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最強聖女〜異世界転移しましたが、このチートスキルは「聖」過ぎます〜  作者: 地野千塩


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第9話 イケメンが忠犬化してしまいました

 翌日、昼前。


 私はラーラと一緒に宿場の門や玄関を掃除していた。ラーラ一家は「のんびり居候していいよ!」とは言ってくれたが、さすがにこの条件でニートにはなれない。そして暇だとろくでも無い事を考えてしまいそうだった。


 もっとも、ラーラと一緒に宿場の前を箒ではいていると、昨夜の事を思う出す。掃除中もろくでもない事を考えていた。


 昨夜、あの青年をうっかり癒してしまった。そして自分の事を犬と言い、私の奴隷になると誓っていた。


 あの後、青年は尻尾を振った犬のように私についてきて、振りはらうのに苦労した。逃げるように宿場に帰り、そのまま寝た。


 私はただ目の前にいる傷ついている人を癒しただけだ。本当に何のリターンも望んでいない。私のようなクリスチャンになれという欲もない。聖書の中で神様の病人を癒していたが、そんな目的でやっていなかった。癒した人に「弟子になれ!」とか言っていない。ただただ助けただけ。自分もそんな目的しかなかった。まさかあんな風になるとは、全く意味がわからない。予想もしていなかった。


 あの調子では、私のいる宿場も突き止めて来そう。というかそんな悪寒しかしない。イケメンなのに、忠犬化? 残念すぎないか?


「はぁ……。どうしよう」

「聖衣、どうしたの?」

「実は……」


 ラーラに心配され、昨夜の事を全部話してしまった。


「そう。あのイアンを助けたのね。聖衣はやっぱり優しいわ」

「そんなんじゃないけど、あの人、イアンっていうの? どういう人なの?」


 私よりラーラのほうがイアンについて詳しいだろう。箒を動かしてながらも聞いてみた。ラーラは微妙な表情。おそらくイアンはこの村では好かれていないと察するが。


「イアンは、ホストね。スラム街で身体売って生活している見たいだけど、元々は魔族という噂」

「魔族?」


 ホストであるのは知っていたが、魔族というのは初耳だ。あの容姿は人間とそっくりで、人外らしさは全くない。エルフのラーラのように耳もとんがっていない。普通だった。


「何でも王都の城で働いていたみたい。でも、城で女に手を出しまくって、魔王の怒りに触れて魔力も全部取られたとか。追放されてこの村にたどり着いたっていう噂」

「魔力がとられるとどうなるの? そんな事ってあるの?」

「ええ。魔力なしの人間は、私達人外よりも身分が低い。いわゆる奴隷ね。だから、イアンはなんとなくいじめていい空気があったというか。悪い事とは思ってたけど」


 つまりイアンは空気感でいじめられていたのか。それは驚かない。現代日本でのいじめも似たようなものだからだ。クラスの中でも何となく空気で序列つけられ、いじめられっ子も空気がある子は、何やっても良い感じか。


 かくいう私も食前の祈りをしたり、クリスチャンである事で神社参拝の遠足などを拒否したら、露骨にいじめられても良い空気になった事がある。一度この空気になってしまうと、大変だ。逃げるのも難しい。イアンについては、私もあまり良い印象は持てなかったが、村中でいじめられていると思うと、可哀想。


「イアンは友達や家族もいるの?」

「いないでしょ。だからあなたに初めて優しくされて、忠犬化したんだろうね。気持ちはわかるよ」

「そうか……」


 忠犬化したイアンは正直気持ち悪かったが、そんな背景があったら仕方ない。身体を売るようなホストの仕事も、生きる術だったのだろう。


 もちろん、聖書を読むと、そういった性産業の仕事は良くない事だともわかる。婚前交渉や頭でちょっとエロい事を考えるのも、不品行とされる。でも、別に私がイアンを裁く権利はない。もちろん、そういった仕事を辞めたほうが良いと言う事もできるが、その忠告を耳に入れるかは、本人の自由。所詮、他人の自由意思はコントロールできない。


 それでも、やっぱりそう言った仕事は、辞めた方が良いとも思う。聖書がいうルールをガチガチに守れと言いたいにではなく、本人が不幸になるからだ。結局、聖書のルールも神様が愛を持って定めているもの。人間に不幸になって欲しくないから定めているもので、破ったら不幸になる可能性が高い。


 一時的にイアンの傷を癒せても、結局、本人の不幸の根っこを取り除けなかったら意味がないのかもしれない。癒した事もあんまり意味がなかったのかもしれない。結局、再び性産業の仕事に戻ったら、イアンの不幸の根っこは解消しない事と同じだった。


「そうか……。せめてイアンにも友達や家族がいればなぁ……」


 再びため息が出そうになった時だった。何処から足音がし、宿場の目の前にイアンがいた。


 ここの来そうな悪寒はしていたが、その予感は的中してしまったらしい。もっとも顔や身体の傷はいえ、元気そうなのは良かった。頬もツヤツヤとし、元気過ぎるぐらいに見えた。それに右手に大きなバスケット、左手に花束を持っているのも気になる。


「聖女様!」


 イアンは再び跪きそうな勢いだったので、私とラーラで必死に止めた。


「ちょ、イアンどうしたの? 聖衣のこと崇拝しているみたい」


 ラーラはしきりに驚いていた。


「や、崇拝とか辞めて。私は聖女じゃないから。すごいのは神様だから。それに私はホストみたいな事している人は嫌い!」


 今のイアンは暑苦しい。目をキラキラさせながら、私を見つめていて勘弁して欲しい。ついついキツい事を言ってしまう。それでも彼は全くへこたれなかった。意外とメンタル太いな!


「うん! だからホストの仕事も全部辞めて日雇いの仕事してきた! 夜から朝にかけて土木現場で働いて、これ買ってきたのだ!」


 そう言うと、イアンは私に花束を差し出した。これは崇拝というより、恋人にあげるかのような仕草で、ただただ戸惑ってしまう。


 予想外の展開。まさかあの仕事を辞めるとは。


「えー、イアン。マジで仕事辞めたの?」

「おお、ラーラの言う通りよ。聖女様のためだったら、土木現場の仕事でも何でもします! 俺を犬として扱ってください!」


 ワン!


 イアンはそう吠えても、全く違和感がなさそう。


 イケメンなのに残念になった。忠犬化させてしまった。


 困った。全部これは私のせいだった。ホストのような仕事を辞められたのは、悪くないと思うが……。


 仕方なくイアンから花束を受け取る。白くて小さな可憐な花だった。もしかしたらイアンに目に自分はこう見えているのだろうか。


 勘弁して。これってハードル爆上がりじゃない。


 私は聖女じゃありませんよ!

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