みを味わった。

「改めまして、私が依頼したフラッパーで隣が妻のリフロイドだ」

リフロイドは会釈をした。

アイはお茶を吹き出し、むせた。

「奥様なのですね。」鼻からお茶を出しながら話した。

ポケットからハンカチを出し鼻を拭く。

「意外でしょう。でも事実だよ。というか私が老けているだけで私はこう見えて20代だよ。」

フラッパーは笑いながら話す。

「そして3人が私の弟子達だ。短い間だがよろしく頼む」

「よろしくお願いいたします。(3人)」声を合わせて会釈した。

体型はしっかりしていて誠実そうな見た目はいかにも職人というべき姿である。

「さて、早速本題だが・・・」

フラッパーは笑みを浮かべながら口を開いた。

「残して欲しいのは私の技術、特に作業している姿だ」

別のソファーに座るとポケットから水筒を取りだし、一口飲むと話し出した。

「私は3週間後死ぬ。そこそこ重い病気でな」

「珍しい体質でな、じわじわ弱っていくのではなく突然死ぬらしい。だから今でも作業が出来る。」

「幸いなことに死ぬのは1年前から知っていた。だからここにいる皆1年前から覚悟している」

フラッパーは笑いながら話した。

よく見ると妻のリフロイドも3人の弟子も決して明るくはないが暗い表情はなかった。

「初めは私も泣きじゃくりました。でも、夫が前向きに死を受け入れ、後悔のない死に方を選んだのであれば、いつまでも悲しんではいられません」

リフロイドはやれやれと話した。

「私たちも師が残りの人生でやれること見つけたのでしたら、それをやらせてさしあげたいと思っております」

「ましてや我々に技術を継いで欲しいというのなら尚更です」

「それにお別れ会はほぼ毎日やりました。もう飽きましたし吹っ切れました」

弟子3人が順番に話し始めた。あまりのスムーズさに練習したのだろうかと思うほどだ。


工房では作業のための準備が行われている。最初に見たときとはうって変わり、地面を覆い尽くすほどの作業道具が並べられている。

「うちでは色々な物を作っている。」作業用エプロンを着たフラッパーが隣に立っている。

「鉄やガラス、加工してコップや置物、刃物も扱っている」

初めて会ったときの作業は刃物を打っていたらしい。

「故に作業道具も沢山あるし、その数だけ手入れがある」

「これから記録してもらうのはこのメンテナンスから仕上げに至るまでの全てになる。」

とても3週間では出来ない量である。

「もちろん死ぬまでに全てを記録するのは不可能だ」

表情に出してしまったのかフラッパーはにやりと笑った。

「全てとは言ったが、実はほとんど作業については既に記録してある。置物とかは乾燥に何週間もかかるしな。」

「今回直接記録してもらうのは、主にガラス作成と各下絵だ。」

指で小さく輪をつくる動作にホッとする。もし本当に全てになるとクタクタになるし、連続して記録となると場合によってはこちらが死んでしまう可能性があった。

「それじゃあ早速やってみるか」フラッパーは作業台に立った。

隣に立ち、鎖につながれている玉を掲げた。

「珍しい玉だな。まるでトカゲの目みたいに綺麗だし、中の小さな粒は実に幻想的だ」職人として関心があるらしく、物珍しく玉を見つめている。

「それでは始めますね。」アイの足下と玉が光り始める。

「あなた自身を対価に作業風景を残します。」


作業が始まった。

道具の説明から始まり、材料を溶かす作業などを1つ1つ丁寧に説明しながら勧めていく。職業見学をしているレポーターようで、おもしろいものがあった。

アイの服は茶色が多い服であるため、汚れが目立ちににくい。

フラッパーが何か説明している際の表情はとてもにこやかに見える。

逆に1度作業に入ると焦りの顔が見て取れる。

作業について一つ一つ丁寧に説明しているため、本来の十分の1ほどの作業スピードになっている。

焼く、溶かすなどの火を使う作業が多いため、温度が重要であるフラッパーの作業は時間の遅さが致命傷になる。

技術で補ってはいるが、その遅さに歯がゆさが目に見えていた。

作業は1日18時間、残りの時間は食事と睡眠にとっている。

職人はよく寝ないで作業する癖があるが、睡眠、休息を怠ると余計に効率が悪くなるためだ。

弟子3人もサポートに徹している。18時間のうち4時間は準備にあてている。少しでも流れを良くするために。

アイは常にフラッパーの隣にいて作業を見つめていた。玉は横で光り輝いている


そんな作業が2週間過ぎた日、フラッパーはアイに提案した。

「ちょっとガラスづくりをやってみないか」

アイは目を丸くした。とんでもないことを言ってきた。出来ればやりたくない。

熱いし、面倒くさかったから。2週間とはいえ作業を隣で見て確実に疲れるのがわかる。

「死ぬ前の最後のお願いだ。」

そう言われれば断りづらい。この人は1週間後確実に死ぬ。なら最後のお願いくらいは聞いてあげたい。というより、アイはお願いごとに弱い。アイが頼まれる事は全て最後のお願いであり、アイはそれを軽んじる心を持ち合わせていない。

