表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/52

第16話 なぜか日本食が喜ばれたのですが

 劇は台本を変えたり、演技を変えたり、こ細かい所を微調整しながら、だんだんと良くなってきた。コンテストという大きな目標ができた事が大きいようだった。


 今日は、衣装を買う為、私は一人、市場に来ていた。今日は稽古はお休み。イアンは日雇いの仕事、ラーラも宿場の手伝いがあった為だった。


 一人で市場に入るのは緊張したが、村人達の賑やかな声や果実や肉などの売り物に目が奪われる。ちょうど衣装に合いそうな衣服も安く古着屋で手に入り、嬉しい。


「あんた、最強聖女って呼ばれている女かい?」

「え?」


 なぜか古着屋の主人にそう言われた。


「噂がたってるぜ。何でも病気も怪我も癒せる最強の聖女様だって」

「いえいえ、私はちょっと癒せるだけです。聖女でもありませんし、最強でも無いですから!」


 私は必死に否定した。とはいえ、古着屋のご主人は肩こりが酷いというので、癒しの祈りをすると、目を丸くさせていた。


「おぉ、本当に聖女様じゃないか!」

「だから、聖女では無いですよ。本当に私の力じゃないですから」


 ご主人にも神様のことを伝えたが、ちゃんと聞いてはくれない。聖女様とキラキラした目で言われてしまい、困ったものだ。


「ただ、聖女様。あんまり目立たない方が良いかもしれない」

「え、どういい事?」


 感動していたご主人だったが、声を小さくして、周りをキョロキョロ覗っていた。


「この国は医者は魔族しかなれない」

「 そうなんですか?」


 それは初耳だった。村の医院一応存在すると聞いていたが、ラーラ一家からは評判が悪かった。必要以上の検査や薬を出し、余計に具合が悪くなるとか。


「おお。医者からしてみたら、聖女様は商売邪魔するヤツだ。気をつけた方がいい。特に魔族は何をするかわからない」

「そ、そうなのね。気をつけるわ」


 何も考えずに癒しをたっていたが、その可能性は全く考えていなかった。憂鬱になりそうだったが、市場で偶然、お米とそっくりな穀物をみつけた。


 この国の主食は基本的にパン。あとは雑穀などで、米の出番は滅多にないと聞いていたので、懐かしい。


 さっそきき米も購入し、宿場のキッチンを借りておにぎりを作った。具は魚のオイル漬けを使ったが、意外と合うものだ。


 ホームシックにはかかかっていなかった私だが、おにぎりを作っていると、懐かしさで胸がいっぱい。古着屋のご主人からの言葉もすっかり全部忘れてしまった。


 翌朝もおにぎりを作り、広場に持っていった。今日は劇の稽古の日だったが、イアンやラーラにもあげると、何故か喜ばれた。


「何このおにぎりって食べ物は! 超美味しい!」

「俺もこのおにぎり好きだー!」


 ラーラもイアンもん涙目で喜んでいた。普通、味覚は子供の頃に完成される。異世界人であるラーラやイアンが、こんなに日本食を喜ぶのがおかしい。


 異世界といっても、この村のパン、肉、魚、菓子はそこそこ美味しい。飢饉があるわけでもないし、何故こんなにおにぎりを喜んでいるのか謎。


「何かおにぎりって懐かしいな。うまいよ……」


 イアンに至っては涙目で喜んでいた。単に私に気を遣っている気もしたが、涙を流しながら食べる姿は、嘘ではなさそう。どういう事?


「もしかして、この異世界って日本と関係ある? 昔、日本人が来てたりした? だったら、この世界にお米を持ち込んだ日本人がいたりする?」


 その可能性も考えられたが、二人とも知らないという。


「もう、聖衣は考えすぎだよ。単におにぎりの味に感動しただけ」

「そうですよ、聖衣様。さ、おにぎりも食べ終えましたし、稽古しましょう。今日は通しでやってみましょうよ」


 単に私の考え過ぎか。おにぎりの美味しさは、異世界人も魅了してしまったという事だろうか。


 首を傾げていると、広場のどこかから視線も感じて振るかえる。といっても広場には私達以外は誰もいない。これも気のせいか。たぶん、日本に帰る事を考え過ぎてナーバスになっているのかもしれない。


 ま、帰れなくてもいいか?


 こうして米もある異世界だ。聖書もあるし、神様への祈りもできる異世界だったら。そこまで酷い場所でも無いかも?


 気が楽になってきた所で、再び劇の稽古に戻った。


 今日は通し稽古だ。衣装のあの聖母マリアのもののを身をつけ、最初から演じる事になった。


「おめでとう、恵まれた方」


 ラーラの天使・ガブリエラのセリフが響く。ちょうどガブリエルがマリアや妊娠を告げ知らせるシーンだった。


「主があなたと共におられます」

「ガブリエル、この挨拶は一体何なの?」


 私のセリフも響く。はっきり言って私は大根役者だ。戸惑っている演技もわざとらしいなぁ〜と思った瞬間。


 ふわりと身体が宙に浮いた。周囲が光に包まれ、眩しい。何も見えない。


 もしかして日本に帰れる?


 こんな大根役者の芝居でも大丈夫だったのか? それとも「主が共におられます」という言葉の力か?


 ああ、良かった。帰れるんだったら、何でも良い。


 ラーラやキースさん、ダナさんと別れるのは辛い。イアンとも離れてしまうのも寂しい。


 日本に帰れると思うと、彼らとも絆ができていたと気づく。


「まって、ラーラにもイアンにも、皆んなにさよならも言ってないの!」


 必死に叫ぶが、光に包まれ、意識も途切れてしまった。


 仕方がない。目覚めた場所が日本だったら、諦めるしか無いようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