番外編短編・世界が終わる日もパンを焼く
ナナはパンを焼いていた。パン屋だからだ。それ以上でもそれ以下の理由もない。
最近は聖女の白パンのヒットにより、経営も安定し、聖衣とイアンには返しきれない恩がある。
二人とも元いた世界に戻るため、しばらく帰ってこなかった。
寂しいが仕方ない。それでもパンを焼かなければ。例え世界が終わってもナナはパンを焼くだろう。
そんな事を考えていた時、大きな地震が起きた。凄まじい地鳴りと突風。外を見たら、月が落ちている!?
もう立っていられない。
ここで死ぬのか。今は本当に世界の終わりなのか。
しばらく意識を失っていたが、気づいたら元のままだった。いつもの通りのパン屋の厨房。
「何だったの?」
わけがわからないが、近所の人たちも普通に生活していた。パン屋を開くと、普段通りに買いに来てくれる客ばかりだった。
「聖衣達は大丈夫かな?」
恩人である二人が気になるが、彼らから連絡はなかった。
そして、なぜかこの国の魔王が別人に変わったというニュースも聞いた。今は女の魔王が就任したという。
それによってガーリア地方の宗教組織も完全に崩壊した。司祭達も捕らえられ、牢屋の中らしい。聖女ベラは上手く生き延びたという噂は聞いた。結局、ベラの事は誰も捕まえられなかったらしい。
そんな中。なんと聖衣から手紙が来た!
手紙によると、何とか元いた世界に帰れたそうだが、今はまた戻ってきたとか。ゼレナ村でのんびりと休暇を楽しんでいるという事だったが、カイリスについても書いてあった。
「は? カイリスってお金の横領してたの?」
知らなかった!
手紙では証拠をこっそり揃えて警察に持って行くようアドバイスされていた。
カイリスに裏切られていた事はショックだったが、思えば色々と不自然なところはあった……。
さっそく証拠を揃えて、警察に提出すると、カイリスも牢屋の中には入っていった。
「ナナのやつ、裏切ったな!」
捕まる寸前、本性を出したカイリスは怖かった。というか、今までがお人好し過ぎたのかもしれない。
「なんか疲れたな。しばらく私も休暇とろー」
という事で、聖衣達がいるゼレナ村へしばらく遊びに行くことに決めた。
パン作りの道具は持って行くことにした。聖衣の手紙によると、村にも大きなオーブンがあるというし。
休暇中にもパンの事ばかり考えている。我ながら苦笑してしまうぐらいだ。
きっと世界が終わる日もパンをや家いるのだろう。いつも通り粉まみれになりながら。
「まあ、それはそれで良い人生かもしれない」
世界の終わりなんているくるか分からない。その日に後悔しないよう、一日一日を大切にしながら、休暇中だってパンを焼くのだ。




