第11話 旅人も癒したら、こんな話を聞きました
村人達は昼はたっぷりと時間をかけスローライフな異世界だったが、仕事をしていないわけでもないようだ。
あのランチの後、イアンは日雇いの仕事を探しの行ってしまったし、ラーラも宿場でダナさんやキースさんと事務仕事していた。
掃除はともかく事務仕事は手伝うのは難しいそうだ。単なる事務作業だけでなく、チラシ作りなどもやっているようで、これを手伝ってのは難しいだろう。
という事で私は宿場のロビーで暇していた。ロビーにある本なども見てみたが、さすがに文章を読むのはできなかった。異言もリスニングとスピーキング限定らしい。もう少しこの国の歴史や地理を知りたいと思っていた時、宿場の客が一階から降りてきた。
老婆の旅人のようだった。真白な髪の毛は一つにまとめていたが、足腰はしっかりしていた。ラーラと同じように耳がとんがっていたので、おそらくエルフ族だろうが、少々具合が悪そうだった。顔色が悪い。というか酒臭い。おそらく昼に飲み過ぎて具合が悪くなったと思われる。かくいう私もランチで飲んだ酒が美味しく、ワイン一杯だけでも酔すぎそうな悪寒がして、自制していた。
「お婆さん、酔ってる?」
「ああ、調子に乗ってさ。ちょいと、具合が悪いよ」
お婆さんは、名前はリラというらしい。こもナロッパ国の周辺の国や地域に旅をしているそうだが、最近は疲れる事も多いらしい。
「歳かねー、やっぱり身体にがたきてるわ」
そう笑うリラさんは酒臭い。ゲスっぽいお婆さんだ。こんなお婆さんを癒すのが、ちょと躊躇った。それでも具合が悪そうな人が目の前にいると、放っておけなくなってしまった。リラさんも癒してしまった。
「何だい? あんたが聖女様かい?」
リラさんは目を丸くして驚いていた。確かに祈りだけで癒されたらびっくりだろう。
「私は聖女じゃありませんよ。実は異世界から来た普通の女子大生。クリスチャンですけど」
「クリスチャン?」
「ええ。元いた世界には神様や宗教というものがあってね」
一から神様や宗教という概念を説明するのは。骨が折れたが、変な教育やメディアの洗脳もない。かえって日本人より素直に私の話を聞いてくれて有り難いぐらいだった。これが日本だったら、変な色眼鏡で見られ、時にはカルトと混合したり、変わり者扱いされる事も多かったが、リラさんは「そんな全能な神様ってすごいじゃん!」と言ってくれた。
「でも宗教はさほど良くはないよ。このせいで争いも起きているから。私の住む日本ではその点は色々あった。海外のように宗教戦争みたいのはなかったけど、宗教を金儲けとかに悪用する人は昔からいっぱいいるんだよね」
「そうか、そういう事か……。でもそんな絶対的にすっごい方がいるには安心感あるよな。この国では自分を信じろっていう教えだけど、自分なんてクソって私はよく知ってるんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。昼間っから酒飲んで、良い歳して旅して遊んでるしな。それに公開処刑で盛り上がっているし」
「そうか……」
確かに「自分を信じろ」って時にはキツいかも。いつだって万全でもないし、人間だったら罪もある。リラさんが私の話をちゃんと聴いてくれたのも、自分の弱さにも向き合って生きていたからかもしれない。本当はそういう者こそ神様が一番必要かもしれない。
「あ、でもこの国でも宗教? 何かを信じている地方都市がある噂を聞いた事がある」
「え、本当? どういう事?」
ラーラの話では、このナロッパ国は宗教や神様の概念が無い場所と聞いた。それでもインターネット、テレビ、雑誌などもメディアがない国だ。ラーラの情報だけが全てでも無いのかもしれない。
「うん。ガーリア地方っていう所だったかな……。なんかそういう目に見えない神様っぽいものを信じる組織や団体があるとか」
これは良い情報を聞いた。もちろん、キリスト教などではないだろうが、宗教組織があるという事は、やはり元いた世界と親和性がある。まるっきり別世界でもなさそうだし、こうして神様への祈りが届いている世界だとしたら、帰るヒントも捕める?
「ありがとう、リラさん」
「いや、良いんだよ。こっちこそ癒してくれてありがと。聖女様だよ!」
「だから聖女じゃないよ!」
必死に否定するが、リラさんからはお礼にこの国の語学学習の本も貰った。これでこの国の言葉も勉強できそうだ。確かに文字も読めた方が良いだろう。
その夜、私は語学学習の本を読み、明日イアンとスラム街へ行く事を考えていた。
「イアンが一緒とはいえ、スラム街へ行くのは不安かもなー。まあ、何とかなるか……」
それにしても、この国にも宗教組織らしきものがあったとは。確実な情報では無いが、もしその地方に行ったら何かわかる?
ガーリア地方。
今は何も分かってはいないが、小さなヒントは見つけた気がした。




