第14話 予想外の事を聞いてしまいました
情報屋・フーゴさんは、スラム街のバーで酒を飲んでいた。
最初、フーゴさんの住むアパートに向かったが、いなかった。近所に住むエルフに聞くと、近場のバーにいるというので、さっそくやってきた。
ちなみにそのエルフは慢性的な頭痛や吐き気があるというので癒してあげたら、菓子もらってしまった。飴やクッキーなど小さな菓子類だったが、カゴいっぱいもらってしまい、イアンに持たせていた。少しは忠犬的態度を抑えていたイアンだが、そのカゴを持つと大喜びしていた。その姿は忠犬にしか見えない。尻尾をふっているのが見えそうになるぐらいだったが。
薄暗いバーに入ると、カウンターで誰かが飲んでいた。
「あいつが情報屋のフーゴです」
「本当?」
情報屋といっても、見かけは怖かった。色が浅黒いエルフ。おそらくダークエルフと言われている種族だろう。髭も髪もモジャモジャ。ボロボロのタンクトップにジーンズという格好だったが、清潔感はゼロ。年齢は五十歳ぐらい。第一印象はサンタクロースを思いっきり不潔にさせた感じだ。
「はじめまして」
「ああ?」
フーゴさんに近づくと、明らかに睨まれた。酒臭い。顔は赤くなっていないので、酒には強そうだが、私は負けそう。どう事情を話して良いか迷っていると、イアンが代わりに話してくれた。あのカゴの中にある飴やクッキーをあげると、明らかに上機嫌。私達の事情も笑顔で耳を傾けていた。
「ふうん。君はその異世界から来た女か。胸も尻もぺたんこで色気はねぇが、物好きのおっさんに身体を売れば生き残れるかもよ?」
「え……!」
とんでも無い事を言われた。絶句するしかない。フーゴさんの不潔感ある要素も急に気持ち悪くなってくる。いわゆるセクハラを受けてしまった。おそらく男女差がある異世界では当たり前の事なのだろうが、現代日本で生きてきた私はショックだ。
確かに私は色気ないけど……。
思えば私のいたキリスト教界隈は、こういったセクハラとは無縁だった。というかタブーな感じ。逆にちょっとでも婚前交渉した過去でも告白しよいとしたら、居場所が無くなってしまう教会もあると聞いた事ある。そういう知識は保健体育止まり。実は聖書には雅歌という色気たっぷりな話もあるが、私はその点は免疫皆無だった。
「情報欲しい? だったら、俺と仲良い事しようや。タダで情報あげるとか、ダメだよ?」
絶句している私にフーゴさんは、さらにセクハラ攻撃してきた。ショックでもっとフリーズ中。今の私は性能の悪いパソコンになった気分だった。
「それはダメです! 聖衣様には指一本触れさせませんよ! フーゴさん、だったら俺と寝ましょう」
固まっている私。一方、イアンはセクハラにセクハラで対抗していた。これは守ってくれたという事か? いつの間にかイアンとフーゴさんは睨みあっていた。すぐにでもケンカが起きそうな雰囲気で私は必死に止めた。
「あ、フーゴさん。手首どうしたの?」
ふと、フーゴさんも右手首を見たら、誰かに噛み付かれた跡があった。くっきりと歯形はついいていて痛そう。
「ああ、実はキャバ嬢達とちょっとトラブって。金返せって言われ」
「ダメじゃん、フーゴさん」
「イアン、そんな事言わないで。これぐらいの跡だったら、すぐよくなるよ」
私はフーゴさんにも癒しの祈りをした。すると、その噛み跡もすっと綺麗に消えた。
「はあ? お前、なんだ? 聖女か? なんなんだ?」
明らかにフーゴさんは戸惑っていたが、これで心を開いたらしい。あっさりと神様がいる事も受け入れた。意外と素直なのかもしれない。
「そうか。そんな神様という存在がいるのか」
やはり、神様や宗教を全く知らない異世界人の方が受けれやすいようだった。
「で、フーゴさん。何か知らないか? 俺は魔族達が別世界から人を召喚しているという噂を聞いて」
イアンも大人しくなったようで、私達が一番聞きたい事を聞いていた。
「そうだな……」
フーゴさんは勿体ぶっていたが、飴を舐めつつ、ようやく重たい口を火開いていた。酒臭いがここは我慢だ。
「魔族達が何か召喚儀式をして、人身売買はやっている。これは魔族の知り合いから耳にしたから本当だ」
あの噂は本当だったらしい。つまり、私も魔族に召喚され、この異世界に転移してしまったという事か。
それでも私は必死に逃げたので人身売買はされていない。逃げられなかったらどうなっていたの?
「まあ。もっとも召喚儀式は成功確率は低いらすしいが。召喚した人間をどうするかは不明。俺もあんたみたいな異世界人は初めて見た。人身売買といってもこの街で身体を売るような事はしていないだろ」
フーゴさんの話が本当だとすれば、私は何の為に召喚されたのだろうか。少なくとも身体を売る目的ではなさそうだった。
だったら、臓器を売ったりする為か? この異世界の医療技術はどこまでかは知らないが、移植ができるのなら、その可能性もあるが、どうも納得できない。人外の身体の人間の臓器が適合する可能性は低そうだからだ。
「だったらフーゴさん、何の為の魔族は召喚なんてやってるの? 何か知らない?」
酒臭いフーゴさんにも食い気味にきいてしまう。
「さあ。まあ、噂だがガーリア地方の魔族達は召喚スキルが高いと聞いた事がある」
私の熱意に押され。フーゴさんはポロッと漏らした。
ガーリア地方?
そういえば、昨日リラさんもその名前をあげていた。宗教組織があるという地方名だったが、どういう事?
点と点は揃っていたが、どうも結びつかない。うまく答えは出ないもどかしさの、口の中を噛みそうになった。
「他に何か知りません? さっきは睨んですみません」
驚いた事のイアンは謝罪もしていた。よっぽど私の為に情報を聞き出したいのだろうか。これは忠犬というより、何というか……。
「うーん。まあ、これも噂だが、召喚魔法をくらった後は、その前と全く同じ行動を取れば、元に戻れるって聞いた事が」
「本当?」
「本当か!?」
酒臭いフーゴさんの私もイアンも食い気味だった。
「だから、噂だから! 確証はないからな!」
そうはいってもヒントが手に入れられた。まだ何の答えも出ていないが、後退した訳ではない。むしろ前進したかもしない。
「聖衣様、召喚される直前、元いた世界では何をしてました?」
イアンに質問される前に思い出していた。
クリスマスイブだった。教会で劇の出し物をする為に、聖母マリアの衣装を着ていた。劇ではイエス・キリストの誕生シーンを演じるはずだった。
「そうだ、それですよ! 劇をやってみましょう!」
「えー、劇?」
イアンはそう提案するが。劇なんてする機会なんて、思いつかない。
「とりあえず劇をやってみればいいじゃないか」
フーゴさんは酒を飲みながら笑っていた。所詮、他人事なので、余裕があるのだろう。
「聖衣様、劇ですよ、劇。劇をやりましょう!」
イアンはもう劇の事しか頭に無いようった。あの聖母マリアのコスプレ衣装は二度と着る機会は無いと決めつけていたが……。
「じゃあ、イアン。あなたはヨセフ役か天使ガブエルの役できる?」
「はい、喜んで!」
意味わかってるのか? この調子だったら、マリアは処女で妊娠した事もあっさり信じそう。
「とにかく劇をやるしかないか……」
これで日本に帰れるのなら仕方ない。劇をやるしか無いようだった。




