番外編短編・十年前の事
私、橘聖衣が小学生三年の頃の話だ。十年前に事だが、鮮明に覚えている。
図画工作の授業で、神社の絵を描く事になった。それは困る。写真を見て描くだけならまだギリセーフという感じだが、実際クラス全員で足を運び、近所の神社の絵を写実するという。
担任の先生は「文化だから」という。クリスチャンだから無理だと言ったが「偏狭な一神教」とばっさり切られた。
そうは言っても神社には行けない。神社は文化ではなく、宗教施設である事。信仰の自由がある事も伝えたが、逆に怒られ、クラス内でも「聖衣っていじめてもOKな空気」が形成されつつあった。
特にクラスで一番のリーダー格の麗香ちゃんは「一神教信者、きっも! 八百万の神の方が優しいもん」と揶揄って来た。
イラっとした。正直麗香ちゃん、嫌いだと思ったが、母に相談。母もクリスチャンだったが、「きっと麗香ちゃんの背後にいる悪魔が言わせている事だよ。麗香ちゃん自身を呪うのは違う」と逆に私が怒られた。
これには涙目。それでも両親と一緒に麗香ちゃんの幸福を祈っていたら、不思議と怒りが治ってきた。
それに、図画工作の日。ちょうど台風が直撃し、近所の神社に行くことも中止となった。麗香ちゃんはこの事をすっかり忘れ「クリスマスは家族で高級なホテルに泊まるの!」と大騒ぎしていたものだったが。
異世界に舞い戻った私は、イアンにそんな事を語っていた。
「父によると、敵の祝福も祈ると良いとか。敵が神様の祝福を受け取れないタイプだったら、ぜんぶ祈った人に祝福が帰ってくるらしい」
「へえ。逆に怖いな。俺はついつい人の事嫌ったりするから」
「そうだね、それが難しいんだけどね……。私もそうだよ、敵を愛するなんて、神様にしか出来ない気もするよ」
二人とも渋い顔だ。聖書の言う通り完璧に生きるのは難しい。
「でもま、俺もカイリスとか高橋についても祈ろっかな。あいつら、嫌いだけど」
「そうだね。私も好きじゃないけど、もう祈るしかないよね……」
特に高橋については二人で祈っていた。今、高橋はどこに居るかは不明だが、いつか会える日を思い、神様の祝福がある事を祈った。




