第十四話 7階層
しばらくすると、ボンダーがダンジョンにやって来た。
エレベーターの籠はダンジョンの7階層に停まり、二人の男が薄明かりの下、七輪を囲んでタマネギを焼いている。
「無愛想なおまえから食事の招待とは、珍しい事だな」
ボンダーはそう言って、タマネギを剥く。
エレベーターボーイの口数は少なかった。
「しかし、このダンジョン産タマネギの味にも飽きてきたぞ。豆は育つのにまだ時間はかかるだろうし。まったく、この街はわしを飢え死にさせるつもりか!? 店屋の棚は十日も前から空のままだぞ! ウオオオ!」
ボンダーは怒る。
だが、エレベーターボーイは暗い声でぼそりと、
「俺が死んだあとは、いかような者がこのダンジョンを任せられるのだろうな?」
「なんだと!?」
大男の怒りは消し飛んだ。
「並のエレベーターボーイに百の階層は無理だ。だとすると、挑戦者の少ない階層は閉鎖されていくのだろうよ……」
「おいおい、何を言ってるんだ! おまえほどのエレベーターボーイが簡単に死んでたまるか! 死ぬ事は許さんぞ! わしがいつか100階層を制覇するときに、そこまで下ろしてくれるのは誰だと思ってるんだ!」
大男は騒ぎ、籠が揺れた。
ボンダーが勝手にライバルと決めている、ギールとシャルナがダンジョンから帰ってこなければ、この男はどう反応するだろうか。エレベーターボーイは想像した。ライバルを消えた事を喜ぶよりも、二人が唐突に消えた事に対する怒りで、全体力を使ってしまうのだろう。彼はそういう男だ。
「おまえは疲れているのだ、エレベーターボーイ。少し休暇をいれてみろ。今日の午後には東方の帝国から来ていた交易船団が帰国のために出港するらしい。きっと見物だぞ。行って見てくりゃいい」
「東方の帝国からの交易船団?」
「そうだ。だが、わしには遊んでいる暇などない! 一刻も早くレベルを上げねば! 100階層を最初に制覇するのはギールでもシャルナでも他の誰かでもない! このわしだ! ウオオオ!」
ボンダーは興奮して長斧を振り回した。
エレベーターボーイはそれを無視して、七輪の火を見つめた。一分ほども難しい顔をしていただろうか。
やがて、顔を上げた。
「ボンダー、おぬし向きの階層があるぞ。ダンジョン産農作物と、手強いモンスター双方がそろった階層だ」