第十八話 一連の事件の顛末と、新局面を迎えようとしている社会
事件の真相が明るみに出ることはないだろう。
ダンジョン・マスターは難攻不落であるはずの自分の階から忽然と消え、彼の階の警備員は全滅していた。これほど奇怪な事件は現代であっても希なはずだ。
街では、ついにダンジョンのモンスターがシャフトをよじ上る方法を見つけ、人の世界を制圧する手始めとしてマスターを消滅させたか、誘拐したのだろう、などといった仮説が飛び回り、大衆紙も好き勝手なことを書いた。
そして、企業組合の追及の手は伸びてこなかった。
マスターが消えたすぐ後に、商人の敵は戦いを始めた。混乱は増し、死人も増えていった。シーフやその味方は自分たちを『解放者』と名付け、その実体は明らかになっていなかった。噂によると、解放者の掠奪船が企業組合の商船団を壊滅させたとのことだが、なんにせよ、企業組合はその対処に追われ、ダンジョンにかまってなどいられなくなった。
マスターの地位を引き継いだ者は、ダンジョンを今まで通り運営することを目的とし、冒険者やエレベーターボーイの前に姿を現しさえしなかった。
解放者たちの中のホロンが、企業組合の疑いの目をエレベーターボーイからそらすために活動を行ったのなら、それは功を奏したことになるし、おそらくはしたのだろう。ホロンの不手際に対する償いか、それとも、それさえもホロンのプランの一部で、マスターという企業組合の一角を崩すための道具としてエレベーターボーイを使ったのか。
これも明らかにはならないだろうことだった。
エレベーターギルド設立が近づくにつれ、多忙になることは分かっている。だが、それでもエレベーターボーイは可能な限り、彼のエレベーターに冒険者を乗せてシャフトを駆け下りていくことだろう。
ダンジョンの底を目指して。