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第7話 この異世界は優しいです

 ラーラに手を引かれて、私は宿場に戻った。もう夕方という事もあるのか、旅人や勇者らしき客が続々と宿場に入り、賑やかなだった。ラーラによれば、この宿場は食事や風呂の提供はなく、素泊まり専用との事だった。


 宿場の主人や奥様も忙しそうに客を案内していた。ラーラの両親だそうだが、今は挨拶できる雰囲気ではなさそうだ。


「うちのパパとママは後で紹介するよ。夕飯一緒に食べよう」

「いいの?」


 やはりラーラは親切だ。根から悪い人間では無いだろう。むしろ、さっきのラーラの振る舞いを見ながらモヤモヤする自分こそ、罪ある存在か。神様だったらもっと違う対応をしていたかもしれない。


「それに聖衣もここでしばらく泊まろうよ」

「え、本当にいいの?」

「実はもうママにも言ってあるし、服とか私の貸すから」

「そんな……」


 ラーラの優しさがありがたい。涙目になりそうだ。


 そして宿場の二階にある一室も貸してくれる事になった。さっそくラーラと二人で向かうが、綺麗な個室だ。ベッドだけでなく、椅子や灯り、洗面所もついていた。確かに現代日本のホテルと比べると古めかしい部屋だったが、生活するのに問題なさそうだった。


「聖衣が暮らしていたところとは、不便かもしれないけど」

「いやいや、そんな事ないよ!」

「あと、服とかも貸してあげるから!」


 ラーラは一旦この部屋を出ると、服や下着、タオルなどを持って戻ってきた。


「風呂は裏手にあるうちの家の使っていいからね」

「本当、何もかもありがとう!」

「聖衣、泣くほど感動する?」

「だって。こんな見知らぬ異世界で優しくしてくれた人がいるなんて」


 感動で再びラーラに抱きついてしまう。


「いやいや。本当に暑苦しいよ!」

「だって、嬉しいんだもん。ハレルヤ! あなたは良きサマリア人のよう」


 聖書には「良きサマリア人の例え話」があった。これは見知らぬ人にも自分の家族のように人を助けたサマリア人の話。どんな人にも分け隔てなく隣人を愛しましょうという教えがあった。


 そんな聖書の例え話をよく知っているクリスチャンでも、見知らぬ人を助け、自分の家族のように愛する事はできない。一方、ラーラは自然と実践できていた。こんな感動しながらも「宗教の教えって何? ちゃんと実生活でやらなきゃ意味なく無い?」と考えていたりしていた。今までの自分が恥ずかしくなってくるぐらいだ。


「いやいや、聖衣? 本当感動しすぎだから。風呂でも入ったら?」

「ありがとう、ラーラ!」


 という事で風呂も借り、身も綺麗になった。風呂は蛇口の使い方などは複雑で、お湯もあんまり出なかったが、普通に使えた。もっとも湯船やシャンプー類はなかったので、水浴びしただけという感じだったが、とりあえず風呂に困る事もなさそうだった。


 それに聖母マリアのコスプレも脱げてスッキリした。やはり、この衣装は居心地は悪かったようだ。ラーラと似たような動きやすいワンピースに着替えると、身体がすっと回復したような感覚だった。


 風呂上がりにスキンケアなどもしたい気分だが、それは贅沢だろう。それにこの土地の水は悪くなさそう。空気の綺麗だし、電磁波も飛んでいないようだ。美容はナチュラルにやっていても大丈夫そうだ。


「聖衣、お風呂出たー?」

「うん、ありがとう!」


 風呂上がりにラーラと彼女の両親と一緒に夕食を取る事にもなった。気づけばもう夜になっていた。ラーラの両親の仕事もだいたい終わっているようだった。


 風呂から食堂へ通された。多彩のスープとパン、焼いた肉というシンプルな料理がテーブルの上に並んでいた。


 そして軽く自己紹介。ラーラのお父はキースさん。お母さんがダナさん。二人ともこの宿場の経営者だ。


 二人ともラーラとそっくりなエルフ。とんがった耳が印象的で、キースさんの方は人より大きな耳だと豪華に笑っていた。見た目は綺麗なエルフだったが、二人とも豪快で田舎ものらしい。ゆえに私も初対面の二人の緊張せずに、食事をとる事ができた。


 それに、私が食前のお祈りをしても、特に変な目で見られない。むしろ、神様とか宗教ってどういう概念なのかと問い詰められてしまうぐらいだった。


 日本ではこうはいかない。食前の祈りをしていると、子供のころはいじめられた事もあったし、カルトと呼ばれら事もあった。


「本当に神様は、私にとって良い方です。こんな異世界に来ても、ラーラやキースさん、ダナさんのような優しい方に出会わせてくれて。私は本当に幸せ者です!」


 涙ながらに語ってしまっても、ラーラたちは、否定せずに聞いてくれた。


 日本で似たような事を語った時、父に「無理矢理宣教や布教をして、カルト信者と誤解受けるような行動するな!」と怒られた事もあったが、今は自由。なんでもアリな異世界では、こんな事をしてもオッケーだと受容されている安心感があった。


 食後にはキースさんの慢性的な腰痛や、ダナさんのニキビ肌などを癒してあげたが、何も言われない。父のような宗教人に制限されず、自由にできた。かえってキースさんやダナさんにも感謝されるぐらいで、私は余計に感動してしまう。この人達の優しさに、胸がほっこり温かい。


「私、この異世界にずっと居てもいいですか?」


 今のところ帰れない可能性もある。


「いいよ、ずっと居てくれても!

「うちはオッケーだぞ」

「うん、聖衣はラーラの良いお友達になってね」


 そんな事を言われてしまうと、安心する。とりあえずホームシックにはなりそうになかった。

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