表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

第十九話 100階層

 空気という空気が陰をうちに込め、ざらつく床の敷石には千年にも渡る、捨てられたあらゆるものが積もって山をなし、恨めしげにすすり泣いているようにさえ見えた。所々で燃える火も見えようが、それも悪意の燃えるような黒い炎。

 この広い会堂の奥底からの正体の知れぬ轟音が途切れることはまずなく、瘡蓋のような石に覆われた壁も常に細かく震えていた。

 だが、轟音が世界を振るわすには、この場所は世界からあまりに遠く離れていた。

 やがて、暗闇の中に積もった汚らわしい山が崩れた。そこからよろめきつつ歩み出たのは幽鬼に見える人間。そう見えても、なんらおかしくないほど、その男は今にも死なんとしている外見だった。

 朽ちた襤褸のような体を引きずり、しかし、それも三歩となし得ず、男は立ちこめる闇の中、ひざまずくかのように崩れた。男の、骸骨のようになった手が伸ばされた先には、耐え難いほど威圧的な、100という数字が描かれていた。

 男はその強大な存在から逃れようと、傍らに立つ石碑へと這い寄り、後ろに隠れようとする。

 その石碑の上にあるのは、エレベーター呼び出しボタン。

 それを見ると、男はその身から判別するには、信じがたい力を呼び覚まし、自力で立ち上がると、どうにかして腰から剣の残骸を引き抜いた。

 石碑へと剣の狙いを定める。

 男が喉から大音声を発した。

 それが怒りの一声だったのか、嫋々とした悲痛の声だったのか、世が知ることはかなわない。

 ダンジョンの無限の、複雑な胸楼を登る間に、声はねじ曲げられ、そして消えていった。



 そして、100階層のモンスターたちはゆっくりと目蓋を開いた。




お読みいただき、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 検索で目を引かれて読み始めましたが世界観に引き込まれての一気読みでした。大変面白かったです。 [一言] 昨今の作品には無い風潮という印象でしたが、もう10年前になる作品なんですね。 今もな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