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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第38話 神殿へ行きます

 民衆というものは、本当に当てにならないと悟った。


 あれだけ司祭や聖女を叩き、神殿まで壊していた民衆だったが、今はガーリア地方で行われる球技大会に夢中。新しく球技場も建設されるようで、もう司祭達への関心を失せているようだ。街は平和を取り戻してよかったと思うが……。


 他には何の変わりない平凡な日々だった。移動販売では聖女の白パンを売り、貧困街のコリン達に会いに行き、パン作りを手伝うだけ。


 相変わらず聖女の白パンは売れ続けていた。パン屋の経営は安定していた。これには不安は全くないが、この異世界の謎については、何も進展はなかった。


 刑務所の男から聞いた高橋という男に手紙を送っていたが返事はない。ラーラからの手紙は来ていた。ゼレナ村に戻ってきたら?という提案もあり、心が揺らぐ。もうパン屋も大丈夫だし、司祭や聖女達もいなくなった。確かにゼレナ村に戻っても良い気がするが……。


「イアンはどう思う? 村に帰った方がいいと思う? というかイアンは村に帰りたかったら、帰っていいよ」


 今日は休日だ。イアンにこの事を相談していた。街の広場に行き、アイスティーを飲もながら。広場のベンチには、私達と同じようにアイスティーを飲みながら休んでいる親子連れや老夫婦がいた。


 広場の木々は綺麗な緑色。風も爽やか。気温は夏前で高いが、湿度は低いので爽やかな気候だった。アイスティーも美味しい。屋台で売られていたものだが、他にもポップコーンやマフィンなどの屋台も出ていた。食べ物の良い香りも鼻をくすぐる。


「いやあ、村には帰りません!」

「そう?」

「っていうか聖衣様にも迷いがあるんじゃない? このガーリア地方でもやり残した事ないかっていうか」


 イアンは私の心を見透かしているのか。そのまっすぐな目を見ていたら、嘘がつけなくなってきた。


「やっぱり神殿の様子が気になるんだよね。確かに変な宗教だったけど、こんな風に破壊されていいのかなって」

「その点は仕方がないよ。自分が蒔いた種じゃん」

「そうだけど……。何かを信じる事って心の支えだから。それが無くなった事を想像すると、心が痛いな」


 もし自分が聖書や教会を取り上げられたらと想像するだけで怖い。世界の終わりにはクリスチャンの大迫害もあり、牢屋に入れられて殺されるかもしれない。もっとも最後まで耐え忍ぶ者は救われると聖書に書いてあるので、過剰に怖がる事でもないが……。


「ベラの事も心配。どうしてるのかしら。ちゃんとご飯食べているといいけど」

「聖衣様、お人よしすぎませんか?」

「私がいい人だからじゃないよ。イエス様だったら、きっと敵の事の愛しなさいって言うと思うから」

「そうか……。だったら神殿行かない? 何か手がかり見つかるかも?」

「ベラはいるかな?」

「とにかく行ってみよう!」


 イアンに手を引かれ神殿に向かった。今は夏場で手の平も汗ばんでいたが、イアンは全く気にしていなかった。


 ちょっとキュンとしてしまう。イアンは忠犬キャラだと思っていたが、確かにイケメンだし、まっすぐだし、素直だし……。なぜかドキドキもする。神殿について手を離された時は、ホッとしてしまうぐらいだった。


「しかし酷い有様ですよ。柱もぼろぼろ」

「そうね……」


 神殿の柱は倒され、窓ガラスはわられ、像も破壊され、壁には落書き。落書きはベラのイラストと共に卑猥なセリフが描かれ、気持ち悪くなってくる。


 人気がないが、こんな場所には誰も来ないだろう。ある意味スラム街や貧困街より酷い。このまま放置しておくのは良くない。


「イアン、パン屋の仕事が終わったら、ここの掃除しない?」

「えー、そこまでします?」

「このままでは良くない」


 しかも神殿の土には白骨も埋まっている様だ。誰かが掘り起こしたようで、多数の白骨があるのがわかる。おそらくどれも人間のもので、生贄の犠牲者だろう。生贄儀式の噂は本当だったようだ。ゼレナ村の人身売買の噂も間違ってはいないようだった。


「うわ、本当に生贄やってたのか」

「そうみたい。っていうか、誰が掘り起こしたの。誰か探してる人でもいるの?」


 ふと誰かの視線を感じた。


「聖衣様、ベラですよ!」

「本当?」


 ベラがここにいる? 私とイアンはすぐに追いかけたが、ベラの脚は速く、まかれてしまった。


「ベラのやつ、何やってんだ?」

「さあ。でも元気そうでよかった」

「聖衣様、本当にお人よしすぎませんか?」


 イアンは呆れていたが、別にベラ生きていれば良いとも思う。確かにベラは敵だったが、不幸になって欲しくない。むしろ祝福されていて欲しいと思うが。


 そんな事を考えながらパン屋の方へ歩く。今日はベラが生きれいるだけで良かったという事で、帰ろう。


「あれ? イアン、店の前に誰かいない?」

「そうでね。お客様かな? 定休日って知らないお客様ってたまにいるから」


 しかし、店の前に近づくと、驚きで変な声が出そう。


 そこにいるのは日本人の男だった。黒髪に平べったい顔の男。勇者の格好をしていたが、ちょrと内股だし、日本人体型だった。年齢は二十五歳ぐらい。イアンと同年代か。色黒で健康的な風貌だったが、なぜこの異世界に日本人?


 懐かしさと驚きで声も出ない。


「お客様、今日は定休日なんです」


 イアンが営業スマイルを見せるが、日本人の男はもっとキラキラした笑顔を見せた。嫌味なほど眩しい。


「初めまして。私は聖衣さんに会いに来たんです。高橋と申します。高橋優吾です」


 あの手紙を送った高橋? この男も転移者?


「私はこの世界について知っている事を全て話します。まあ、日本に帰れるかは分かりませんが、何かのヒントになるかも?」


 高橋はずっと笑顔だった。腹に一物がありそうな笑顔で安易に信頼はできないが、まずは話を聞こう。


 これは最後のピースかもしれない。あとは完成を目指すだけだ。相変わらずどんなパズルが出来上がるか予想もつかないが。

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