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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第20話 異世界にも終末があります

 あの後、私は疲れで爆睡してようだ。気づいたら、宿場のベッドの上にいた。窓の外を見ると、朝。呑気な小鳥の声を聞きながら、ようやく助かったと実感した。


「聖衣様ー!」


 ちょうどそこにイアンがやってきた。いつものように尻尾を振ってやってきたようだが、なぜか大号泣。


「聖衣様が助かって本当に本当に嬉しいです! ああ、全くあの薮医者のやつ!」

「いや、もう泣かないで? っていうか、イアンが泣く事ってある?」


 いくらなんでも泣きすぎじゃないか?


「イアンは聖衣がいなくなって本当に心配していたのよ」


 そこにラーラもやってきら。お盆も抱えていたが、その上にお粥やハーブティーもある。いかにも病人食だったが、私への朝食だという。確かに今はこの病人食がありがたい。


 ベッドで上半身だけおこし、朝食をいただくことにした。


「ありがとう、ラーラ」

「いや、いいんだよ。これはママが作ってものだし」

「聖衣様! 俺が食べさせてあげます!」

「ちょ」


 イアンはスプーンを取り上げ、お粥をすくって私の口元に持ってきた。


 これはどう見ても恥ずかしい。子供扱いされている。いや、赤ちゃん扱いか。ラーラはニヤニヤ笑っているので、顔が真っ赤になってしまう。


「いやいや、やめて。自分で食べれるから」

「そんなー」

「そんなシュンとしないでよ。っていうか、一体私はどこにいたの? あの落とし穴って何?」


 お粥を食べながら二人に聞いてみた。きお粥は日本では珍しいミルク粥。米ではなく、オートミールのようか穀物で作られたお粥だ。最初は乳臭い匂いが苦手だったが、食べるたびに美味しくなってきた。具合が悪い時は、グルメ過ぎない料理が胃に優しい。ハーブティーもカモミールティーにそっくりな味や見た目だったが、傷んだ喉によくきく。


 二人に聞くと、あの後村中を探したらしい。


「イアンはスラム街まで行って探したんだよ」


 ラーラにそこまで聞くと、さすがに今までのイアンへの態度が悪かった気がしてきた。


「イアン、あ、ありがとう」

「いやあ、聖衣様に褒められて光栄だな! そうだ、やっぱり俺がお粥を食べさせてあげます!」

「いやいや、やめて?」


 やっぱり図体が大きいイアンにお粥を食べさせられるのは恥ずかしい。意外と調子に乗りやすいタイプらしい。逆に言えば褒めれば伸びるタイプかもしれないが。


「で、どこ行っても聖衣はいないし、結局、スラム街の情報屋を頼ったのよ」

「あの、フーゴさん?」

「うん。で、あの藪医者が噛んでるって事を突き止めて、ようやく探し当てたってわけ」

「あの落とし穴は藪医者が保有している空き地にあったんだ」


 なるほど。これで全てが繋がった。あの医者も藪医者だと村で嫌われているようだ。


「じゃあね。私はこれから宿場の仕事があるから。ゆっくり休んでね」


 ラーラは食べ終えた食器やお盆を持って行ってしまった。部屋には私とイアンだけが残された。


「しかしあの藪医者はむかつきますよ。俺が数回殴ったらようやく吐きました!」

「ええ、殴ったの? それはダメだよ」


 確かに助けてくれたのはありがたいが、暴力はどうなんだろう? それにこの件は私が癒しの祈りを不注意にした事が原因だ。この癒しは最初は誰かの為だった。自分が褒められたいとか、宣教や布教をしたいという意図も全くなかったが、結果的には誰かの不利益にもなっていたのだ。そう思うと、この癒しの安易にできない。もっと慎重にすべきだったのは、完全に私の落ち度。


 聖書でもイエス・キリストが癒しを行うシーンがあったが、「この事は誰にも言わないように」と釘をさすシーンもある。本当はこれぐらい慎重に行った方が良かったのかもしれない……。


「そんな聖衣様、自分を責めたらいけない。少なくとも俺は救われた。セイ様が癒してくれて嬉しかったよ」

「イ、イアン……」


 まっすぐで素直な言葉だ。言葉だけでなく、その目も真っ直ぐ。眩しいぐらいだった。


「そうね。あんまり考えすぎるのも良くない」

「そうですよ。今回の件は藪医者が悪い。そもそもあいつが正当な金額で仕事をやってないのが悪いんですから」


 プンスカと怒っているイアンの姿を見るだけで面白くなってきた。ちょっと笑ってしまう。


「あ、聖衣様笑いましたね?」

「だってイアンが面白いんだもん」

「良かった。聖衣様は別に癒しなんて出来なくたってオッケーですよ。こうして笑っていれば、神様も嬉しいんじゃないですか?」

「そうか、そうかも……」


 聖書には「いつも喜んでいなさい」という神様からの言葉もあった。確かに今はこんな状態だったが、命は救われた。この宿場の人たちはみんな優しい。ミルク粥やハーブティーも美味しい。ラーラもいい子だ。イアンも面白い。こんな状況でも喜び、感謝できる事は山のようにある。それに異世界に転移してしまった事も神様からの試練だとしたら、単純に辛いだけの事ばかりでもなく、嬉しい事かもしれない。


「でも、お花畑になるわけには、いかない。実は私、あの後……」


 悪魔の誘惑にあった事もイアンに打ち明けた。イアンは王都の王宮にいた事もある。何かこの世界の謎について知っている事はないだろうか?


「へえ。聖衣様のいう神様ってちゃんと悪役も配置しているんですね」

「うん。こういう悪役もいると、余計に神様が光に見えるというか。私達の信仰を強める悪役っていう部分もあるね」


 私は聖書を開きながら、イアンに悪魔の役割も説明していった。同時に神様の正義や赦しなども伝えていくが、イアンは興味があるらしい。私の話をちゃんと聞き、よい生徒だった。


「確かにこの魔法国家は、聖書のいう悪魔ってい奴が噛んでるかも?」


 イアンも考え込んでいた。


「悪魔って神様の真似したり、劣化コピーさせるのも好きなんだよね。もしかしたら、この世界って悪魔が作ったパラレルワールド的な場所?」


 ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。


 日本では悪魔の姿は一度も見たことが無い。それなのに、この世界でははっきり見えた。声も聞こえたし、ダイレクトに誘惑もしてきた。


 この異世界は悪魔が作ったパラレルワールドだとしたら、謎だった事も辻褄があう。太陽や月など自然物があるのも、神様の真似っこして創造した物とか? でも悪魔にそんなクリエイティブな事は出来る気もしないが。


「そうか、その可能性は高いかもしれないが……」

「イアンはどう思う?」

「うーん。わからん。でも、悪魔ってヤツを倒せば、この世界は終わるのか? 終末?」


 世界の終わり?


 まさか異世界で「終末」という言葉を聞くことになるとは、予想していなかった。


 それでも「最後まで耐え忍ぶ者は救われる」。聖書にそう書いてある。今はまだ諦める時ではないはず。

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