第十九話 100階層
空気という空気が陰をうちに込め、ざらつく床の敷石には千年にも渡る、捨てられたあらゆるものが積もって山をなし、恨めしげにすすり泣いているようにさえ見えた。所々で燃える火も見えようが、それも悪意の燃えるような黒い炎。
この広い会堂の奥底からの正体の知れぬ轟音が途切れることはまずなく、瘡蓋のような石に覆われた壁も常に細かく震えていた。
だが、轟音が世界を振るわすには、この場所は世界からあまりに遠く離れていた。
やがて、暗闇の中に積もった汚らわしい山が崩れた。そこからよろめきつつ歩み出たのは幽鬼に見える人間。そう見えても、なんらおかしくないほど、その男は今にも死なんとしている外見だった。
朽ちた襤褸のような体を引きずり、しかし、それも三歩となし得ず、男は立ちこめる闇の中、ひざまずくかのように崩れた。男の、骸骨のようになった手が伸ばされた先には、耐え難いほど威圧的な、100という数字が描かれていた。
男はその強大な存在から逃れようと、傍らに立つ石碑へと這い寄り、後ろに隠れようとする。
その石碑の上にあるのは、エレベーター呼び出しボタン。
それを見ると、男はその身から判別するには、信じがたい力を呼び覚まし、自力で立ち上がると、どうにかして腰から剣の残骸を引き抜いた。
石碑へと剣の狙いを定める。
男が喉から大音声を発した。
それが怒りの一声だったのか、嫋々とした悲痛の声だったのか、世が知ることはかなわない。
ダンジョンの無限の、複雑な胸楼を登る間に、声はねじ曲げられ、そして消えていった。
そして、100階層のモンスターたちはゆっくりと目蓋を開いた。
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