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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第24話 異世界ハローワークへGO!

 異世界の職業紹介は混み合っていた。いわば、ここは日本でいうハロワークと言われている場所だ。ザレナ村と比べれば近代的な建物で、文化レベルは昭和初期ぐらいか。


 パソコン、コピー機はないようで、手書きの求人票が張り出されると、求職者が虫のように群がっていた。


 日本のハローワークのようにこ失業保険の給付などは無さそうだが、相談員が面談などもしていた。


 私も試しに求人票を見たが、すぐに希望が失せてしまった。楽な仕事は魔族ばかり。または魔法が使えないとつけない高スキルな仕事ばかりだった。日雇いの仕事も数自体が少なく、貧困層が奪い合っている模様。そもそも私はこの世界の文字はほとんど読めないので、それだけでもハンデがあった。


「ああ、想像以上に異世界ハローワークは厳しいわ」


 待合室で椅子に座ると、頭を抱えそうになってしまった。せめて村へ帰る為の旅費だけでも稼げれば良いのだが、仕事自体が少なそう。


 ちなみにこのガーリア地方は、魔力を失った元魔族達が多く、それが原因で宗教組織もできているようだった。近くにいる求職者達の話によれば、熱心な信者も多く、神殿では給料の半分以上を貢ぐものも少なくないという。思わず「カルトみたい」と思うが、口に出したらいけない雰囲気だ。


 他にもこの国も魔王を崇めている聖典や、戒律をまとめたルールブックも人気なようで、熱心に読んでいる求職者も多かった。気持ちはわかるが、良い行いが救いに関係ないというキリスト教にどっぷり浸かって育った私は、違和感しかない。


「あ、イアン。何か良い仕事はあった?」


 イアンが側に帰ってきたが、浮かない表情だ。結果は聞かなくても分かる。


「それが本当に仕事がないです」

「困ったわね」

「もういっそホストやろうかな。それでしばらく食い繋げれば……」

「それはダメ! 神様が悲しむ。もしイアンがまたホストの戻ったら、縁切る」

「そうか、そうですね。昼の仕事を探します!」


 すっかり忘れていたが、イアンはホストだった過去がある。今は残念な忠犬に成り下がってしまったが。金色の髪の毛のブルーの瞳、背も高いイケメンだった。


 聖書では身体を売る行為は、禁じられていた。それはルールで縛っているのではなく、必ずその人に害があるからだ。身体が他人と一体になると、精神、魂、心と言われているものも全部一体になる。当然、相手のもつ呪いや病気、悪いものも受けとることになり、不特定多数の人と性交をするのはあらゆる意味で危険なのだ。もっともそうなっても、祈りで断ち切る事はできる。いわゆる縁切りもできるが。


「そうか、神様はそこまで考えてルールを作ってたのか。ああ、俺は悪い事してたのかも……」

「あ、まさかイアン。悔い改めの祈りしてるの?」


 まさかイアンは過去を悔い改めしていた。聖書にはそんな過去に向き合い、神様の祈る事を悔い改めという。私が何も教えていないのに、悔い改めまで出来るとは、クリスチャン素質ありすぎか? もしかしたら、イアンも癒しの祈りができたりしないだろうか?


 別に祈りは私の専売特許でもない。癒しができるのなら、イアンにもやって貰っても良いぐらいだ。この点については何の欲もない。むしろ聖女様などと言われると困惑するのだが。聖母マリアも一部で過剰に拝まれているが、おそらく彼女も普通の女性だった気がする。天国にいるマリアはだいぶ困惑していそう。


 そんな事を考えていると、近くにいた求職者達が笑いはじめた。


「あの女は病気になって両親も死んだんだよな」

「ちゃんと魔王様を信仰していないからだ。ダメな女よ」


 求職者達は、前の方に座っている女について噂しているようだった。確かに具合が悪そうで、座っているのもやっとという感じだ。歳は二十五歳ぐらいだが、青白い顔色のせいで、三十代ぐらいにも見える。


「あの女は献金もろくにしていなかったらしい」

「だから病気になったんだ。いや、先祖のカルマのせいか?」


 求職者達が好き勝手の噂していたが、腹が立ってきた。


 私はここの人達が信仰する魔王とかよく知らない。中には立派な教えもあるんだろうが、病気や怪我などの不幸は先祖のカルマとか自己責任という教えは、キリスト教にはなかった。


 聖書でもそれはイエス・キリストがはっきりと否定していた。そもそも人の事を裁けるほど立派な人か不明だ。ここの求職に来ている事も、失業中だからだろうが、それも前世のカルマ問題?


