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第3話 エルフの娘を癒してしまいました

 馬小屋を出ると、眩しい光を感じた。目を細めながら目上げると、そこは青い空。太陽や雲もあるようだ。


 空の色は、多少日本のものよりは濃いが、全く別物ではなさそう。異世界といっても、元いた世界と親和性は高い。


 思わず抱えていた聖書の創世記の最初の方を捲る。そこには、神様が言葉で世界を創っていく様子が書かれていた。何もない世界に「光あれ」と神様が宣言して光が創造された。この台詞は効いた事のある日本人も多いと思う。


 その後に地や天体、自然、動物などを創っていき、最後には人間も創った。ただし、人間は神様に似せて創造された特別な存在。直接鼻に息を吹き込まれて創造されたが、後に堕落してしまうのだが……。


 さっきの馬小屋には子山羊や赤ちゃん馬もいた。空には太陽、雲。地面を見下ろすと、土や誇りもある。異世界といってもこの点は元いた世界と全く同じ。神様が創ったものと似ている? というか全く同じ?


 何故この異世界もそうなっているかは謎だが、元いた世界と共通点が無いとは言えないようだ。


 あとは人間がいるかがどうかだ。さっきのスラム街には人間らしき存在はいなかったし、私をこの世界に召喚した者も、たぶん人間ではない。


 さて、次はどこへいくか。


 馬小屋の周りは畑や、雑木林のような荒れた土地などが見えたが、少し先に木造の建物も見えた。二階建ての建物で、どうやら宿場のようだ。


 ずっと日本の都会に慣れていた私が、木造の建物自体が珍しい。それだけでもファンタジーだ。ビルやコンビニもない。この異世界は山奥にある田舎に来たと思えば、まだ順応できる気がする。


「うん? あの宿場っぽい建物から声が聞こえるような?」


 今のところ、人やこの異世界の民は見えないが、女性のうめき声が聞こえた。急いで宿場の前まで走ると、そこには女性が一人、倒れていた。


 いや、女性ではない。小学高学年から中学生ぐらいの少女だった。人間でもなさそう。耳がとんがっているし、目の色もエメラルドグリーン。それに肌の色も漂白したように真白。どう見てもエルフ。異世界ファンタジーによく見るような存在だった。


 こんな可愛らしいエルフだったが、目は死んでいた。うめき声を漏らし、寝込んでいる姿は、儚いほどだ。よっぽど苦しいのか、目の前にいる私の存在にも全く気づいていない。


「ど、どうしよ」


 反射的にスマートフォンを探したが、そんなものは持ってない。そもそもネットや電話も使えないだろう。今の私が持っているのは、聖書だけだった。再び聖書を抱きしめるが、今頼れるのは、やっぱ神様だけって事?


 それ以上に、このエルフの娘を助けたいという願望が大きい。今は異世界に来てしまった。牧師である父にも何か言われる事もない。


 それより、目の前に苦しんでいる人をどうにかしたい! 別に伝道とか布教とかどうでもいいし!


 果たしてエルフに癒しの祈りが有効かは未知数だったが……。


「神様、イエス様。どうか、このエルフの娘を見てあげてください。この子の痛み、苦しみが癒やされたと信じます」


 そう祈った瞬間だった。火がついたように自分の身体が熱くなり、目に前が揺らいだ時。


 エルフの娘の目は、命を吹き返していた。エメラルドグリーンの目に命が宿り、キラキラと太陽の光が反射していた。同時に元気に立ち上がり、笑顔も見せた。どうやら、祈りが届いたようでホッとした。


 まさかエルフの娘にも癒しの祈りが効いたとは。こんなサンデークリスチャンの私の祈りにも癒しを与えてくれたとは、神様優しすぎません?


 そういえば、同じクリスチャンの友達でも祈りで機械の調子をメンテナンスしていた人もいたし、異世界のエルフにも祈りが届いたとしても、そう不思議な事でもないのか? 我ながら首を傾けていた時、エルフの娘がお礼を言った。


「ありがとう! 元気になった!」


 うん? 日本語?


 いや、多分ここの言語なのだろうが、耳に普通に入ってきた。聞こえる、意味がわかる。


「え? どういう事?」


 しかも、自分の口から出る言葉も変だった。この国の言葉は全く習ってもいないのに、なぜかスラスラと口に出来るのですが。


「ありがとう! 病気が治ったよ! 聖女様ありがとう!」

「いやいや、私聖女じゃないよ。普通の日本人だって。私は聖女じゃありません!」


 エルフの娘に熱烈に抱きしめられた。意味が分からないが、この国の言葉で普通に会話ができてしまった。


 しかし、聖女様ってどういう事!?


 全く意味がわからない。この土地も言葉が話せるのも意味が分からないし、エルフの娘にそう言われるのも、意味が分からない。


「聖女様、ありがとう! 大好き!」


 一つ言えるのは、このエルフの娘に好かれて懐かれてしまった事だ。


「聖女様じゃないから!」

「いいえ、聖女様です!」


 そして、私の否定の言葉も届いていない事はよくわかった。

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