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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第44話 ラスボス魔王

 檻から逃げられたのは良かったが、私達は森を彷徨っていた。簡単にいえば迷子状態だった。


「イアン、この森は一体どこ?」

「さあ、わからん。でも、この辺りは獣はいなさそうだよな……」


 日は暮れ、夜に近づいていた。このまま暗い森を歩くのも不安だ。一旦立ち止まり、祈ってから歩く事にしたが、イアンは私の手を離さなかった。


 正直、汗でべとべとしている手を握られるのも、気恥ずかしいのだが、イアンは気にしている様子はなかった。むしろ涼しい顔。森の中で迷ってもどこか楽しそう。


「っていうか、イアン。暑くない?」

「いや、別に」


 私はけっこう暑い。イアンと手を繋いでいる事を意識していたら、暑くなってきた。夏の気候のせいだけでは無さそう。


「私の手、嫌じゃない?」

「えー? どこが?」

「べとべとしてない?」


 手の平に汗をかきやすく、コンプレックスだった。日本では揶揄われた事も少なくなかった。


「別に。好きな女の手だし?」

「は? 好きな女?」


 って何?


 頭が混乱しかけた時、森の奥の方に街の灯りが見えた。


「イアン、見て。あっちの方に街が見える」

「見えるな。よし、あっちの方へ進んでいくぞ!」


 再びイアンに手を引かれ、街を目指して歩いた。いや、もう一刻も早く森を出たかったので、早歩きしながら街の灯りを目指していた。とにかく今は森を抜ける事が一番だった。もうイアンが言った事は考えないようにしよう。


 十分ぐらい歩いた時だろうか。急に森の出口が見つかり、抜け出す事に成功した。


 もう辺りは夜になっていたが、あとは街の方へいくだけだ。森を出てからは灯りに向かってひたすら歩くと……。


「ちょ、ここゼレナ村だったのか!?」

「そうみたい!」


 街の灯りだと思っていたものは、ゼレナ村のスラム街だった。あの森もよく知っているゼレナ村のものだったと思うと拍子抜けする。


 しかし、なぜ司祭やカイリス達はゼレナ村まで私達を運んだのか? これも魔王の意図?


 そういえば、このゼレナ村に異世界転移した直後、悪魔とそっくりな男がいた事も思い出す。あの人物が悪魔=魔王だった可能性ってないか?


 もしかしたら、魔王はゼレナ村にいる?


 ガーリア地方の住人の噂でも、魔王は地方に村にいるというのがあった。魔王がゼレナ村にいる可能性は限りなく高い。


「だったら、聖衣がこの異世界の来たばかりのビルに行けば魔王はいる?」

「たぶん……」


 そんな仮説も立てると、私達は休む暇もなく、スラム街へ向かった。


 夜のスラム街は酔っ払いや売春をしている女も多く、酒臭く、薬の臭いも充満していたが、まずは情報屋のフーゴさんの元へ行き、色々と聞き出した。


 フーゴさんはバーで相変わらず飲んだくれていたが、私達の尋常じゃない様子に驚き、知っている噂を全て教えてくれた。


「こっちでも噂があったんだよ。この雑居ビルで魔王が住んで入るんじゃないかってね」

「ありがとう、フーゴさん!」


 第一印象は最悪なフーゴさんだったが、今は感謝しかない。さっそく噂のビルに向かおう。


「本当気をつけろよ。世界が終わってしまう前にな」


 今はこんなフーゴさんの冗談も全く笑えないが、とにかく噂の雑居ビルの地下へ。確かにこのビルは、私が異世界転移してきたばかりのビルとそっくりだった。


「うう、ちょっと怖くなってきたわ」

「大丈夫だって。魔王が聖書でいう悪魔だとしたら、逆に簡単じゃん。俺らクリスチャンは、悪魔も踏みつける権威が与えられてるんだぜ?」

「確かに……」


 ビルの前で怖気付いていた私だが、イアンは違った。もう忠犬のような弱い彼ではない。一皮剥けたようだった。


「そ、そうよね。大丈夫よね!」

「そうだよ。この魔王を倒せば、帰れるぞ!」


 こうしてビルに入り、階段で地下に降りた。何かお香のようなオリエンタルな香りが鼻をくすぐっていた。


 薄暗い地下には、蝋燭の灯りだけあった。中央の床には魔法人。何か怪しげな呪文も描いてあったが、その奥の黒い椅子には、男がいた。


 わかりやすく魔王のコスプレをした男。頭にはツノもあったし、背には漆黒の翼。


 これが魔王=悪魔か?


 こうして側で見ると、安っぽいビジュアル系バンドマンのような雰囲気だった。限りなくチープでダサい。


 怖がっていた私だが、こんな魔王を目の前にしたら、気が抜けてきた。隣にいるイアンもうっすら笑っている。確かに魔王のコスプレはダサい。厨二病というか、虚勢を張っているのだろうか。


『よお、聖女様。それに忠犬くん?』


 魔王の顔はブサイクではなかった。むしろイケメンだったが、胡散臭い笑顔。


『ようこそ。ようやくこの世界の支配者、魔王のところについたね? でも聖女様に会うのはこれで三度目かな?』


 やっぱり魔王は悪魔と言って良いだろう。この村で落とし穴に落とされた時の悪魔と同一らしい。もっとも今日は魔王のコスプレをしていたが。


『待ってたよ。どうせ君たちが来るんじゃないかって思ってたからね?』


 悪魔はそう言って微笑んだ。ようやくラスボスに会えた。これを倒せば、私は日本に帰れるはずだ。

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