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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第31話 持続可能な異世界の為に

 商売というものは、何が起きるか分からない。ナナさんのお父さんがよく言っていた言葉らしい。おかげでナナさんは慎重な性格になったという。


 パン屋の経営は順調だったが、昨日、天候が荒れた。強い風と雨により、移動販売はもちろん、店舗にも客ほとんど来なかった。この異世界には天気予報の技術はほとんど発達していない。魔族が占いや雨乞いをする事が多いという。


 宗教が根付くこのガーリア地方は、司祭が一ヶ月分の天気を占っていた。占いによると、昨日の天気は晴れだったが、大外れ。


 結果、パンも作りすぎてしまい、大量に余ってしまった。確かに商売は何が起きるかわからないものだ。


「司祭の占いなんて信じた私が馬鹿だった」


 ナナさんはそう言って余ったパンを袋に入れていた。厨房には余ったパンが入った袋が幾つかある。どのパンも見た目、匂いに異常はなく、捨てるにはもったいないのだが。


「ねえ、ナナさん、イアン。このパン全部捨てるの?」


 私はこのパンを捨てるのは、納得できなかった。


 日本にいた頃、教会では生活困難者に食糧提供するボランティアもしていた。近所のパン屋から売れ残りのパンを貰い、仕分けし、生活困難者に渡す仕事だ。そんな日本での事を思い出すと、どうしても捨てる気になれない。


 日本では食品ロスについても、意識が高まっていた。持続可能な地球のためだ。教会の近所の教会も、その為に快く協力してくれた事を思い出す。


「っていう事で、余ったパンは貧困街に配りに行こうと思うんだけど、どう? どうせ今日は定休日だし」

「まあ、聖衣ちゃんがそう言うんだったら、いいか」

「聖衣様! 俺はお供します!」


 ナナさんんとイアンは賛成してくれたが、会計士のカイリスさんは、文句をつけた。すっかりカイリスさんはこのパン屋の一員だ。税金面だけでなく、予算についてもカイリスさんに任せっきりだった。私だけでなく、ナナさんもイアンも数字や計算に弱いし。


「そんな貧困街に配りに行ってどうするんですか? 何か得するんですか?」


 さすが会計士。損得勘定は得意なようだ。


「でも、聖書には弱者に優しくしなさいってある。弱者に優しくする事は神様に優しくする事と同じだから。私はそうしたいと思う」

「えー、本当です? そんなの何の得になるんです?」


 カイリスさんはドヤ顔。嫌なドヤ顔だった。そういえば、この人、礼拝の誘った時も似たような言い訳をして来なかった。


 一度彼の事を癒し、神様を受け入れて貰った経緯もあったが、本心ではなかったかもしれない。というかご利益目的で神様を信じた可能性もある。日本でもこういうタイプがいた。「神様を信じたら、何かいい事あるですか? お金持ちや健康になりたいです」とストレートに言われた事がある。


 確かに神様を信じたら金持ちになったり健康になる事もよくある事だが、それは単なる副産物だ。あくまでもイエス・キリストと人生を共にする事がキリスト教の根幹だ。もしかしたら、カイリスさんは何か誤解しているのかもしれない。私はそういうご利益とキリスト教は相反するものだと説明したが、微妙な表情をされてしまった。もしかしたら、癒してはいけないタイプの人にやってしまったかもしれない。


「まあまあ、カイリスさんも聖衣様も難しい事はいいじゃないですか。一緒にパンを売りに行きましうよ」


 この場の空気は険悪になりかけたが、イアンの明るい笑顔に救われた。結局、私とイアンで貧困街にパンを配りに行くことになった。あの移動販売用の自転車に余ったパンを詰め込み、さっそく貧困街へ。


 今日の天気は昨日と違い、快晴だ。風もここち良い。もうすぐ夏に入る季節で、暑い。それでも日本と違い空気が乾いていて、汗でベトベトしないのが気持ち良いものだ。


 パン屋のある路地裏から街の中央に出ると、細い道を歩きながら、北部にある貧困街へ向かった。イアンが自転車を押してくれた為、歩くのはだいぶ楽だったが。


「カイリスさんて、なんか、こうケチじゃない? お金好きだとは知らなかったよ」

「まあまあ、聖衣様。たぶん会計士が天職なんだろう。ケチも使い用でしょ」


 カイリスさんの態度を思い出し、イライラしてきたが、イアンはそうでも無い。むしろ、私が宥められる始末だった。


「そうかな。あの人、なんか信頼できないんだよね」


 日本の教会でも、ご利益目当てで来る人がいたが、献金箱を盗むというトラブルがあった事を思い出す。幸い、取られた額は少額で、本人も反省していたので警察には通報しなかったが、どうもその時の人とカイリスさんが被って見える。


「聖衣様、それは考えすぎですよ。こんな自転車作った人が悪いんですか?」

「いや、聖書にも書いてあるけど、人は罪があるからね。魔がさす事もあるでしょ。イアンはないの?」

「俺ですか?」


 隣にいるイアンに聞くと、王都にある王宮で暮らしていた時は、美女が多く、遊び回っていたらしい。


「やだ、最低」

「そうっすね。でもあの時、魔が刺したといえば、そうかもな」

「ところで王宮ってどんな所? 魔王は見た事ある?」


 そういえばイアンの過去は全く知らなかった。子供の頃の過去は記憶にないというが、知りたいような、知りたくないような……。


「俺は王宮でも下働きだったから。魔王なんて見た事ないね」

「本当?」

「おお。っていうか、誰も見たことない。限られた人しか見られないし」

「民衆の前には?」

「たまに出る事あるけど、最近はないな。死んだっていう説もあるぐらい」

「そうか……」


 そういえば魔王は田舎に篭り、影武者をたてている噂も聞いた事があった。どっちが本当なのだろう。


 この異世界は悪魔が支配しているという仮説を立てた事もある。魔王=聖書でいう悪魔。そんな発想も浮かんできたが、証拠はない。そうだとしたら、エクソシストのような事をすれば、日本に変えれる可能性もあったが、魔王は一体どこにいるのか?


「聖衣様。そんな考え過ぎないで下さいよ。つきますた。この辺りが貧困街です」


 気づくと、貧困街の目の前についていた。木造の古い家ばかり。生ゴミの匂いも漂う。比較的近代的なガーリア地方の中では、かなり貧乏臭い。ゼレナ村のスラム街から酒場や性産業を抜いたような雰囲気だ。子供もいたが、全員裸足で服もぼろぼろ。風呂にも入れないのか、顔も真っ黒だった。


「さあ、聖衣様。行きましょう。いざとなったら、俺を盾にして逃げましょう」

「たぶん、そんな事にはならないと思うけど……」


 こうして貧困街へ足を踏み入れていた。今はとにかくここでパンを配る事を優先しよう。魔王の事を考えるのは、それからでも遅くない。

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