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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第45話 ワールドエンド

「これが魔王か、なんかショボくね?」

「イアン、黙って。ここは普通にエクソシストしましょう」

「おお」

「イエス・キリストの御名により……」


 エクソシストの祈りを始めた時、悪魔は明らかに嫌がっていた。頭を痛そうに抱えていた。


『うるさい! その名前を出すんじゃねぇよ!』


 悪魔は牙を剥き出してきた。いよいよ本心を露わにしてきたのだろう。しかし神様の名前を嫌がるという事は、これは確実に聖書の悪魔だろう。魔王=悪魔という仮説は間違っていなかったらしい。


『くそ、うるせせぇ! 神の名前を出すんじゃねぇよ!』


 こうして神様に怖がる悪魔は、弱そう。イアンと二人で一緒いるのもダメージあるかも。二人での祈りの方がやっぱり強い。だからといって油断はできない。


『でも聖衣チャン、お前はこの世界で聖女やっていた方がいいんじゃない?』


 予想通り揺さぶりをかけてきた。


『この異世界だったら、みんな聖女様って崇めてくれるし? なんなら俺がこの異世界人の脳をコントロールして君を聖女様として国一番の偉い女にしてあげるよ?』


 前にも似たような誘惑をされたような記憶があるが、今は何の魅力に感じない。確かに日本では偉い立場にはなれないだろう。逆にクリスチャンとして嫌な目にも遭うことがあるが、それはこの異世界でも同じかも知れない。


「けっこうです。そんな名誉とか要らない。神様がすごいんであって、別に私は偉くなりたくないから」

「そーだぞ! そんな誘惑、きかないぞ!」


 イアンも応援してくれるので、私は心強い。


『ふん。元の世界に帰ったら、お前らは後悔するぞ』


 誘惑を跳ね除けたわけだが、悪魔は全く堪えてはいなかった。やはり人間の意思や決断などは、悪魔にとっては脅威ではないらしい。ドヤ顔しながら、別の手を出してきた。


『だって、元いた世界は終末だから。もうあっちの世も終わるからね? クリスチャンは酷い迫害にあうよ。殺されるよ。聖書も読めなくなるよ。焚書(ふんしょ)になるよ。だったら、この異世界で楽しくやらない?』


 どうやら悪魔は元いた世界が終末だと確信しているらしい。確かにもう終末だと言っている人もいたが、確証はない……。


『イアンくんもそうでしょ? 終末の大艱難(だいかんなん)なんて耐えられないでしょ? え? 艱難前携挙説(かんなんまえけいきょせつ)? そんな都合のいい神学あるかどうか確実に言える? ね? 確実に言える?』


 嫌らしい。悪魔は終末論を煽って誘惑を仕掛けてきた。


『ずーっとこの異世界にいようよ。楽しいよ。楽しくいこうよ。日本での現実を忘れてさ。こっちでは、別にキリスト教っていう宗教は広めたっていいから』


 隣にいるイアンは、明らかに同様。悪魔の声の耳を傾けていた。これは不味い状況だった。


「ねえ、イアン。もし元いた世界が終末だとしたら、最後にイエス様がやってくるでしょ。こんな異世界にいたら会えないじゃない」

「おお、そうか。騙されるところだった!」

「そうよ。最後まで耐え忍ぶ人は救われるんだよ」


 イアンは正気を取り戻していた。最近は忠犬キャラを辞めたイアンだが、まだなだ中見は純粋な子供のような所があるかもしれない。


「イアン、負けちゃダメ。目を覚まして、現実を見て」

「そうだな。今は日本に帰る事を考えよう」


 イアンは私の手を握った。これはきっと、決意の表れだろう。手の平からイアンの強い意志が伝わってきた。


「さあ、最後の祈りをしましょう!」

「そうだな! イエス・キリストの御名によって」


 もうこの時点で悪魔は、悲鳴をあげ始めた。頭を抱え痛がっている姿は、小さな虫のようにも見える。


「イエス・キリストの御名によって命令する! 今すぐここから消え去れ!」


 イアンと二人で声を合わせて祈った時、魔王は意識を失って倒れた。一瞬の事だったが、同時に大きな地震が起きた。今いるビルが壊れ始めた。すごい揺れと地響きで酔いそうなぐらい。ゴゴゴと耳が痛くなってきた。


「きゃ、何これ?」

「逃げるぞ!」


 二人でビルから逃げると、地上では更におかしな現象が起きていた。夜空にビビが入り、月が落下し、異世界人達は逃げ惑う。


 これが世界の終わり?


「イアン! どうしよう!」

「聖衣!」


 私達も逃げるが、限界だった。イアンが庇うように私を抱きしめていたが、壊れていく空や建物に飲み込まれ、息ができなくなった。


 ここで死ぬのか分からない。ただ、イアンに抱きしめられていると、少しは不安が消えていくのも確かだった。


 終わりだ。全部終わってみたい。


 消えけていく意識の中、この異世界が終わっていく事だけは分かった。

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