第35話 聖女対決!
Xデーはあっという間にやってきてしまった。
聖女対決は、娯楽の少ない異世界人にとってはエンタメのよう。街のあちこちにポスターまで貼ってあり、勘弁してほしい。他にも記者が来るとか、屋台も多数出店する予定とか、本当に勘弁して欲しい……。
ナナさんやカイリスさんは、こんな商機は逃さないと「聖女の聖なる白パン」というものまで開発し、会場の周りで売るらしい……。
イアンも私を応援する為のうちわまで作り、ノリノリ。以前、日本でアイドルや推し文化がある事を話した事を後悔した。
結局、身近な者も味方になってくれず、現在、聖女対決出場の為に会場にいた。広場の裏手にあるトイレにいたが、冷や汗しか流れない。観客の歓声が響く度に胃が痛い。一応聖母マリアのコスプレを着てみたが、たぶん何の力も発しないだろう。
それでも祈ってはいた。もし盲目の人がいるになら、癒されるようにと。
海外のクリスチャンでは盲目や難病の人を治している人もいるらしい。可能性はゼロではないが、対決なんて……。
今は広場のステージでは、聖女ベラのダンスや歌が披露されているが、歓声や拍手がすごい。アイドル並みの人気があるよう。ここでノコノコ出て行ったら完全にアウェイ。ブーイング確実だ。石が投げられるかもしれない。
それでも神様の事を伝えるチャンスか?
しかし宣教した後に祈りが届かなかったら、こんなダメな事はない。
どうしよう。絶体絶命だ。
時間はどんどん過ぎていく。正午まで五分前になり、私はステージ裏へ。
そんな五分もあっという間に過ぎ、私はブーイングを受けながら、ステージに上がった。
ステージの中央には男がいた。この男は明らかに盲目だった。客がポップコーンやクレープのカスをステージに投げていたが、避けきれない。そもそも客がこんなものを飛ばすのは、完全に私のせいで居た堪れない。
「皆さん、こんにちわ」
もうどうしようもない。ブーイングを受けつつ、自己紹介をした。日本という国でう生まれ、クリスチャンである事、神様の事を話したが、ブーイングは止まらない。
「だったらその全能の神がいる事を証明しろよ!」
「そうだ、そうだ! 俺らは魔王様を信じているんだよ!」
「神を信じなかった先祖は地獄にいるのか? 偏狭な一神教だな!」
「嘘つき! この女、嘘言ってるぞ!」
「神がいるなら何で悪人や犯罪者がいるんだよ、答えろよ!」
アウェイすぎる。ゼレナ村で歓迎されていた時と大違いだ。これだけでも心が抉れそう。
会場の周りでは、ナナさんやカイリスさんが白パンを売っているのが見える。イアンは私を応援するのはすっかり忘れ、女性客にパンを売っていた。パンは大人気のようで行列もできていたが。
意外と商魂逞しいな!
イアン達を見てたら、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。
私は盲目の男に近寄り、彼の手のひらの上に私の手を重ねた。
「本当の癒せるのかよ? っていうか俺なんて、こんなんだ。誰も俺の事なんて愛さねぇよ」
「え? どういう事?」
「こんな悪者の俺なんて、だーれも必要としていないんだ」
男はなぜか泣きそうだった。
「そんな事ないわ。神様だけは、あなたを愛し、許してる。絶対に見捨てない。どんな罪があっても、それは同じ。罪まみれの時から神様はあなたを愛してる。神様はあなたの事を癒したいと思ってるよ。修行や苦しみで成長させる事とかしないから」
そう言っただけだった。私にとっては、ごく当たり前の事だったが、男はなぜか号泣。絶叫しながら泣いていた。
ブーイングをしていた観客達も、ぴたりと止まった。ゴミも飛んでこない。それぐらい熱量のある泣き方だった。
「大丈夫。大丈夫、そんなあなたの事も愛されてる。何か心の溜まっているものがあったら、ここで全部吐き出してしまった方がいい」
私もこんな男に戸惑うが、精一杯優しい笑顔を向けた。たぶん、この男は孤独なのだろう。この涙も孤独のせいだ。
「ああ。俺が全部悪かった!」
男はなぜか土下座まで初めている。
「ちょっと、そんな謝る必要はないよ。土下座はやめよう」
私はしゃがんで男の視線に合わせるが、無視。その上、とんでも無い事を告白し始めた。
男は死刑囚だった。あと一ヶ月で死刑が決まっていたが、ベラが尋ねにきた。ステージ上で盲目の男の演技をしてくれれば、その罪をチャラにすると。
「何言ってるのよ! 罪をチャラにできるお方はイエス・キリストだけだよ! その為にイエス様は十字架につけられたんだから!」
「そうなのかい? あああああ! 俺は何て罪人なんだ! 俺はこんな嘘をつきだ。俺は普通に目は見えてるのに! ベラと共謀してみんなを騙そうとしていたのに! それなのに、こんな俺を許してくれる方がいるなんて!」
会場は水を打ったように静かになったが、私と男は抱き合い「アーメン! ハレルヤ! あなたの罪は十字架の上で贖われ、赦され救われました! 天の御国は近づきました! マナラタ、主よ来て下さい〜!」とキリスト教用語を連発していた。救われた喜びを男と分かち合っていただけだが、会場の皆の表情が変わっていくのは何故?
しかもみんな怒ってるような?
その怒りは私や男に向けられる事はなかった。観客の怒りは、聖女ベラや司祭、宗教関係者に向けられていた。
「今まで俺らを騙していいたんだな!」
「ベラも司祭も今までの献金返せ!」
「今までの聖女の奇跡も全部パフォーマンスだったんだ!」
「許すもんか! この詐欺師ども!」
ベラ達はあっという間に吊るしあげられる、石も投げつけられていた。
「ちょ、みんな、やめて!」
私は止めようとしたが、暴走した民衆には誰も手がつけられなかった。
「きゃあー、みんな逃げるわよ!」
「ひとまず神殿の方へ逃げるぞ!」
石を受けながらも逃げていくベラ達。これってざまぁ展開?
でも私の気持ちは晴れなかった。腐ってもクリスチャンだからだろうか。
敵を愛しなさい。
聖書のあの言葉が頭から全く離れなかった。
ざまぁなんて思えない。ざまぁはお客さんとして見てるから楽しいのだ。実際、その立場に立ってみたら複雑だった。




