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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第43話 いつも喜んでいよう

「どう? イアン、この柵壊せそう?」

「いいや、無理だわ。いくら俺でも……」


 司祭とカイリスの企みにより、森の檻に閉じ込められてしまった私達。何とか抜け出せないかと檻の柵を壊す事を考えた。イアンは男だし、体格も私よりも良いはず。それでもイアンは残念そうに首を振っていた。


 私も檻の柵を見てみたいが、鉄で頑丈だった。土を堀って脱出する事も考えたが、それも現実的でない。


 柵は高い。登って出るのも難しい。ロープやシャベルなどの道具があれば出来る事も思いついたが、今はそんなものは無い。それどころか、獣や鳥の声も響くし、どうしよう?


「聖衣、これはもう、俺らの力では無理だよ」

「だよね……」


 神様にしか頼れない状況だった。


「祈りましょう」

「おお!」


 私とイアンが地面にしゃがみ込み、祈っていた。クリスチャンが二人以上いる場所は教会になると聖書に書いてある。つまり、この檻の中だって教会だ。建物は関係ない。今は教会で祈っていると考えれば、どうにか正気を保つ事がで来た。


 それに、自今は一人じゃない。ゼレナ村でも絶対絶命になったが、あの時よりはマシだ。今はイアンがいる。


「聖衣、俺らには最強の神様が一緒についているよ。負けるな、喜べ。いつも、こんな時でも喜んでいようじゃん!」


 イアンだって私と同じ立場なのに、励ましてくれた。そうだ、こんな事で泣くわけにいかない。聖書にも「いつも喜んでいなさい」と書いてある。負けない、後ろを向かない、死なない、絶対大丈夫。なぜかわからないが、聖書のあの言葉を思い出したら、腹の底から力が沸いてきた。


「それにしてもナナさんは大丈夫かな。カイリスが悪徳会計士だったなんて」

「いやいや、もう聖女の白パンのヒットもあるし、ナナさんは大丈夫だって」


 イアンがなぜか呆れて苦笑していた。


「こんな時まで人の心配するのは、聖衣、お人よしすぎね?」


 イアンは私に視線を合わせて笑ってきた。なぜか心臓がドキドキしていた。その理由は全くわからない。今は一刻も早く逃げ出さなければならないのに。


「べ、別にお人好しじゃないから。でも、どうしよう。どうやって抜け出す?」


 日はだんだん暮れてきた。時間もない。


「そうだ。聖書にもパウロが迫害されて捕まったシーンなかった?」


 イアンは何か閃いたらしい。パウロとはイエス・キリストやクリスチャンを迫害していたが、改心し、使徒になった男。新約聖書の大部分を執筆した。


「そういえば、パウロは牢屋でも讃美歌歌って、奇跡がおきて逃げられたシーンがあったような……」

「それだよ! 讃美歌だよ!」


 私達は讃美歌を歌う事になった。確かにゼレナ村でも讃美歌を歌って逃げられた事も思い出す。今はこれしか思いつかなかった。


 イアンと二人で声を合わせ、讃美歌を歌い始めた。


 薄暗くなってきた森に私達の声が響く。歌っていると、不思議に心が神様に向き、明るくなってきた。こんな時でも「嬉しい!」と思えるから不思議なものだ。


 人間は元々神様を賛美する為に創造された。讃美歌を歌う行為は、一番そのオリジナルに戻る行為でもある。子供のように無邪気に手を叩き、笑いながら歌っていた。


 日本にいた頃、無宗教の日本人の友達からは、「讃美歌なんて意味ないじゃん。自分の努力で頑張ったら?」と嫌味を言われた事があったが、そんな事はない。


 神様がいないと思う人は、全部自分や自分の努力を信じなきゃいけないから大変かもしれない。書店に行くと「自分を救おう」とか「自分を信じよう」というメッセージの本がいっぱい売られているが、私は神様を信じる。


 どうせ自分や自分の努力などたかが知れている。ちっぽけな物だ。上には上がいる。完璧にも一位にもなれない。人間一人の力など砂粒より小さい。神様のように人や動物を創造できるわけでも、誰かの願いを叶えてあげる事もできない。


 何を信じるかは自由だが、自分の弱さを知っている私は、神様だけを見上げたかった。弱くていいんだ。喜んで自分の弱さを誇ろう。弱い時こそ私は強くなれる。


 一緒に歌うイアンも笑顔だった。こんな状況でも嬉しい、幸せだ。私達には最強の神様がついているのだ。何も怖くない。こんな状況でも喜ぶと幸福しかなかった。


「聖衣、見てよ! 鍵が!」

「え!?」


 ちょうど讃美歌を歌い終えた時だった。檻の鍵が壊れていた。こんな事は自然に起きないだろう。だとしたら、神様がしてくれたとしか思えない。聖書に書いてある通り、神様に不可能な事は何も無い。


「奇跡じゃん、聖衣!」

「ああ、嬉しい! 超嬉しい! 神様ありがとう! 神様は最強です!」


 私達は手を取り合って喜び、檻の外へ脱出した。


「よし、逃げるぞ!」

「うん!」


 イアンに手を引かれて逃げる。もう忠犬のように弱々しいイアンの姿は、どこにもなかった。

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