アイは、渋々うなずいた。

「ありがとう。残しておく作業については終わったからね。これからは実際に誰かに教えている映像を残したい。それに。。。。」

フラッパーはアイを見つめた後、横に視線をずらす。

「君のようにあまり感情を出さない子が、自分自身で作ったガラスを見て何か感じるのか見てみたい。そしてどんなガラスを作るのかも。」

アイは何を言っているのかを理解できなかった。

アイが作るのはガラスのイヤリングになった。大体の作業はこの2週間で把握している。アイは決して不器用ではない。むしろ天才肌であり、基本見れば何でも出来る。


早速作業に入った。

「すごいな。2週間見たからといって、一朝一夕で出来るような技術ではないのだがね。」フラッパーは呆れに近いため息を出した。

アイは機械で作業しているかのように一切の迷いなく進めていた。

エプロンをしているとはいえ、ゴスロリ服で型を取っている姿は奇妙でしかなかった。プロ顔負けのスピードで仕上げていく。

作業は終盤になり、このまま模様を描けば終わるところでアイはピタリと手が止まった。

「何を描こう」

アイの天井を見上げた。

様々な経験をしてきたアイであるが、アイはその全てに興味をいただかなかった。

故に感情も乏しく、淡々と物事をこなしていく、まるで機械のような存在であった。

星を描こうか、月を描こうか、山や海を描こうか。

思い浮かぶ事を口ずさみながらイヤリングを見つめる。透明でガラス越しには鮮明な向こうが浮かび上がる。

しばらくしても一向に思い浮かばないアイ。

「まだ時間はある。ゆっくり考えてみれば良い」フラッパーは肩を叩いた。

それから3日がたち、フラッパーが死ぬまで残りわずかとなった夜、アイは洞窟を散歩していた。道は既に慣れ親しんでおり、軽やかな足取りで歩く。

「何かお考えですか」

赤く長い髪をなびかせながらリフロイドがアイの隣を歩いている。

宝石のようなその瞳がアイを見つめる。洞窟に秘められた財宝と言っても過言ではないその姿は、アイの足を止め、口を開かせるには十分だった。。

「何もかけない。何も思い浮かばない。私にはなにもない。」小さな口から小さい声が漏れた。

この数日間作業を止め、ひたすら何を描くのかを考えていた。

結局まとまらず、時間だけが過ぎていった。この散歩も気晴らしのためだった。

「ちょっと一緒に歩きましょう。」リフロイドは微笑みながら歩き出した。

しばらく一緒に歩くとリフロイドは口を開いた。

「なにもないのなら、ないで良いのではないでしょうか。」

「そこに無理に何かを加えるのではなく、ただ待ってみる。」

「そしていつか、そこに何かが加わったのであれば、それをめいいっぱい愛してあげればいいのではないのでしょうか。」

アイは立ち止まった。それは、リフロイドの言葉ではなく、あまりに綺麗でガラスの様に澄み切った声に何かを感じたためだった。

「ごめんなさい。あなたの言っていることはよく分からない。」アイはうつむいた。

「でも答えは分かりました。ありがとうございます。」

「それなら良かった。」リフロイドは笑いながらアイを見つめた。


「このイヤリングには何も描きません。」アイはフラッパーに頭を下げた。

「良いと思うぞ。」フラッパーはイヤリングを手に持った。

「勘違いする人もいるが、描かない物を不完全と言うのは間違いだ。」

「中途半端に何かを描くことはその作品に対する侮辱になる」

「一緒に成長する作品もまた1つ。」

そういうとフラッパはイヤリングを作業台に運んだ。

「それじゃあこれはこのまま加工する。明日完成だ。今日は特にやることないからゆっくりしているといい。私の最後の仕事をするとしよう」

フラッパーの最後の仕事が始まった。工房柱の1つには鎖につながれている玉がかけられていた。


翌朝、フラッパーから工房に来るように言われた。

「最後の仕事がおわった」

フラッパーの手にはイヤリングがあった。アイはイヤリングを受け取った。

特に飾り気がない透明なガラスのイヤリング。しかし透明度が違う。一見すると何も見えないほどの透明感。光を帯びてやっとイヤリングの形が見えるほどである。

「少し細工をしてある。」

「細工と言ってもいつかイヤリングに模様を描きたくなったら描けれるようにしているだけだがな。」

「それとこれもやろう。」作業着のポケットからイヤリングより少し大きいブローチを取り出した。

光の角度により七色に輝いた。

「こっそり作ったんだ。選別だ。服にでも付けてくれ」少しだけ照れくさそうにフラッパーは話した。

ブローチを受け取ると同時にフラッパーの身体が光り始めた。

「時間のようだな。すまないが、最後に妻と弟子と別れがしたいので席を外して欲しい」

アイは工房から出ようとするとフラッパーは最後に言った。

「ありがとう。やりたいことは沢山あったが、ちゃんと一区切りついた。がんばりな」初めて触れたフラッパーの手は岩のように硬かったがふわふわとした握り心地だった。

そして扉をしめた。



少しすると、扉から光がすり抜け、玉に入っていた。

そしてしばらくするとリフロイドと弟子3人が出てきた。

その表情は悲しい顔ではなく、前に踏み出す勇気をもった顔だった。

建物は古くなったがその中にある道具は変わらず輝いていた。



アイは落ち込んでいた。目の前には川がある。そして舟がある。

もう一度乗らなくてはならない。流れが速いため昇れず、帰路は更に下って帰るしかない。

「これをどうぞ。少しは酔いが紛れると思う」リフロイドは飴を渡した。

「主人と最高のお別れをしました。本当にありがとう。そしてまた会いましょう」

アイにハグをした。

「約束できませんが、ここじゃない場所でならいいですよ。」アイは本心を語った。

少し話をした後、3人の弟子にも挨拶をして船に乗った。

途中飴が1つしかないことに文句を言いながら結局アイは吐いた。

耳には透明なイヤリング、スカートには唾液まみれになった七色のブローチが光っていた。


10年後、フラッパーが残した映像はほとんど見られることがなくなった。

それは決して悪いことでなく、想いや技術がしっかり受け継がれ、新たな一歩をふみだした為である。道具も作業工程も新たな進化を遂げた。しかし、原点を確認したい、行き詰まった時にはその映像が見られていた。


前回より少しだけアイの感情が出てきています。

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