「腹立つなー。何ここの人達。信仰は個人的なものだし、自己責任とか他人がいう事じゃないし」

「聖衣様、怒ってます?」

「うん。やっぱり私、放って置けないかも……」


 私はあの女の元に近づいた。イアンも後についてきた。


 近くで見ると、女の顔色は余計に悪く見えた。それに髪もかなり傷んでいた。この土地は乾燥している所だったが、それだけが原因でも無さそうだった。


「こんにちは。私は聖衣っていうの」

「聖衣さん? ここらでは見ない顔ね」

「俺はイアンです! 何か困っている事はありませんか?」


 私には明らかに警戒していた女だったが、人懐っこい笑顔のイアンには、ちょっと心を開いたかのように見えた。イケメンパワーは万国共通らしい。


 確かにホストは良くない仕事だったが、こうして女性の心を掴む立ち振る舞いができるのは、イアンの良い面かもしれない。


 聖書には「全ての事を益にする」とも書いてある。イアンの悪い過去も、こうして益になったりして?


「実はずーっと具合が悪いのよ。本当は家のパン屋もやりたいんだけど、両親も死んでしまったし、私は元々魔力もないし。仕事しても神殿に献金しなきゃいけないし。はは、これは前世の罰かね。魔王をちゃんと信仰していない報いなのかね? ぶっちゃけ魔王なんて無能だと思ってるよ」


 女は今にも泣きそうだった。聞いていて心が痛い。こんな風に人を苦しめるだけの宗教に何の力があるのだろう。信仰はあくまでも自発的に自由にするものだ。少なくとも私は誰にも強制されずにクリスチャンになった。


「そんな。何かを信じるって気持ちは、本当は素晴らしいものじゃない? 俺は最近神様という存在を知ったけど、神様の事を信じたいって思うと、何だか幸せな気分になるよ」


 イアンもこの女には、深く同情しているようだ。そう、イアンの言う通りだ。本来なら、何かを信じる気持ち自体は尊いもの。その気持ちを利用し、支配したり、お金を取ったり、苦しめる宗教組織が問題なのだ。


 もっとも私のいたキリスト教もそれが出来ているかは疑問だ。うっかりしているとカルト化しやすいのも事実で、いつの間にか本来の信仰心を忘れてしまう宗教組織が珍しくはない。


「あなたは名前は何というの?」

「ナナよ」

「そう、ナナさん。もうそんなの苦しまないで。私が信じる神様は、誰かが苦しむ事は望んでない。病気になんてさせない。いつも良い事しか与えない。前世のカルマも罰もないよ。もう苦しまないで」


 私はそう言うと、ナナさんに癒しの祈りをした。今日はイアンも一緒に祈ってくれたおかげか、即刻で彼女も顔色が悪くなった。


 この変化を周囲に悟られたら不味い。私達はナナさんを連れて、職業紹介所から逃げた。


「え? 身体が子供の時のように軽い? どういう事?」


 ナナさんはよく意味が分かっていないようで、目をパチパチさせていた。無理もないだろう。


「ああ、きっとあなたは聖女様ね?」

「いやいや、違います!」


 また誤解を受けそうだったので否定したが、確かに聖母マリアのコスプレをしている今は、色々と誤解を受けそうではある。


「是非お礼がしたい。私の家へ来てくれませんか?」

「あの、そんなお礼なんて……」

「聖衣様。良いじゃないですか、行きましょうよ! それにウチら、行くところ無いです」

「えー? 聖女様達、行くところが無いんですか? だったら尚更私の家に来ましょうよ!」


 こうなったら、ナナさんの厚意を受けるしか無いかもしれない。結局、私達はナナさんの家でしばらく世話になる事になった。


 とりあえず、今日や明日の寝床は確保できたようだ。それも嬉しいが、ナナさんが元気になった事が一番嬉しかった。

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