第36話 ざまぁ展開継続中です
日本人は大人しいと言われていた。重税になっても何の暴動が起きず、大人しい日本人は、特殊なのかもしれない。
「献金返せ!」
「聖女も司祭も出てこい!」
今日も街では暴動やでも活動が繰り広げられていた。
移動販売で街の来てみたが、司祭や聖女に不満が溜まっていた街の人々は、大暴れていた。
あの聖女対決がきっかけになってしまった。おかげでナナさん達が開発した聖女の白パンが大ウケしていたが、私はちっとも嬉しくない。
「今日は神殿を壊しに行くぞ!」
「おー!」
暴徒化した民衆達は、神殿も壊しに行っているようだ。
酷い手のひら返しだったが、さほど驚いてはいなかった。
聖書でもイエス・キリストは救世主だと民衆に持ち上げられていた時もあった。それも一瞬で手の平を返され、十字架につけられる結果となった。民衆の心はうつろいやすく、芯がなく、欲望に忠実という事は万国共通かもしれない。
聖女ベラや司祭の事も心配になった。結果的に自分が引き金を引いてしまった事だ。確かにベラは私を攻撃してきた相手だが。
ざまぁ展開になったのに、全く嬉しくない。むしろ、ベラはどうにか民衆達の攻撃から逃げて欲しいと思うぐらいだ。
神殿もこの後どうなるのだろうか。壊されたとしても、嬉しく無い。自分と違うものを信じる人の神殿だったが、壊れていく様子を想像すると、胸が痛くなってくる。
確かカルトじみた宗教だったが、信じるものがなくなった人達はどうなるのか?
宗教は結局、心の拠り所、最後の砦のようなものだ。それが無くなった時の民衆を想像すると、安易に笑えない。むしろ心が痛い。
「ねえ、おじさん。司祭やベラはどうなったか知らない?」
暴徒化した民衆が去った後の広場は、静かなものだ。聖女の白パンを売りながら、客から噂を聞いても見る事にした。
「さあね。何でも国外逃亡したとか、魔王のいる王都に逃げたって噂だね」
「魔王はこの事知ってるの? というか魔王はどこにいるか知ってない?」
「さあ。でも、まあ、こんな騒ぎになってるからバラしていい?」
おじさんは聖女の白パンを食べながら、あの神殿では女や子供を生贄に捧げていたと告白。別の世界から召喚して生贄儀式をやっていたという。魔族達は召喚した人間を司祭の売ると大金を得られたという。いわゆる人身売買だ。
「あんたも生贄で召喚されたんか?」
「たぶん、そうね……」
この異世界に来た経緯はだいたい分かってきた。おそらくゼレナ村でも神殿に生贄を売り渡す人身売買があったのだろう……。
「あの聖女ベラも元生贄っていう噂。でも、司祭に気に入られて聖女やってたとか」
「そうなんだ……」
「でもベラが悪いよな。今まで全部聖女の奇跡も詐欺だったなんて、悪どすぎるだろ。俺も薄々詐欺だって気づいていたけど、献金損したわ。返して欲しいもんだわ」
おじさんはパンを食べ終えると、神殿を壊す為に民衆の方へ行ってしまった。人が良さそうに見えたおじさんだったが、「聖女ベラにざまぁするぞ!」とゲスな笑みも見せていた。
「はあ、そっか。生贄の人身売買は本当だったのね……」
このガーリア地方に召喚されたのも、おそらく生贄目的か。一体どういう方法でターゲットを決めているかは謎だが。魔族がやっている事だ。そこは私がいくら考えても分からないだろう。
気づくと、広場はもう人がいない。みんな民衆と一緒に神殿を壊しに行ったのだろう。神殿の方からサイレンや大声が響き、耳を塞ぎたくなってしまった。
「本当に民衆って手の平返しが好きだね……」
この広場で司祭に献金をしていた民衆は、もうどこにも居ないだろう。あんな献金していた人々も、心の底から魔王や司祭を信じていたわけでは無いのだろうか。
私はどうだろう。もし目の前でイエス・キリストが十字架にかけられていたら、何ができるだろう。たぶん、怖くなって逃げてしまう。そんな自分の心は強くない。私も民衆の一人なのかもしれない。今の民衆を止めさせるのは、不可能のように思った。
「たぶん、ここの居ても聖女の白パンは売れないね。ナナさんやイアンはこのパンのヒットに大喜びだけど……」
移動販売用の自転車にが、まだまだ商品が積められていたが、もう仕事する気も萎んでいく。聖女の白パンのヒットで経営は軌道に乗っていたし、思い切って今日はサボってしまおうか。
残ったパンはコリン一家に届けよう。久しぶりの貧困街へ向かい、コリン達にあったら、癒された。
「お姉ちゃん、パンありがとう!」
「あらあら、この聖女の白パンってやつは美味しいねぇ」
コリンの母親にも聖女の白パンを食べて笑顔だった。貧困街では民衆の暴動に行くものは少ないらしい。民衆が仕事を放棄している間、貧困街の人にも仕事が回ってくる事が多く、忙しいらしい。
コリン達もチラシ折りやカゴ作りの内職のしごが見つかり、この騒ぎにも感謝しているらしい。
「お姉ちゃんのおかげだよ」
「そうですよ。あの死刑囚に本当のことを告白させたのは、あんたのおかげだ」
二人に励まされ、元気が出てきた。自分がやった事は良い結果を産まなかったと思い込んでいたが、そうでもなかったと思いたい。
「ところでこの街の刑務所ってどこにあるの?」
あの聖女対決で出会った男は連行され、結局元の死刑囚に戻ってしまったが気になっていた。
「この貧困街の坂をずーっと下ったところだよ」
「大きな墓地があるから、それが目印になるだろう」
コリン達に刑務所の地図も書いてもらった。貧困街からさほど遠くない場所のあるようだった。
「ありがとう。あの男に会ってこようと思う」
「うん、そうしな」
「聖衣お姉ちゃん、ありがとうね!」
二人に見送られ、刑務所へ向かった。民衆を止めさせる事は出来ないが、まだまだ私が出来る事もありそうだった。




