第22話 また召喚ですか!?
また夢を見ていた。
日本にいた頃の記憶を夢で見ていた。高校生の時の私が、友達と聖書の話をしていた。別に私が無理矢理勧誘したわけではなく、友達の方から興味があると言ってきたので、聖書の話をしていたのだった。
名前はミズキという友達だった。アニメや漫画も好きで気が合う仲で一番親しいと言ってもいい。
「聖書って難しい過ぎない? 何で処女のマリアが妊娠するの? ファンタジー?」
もっともな疑問。ミズキが疑問に思うのも無理はないが、この特殊な生まれ方は、神様には罪が全くない存在の証拠である事を説明した。
それにファンタジーの元ネタも聖書である事が多い。日本人が書いているファンタジーでも、無意識に聖書要素があったりする。例えば修道院が出てくるファンタジーも多いが、これも元々はキリスト教のものだ。
「へえ。っていうか、福音書のイエス様強すぎじゃない? 俺tueeeeっていうか神tueeeeじゃん!」
「えー、そう?」
「そうだよ、聖衣。地獄とか死後さばきにあうとか言わないで、神様がめちゃくちゃ強いって事をまず先に言ったらいいんじゃね? うん、黙示録でも悪魔も全部ざまぁされるって書いてあるじゃん?」
ミズキにはそんなアドバイスをもらったが、現状の日本の教会では難しいところだった。癒しの祈りですら禁止されるし、クリスチャンとして清く正しくしろという同調圧力もある。おそらくこの辺りが普通の日本人からすると、息苦しそうに見えて、キリスト教も誤解を受けているのだろう。
何故かそんな夢を見ていた。日本の夢なんて見たのだ。きっと日本の帰れるだろうと思ったが、違った。
「ああ……」
目の前が真っ黒になった。私は再び魔法陣の上にいた。どこかの地下室のようで、黒ずくめの男達に取り囲まれているではないか。
日本じゃない。それどころか魔法陣の上だ。また異世界の来たばかりの時に戻ってしまったかと思ったが、目の前にいる黒ずくめの男達は、村の人ではなさそう。スラム街にもいないタイプだ。
それにずっと呪文を唱えているのが不気味すぎる。時々、生贄とか捧げるという単語も聞こえてきて、頬が引き攣った。もしかしたら、私は生贄として呼ばれた可能性もある?
聖書には悪魔の生贄を捧げるシーンもあった。古代のユダヤ人達は神様に反抗し、悪魔に子供を捧げたり……。この生贄は、現代でもやっているという噂を聞いたこともあった。特にカトリック教会でも幼児虐待スキャンダルは、生贄儀式のようだとも言われていた。
実際、カトリック教会の跡地で白骨遺体が発見されたニュースも聞いた事がある。プロテスタントでも似たようなスキャンダルがあり、アメリカで子供が誘拐されると生贄で殺されたのではという噂も流れるそうだ。実際、アメリカでは子供の誘拐がとても多いと聞くが……。
そんな事を思い出すと血の気が引いきた。とにかく逃げないと!
この場所はどこか不明だったが、黒づくめお男達を振り払い、どうにか逃げられた。男達も呪文を唱えるのに必死で隙があった。
気づくと、街中にいた。パン屋、八百屋、カフェなどが立ち並び、あの村と比べて近代的だった。道もちゃんと舗装されていて、歩きやすい。
異世界といっても、人型の住民ばかりのようだ。ラーラのようなエルフや小人族などは全く見当たらない。
それに今着ている聖母マリアのコスプレも全く違和感がない。街の雰囲気に溶け込んでいた。ここの人達は古代イスラエルのような服装をしている人が多かった。
「ま、まさか異世界から古代イスラエルにタイムスリップしてしまった? いや、まさかー?」
冷や汗をかきながらも冷静さを取り戻す。街の人々が使っている言語は、古代イスラエルのそれではない。あの村人と全く同じ言葉を使っていた。
という事は、ここは相変わらず異世界らしい。古代イスラエルっぽいのは謎だが、近くにいたおじさんに話しかけた。
「すみません。ここってどこですか?」
「は?」
驚くのも無理はないが、一応答えてくれた。ここはガーリア地方の中心部。神殿を中心とし、近代的な街が形成されているという。
ガーリア地方?
すぐにピンときた。村でもこの地方の噂を聞いた。確か宗教があるとか聞いていた。魔族が召喚しているのも、この地方の何か謎があるんじゃないかとも言われていたが。
「その宗教って一体何を拝んでいるんでだか?」
まさかキリスト教だったりしないだろうか。こんなに古代イスラエルっぽいとしたらユダヤ教の可能性もある?
「は? キリスト教とかユダヤ教なんて知らないよ。ここは魔法王国だ。魔王を崇めている宗教組織と神殿があるのさ」
「そ、そうですか……」
「でも君にこうやって善行したから、ポイント一増えたよな」
「え?」
「こういう善行すると、魔王様に認められて、良い事もあって天国に行けるのさ」
なるほど。こも地方に宗教があるのは確からしい。善行すれば良い事があるというのは、どの宗教にもある。スピリチュアルでもそういった教えがあるだろう。一方キリスト教では、そんな教えはなく、人間の善行や努力など神様に比べたらクソみたいなものという教えだったが。善い行いも信仰がないと全部無意味という考えだった。
この後、私はとにかく街の人に声をかけ、この地方について情報収集した。みな善行として親切に対応してくれたが、神殿や生贄儀式といった話題になると、口をつぐんでしまった。
それでも、イアンらしき男を見たという情報は入手した。街の中央にある噴水広場に居るというので行ってみる。
「イアン!」
そこにはイアンがいた。人だかりが多い広場だったが、イアンの姿はすぐに見つかった。村では邪険にしてしまった事もあるイアンだったが、こうして再会すると、懐かしさで涙が出そう。再会できてホッとしていた。
「聖衣様! 無事でしたか!」
イアンも安堵したようで、二人で泣いて喜んだが、これからどうしよう?
「村へ帰れないの?」
「無理です。地図をみたら、一ヶ月以上の旅になります。その為には金も稼がないと……」
「そんな、でも日雇いの仕事とかは?」
「探しているんですが、ここはそういう仕事はあんまり無いようで……」
「ええ、どうしよう……」
さっそく壁に当たった。おそらくここにも、誰かから召喚されたのだろうが、帰る方法が不明だった。
「ああ、困ったわ……」
イアンに再会できた事は嬉しいが、この後はどうすれば?
「こういう時こそ祈るんじゃないですか?」
「あっ。そうじゃない!」
絶望しかけたが、私は祈る事ができる。最強の神様がついている。絶望するのはまだ早い。




