真相
●山吹 薫
「おい、どこ行ってたんだ」
「ごめん」赤佐は、切らした息を整えながら言った。「さっき会ったお姉さんと話をしてた」
「どんな話してたんだよ」俺は肘で赤佐をつつきながら言った。
「うーん、山吹ならいいか」と赤佐は呟いた。「夏休み、宿題をしに図書館に行った時のこと覚えてるか?」
「あぁ。お前が急用があるからって言った日だろ?」
「実はその後、あのお姉さんに会いに行った」
「ナンパしたのか!?」
「声が大きい、やめろ、そんなんじゃない」赤佐は続けた。「山吹に見せてもらったあの謎解きについて聞きたかったことと、言いたいことがあって会いに行ったんだ。
あの紙に書いてあるのは、レストランで火災事件が起きて、被害者2名を出した事件だということが分かる。文章には情報を求むと書いてあるのに、具体的な情報がどこにも書いてないんだ。そんな回りくどい書き方で情報が集まるわけがない。そのことをあのお姉さんに言いに行った」
「そうしたら、お姉さんは何て言ったんだよ」
「“だったら協力して”って言われた」
「え?」俺は眉を顰めて言った。
「それで事件の詳細を聞くことになって、お姉さんの名前もその時に知ることになった。記者をしている、土田さんっていう人だった」
「あの人記者だったのか!」
「そう。で、その事件にうちの生徒が関わってるかもしれないって訳で、いろいろあって今、生徒会で協力してる。」
「そういうことだったんだな。で、その関わっているかもしれない生徒は見つかったのか?」
「いや、まだ見つかってない。土田さんも俺もお手上げ状態だ。この種目が終わったら、会長と合流して3人で話してみようと思う。視点を変えれば見えてくることもあると思うから」赤佐が溜息混じりで答えた。
「俺に何か出来ることはあるか?」
「うーん」赤佐は、考え込んだ表情で言った。「分からない、ごめん。でも話を聞いてくれてありがとう」
「わかった……また昼食休憩のときにでも聞かせてくれよ」
「ありがとう」赤佐は笑顔で言った。
俺は赤佐と別れた後、火災事件の事で力になれたのではないかと、頭の中がモヤモヤしていた。いてもたってもいられず、俺は赤佐と会長と土田さんがいる部室棟へ向かった。俺が着くと、赤佐と会長の二人だけだった。赤佐はとても悲しい顔をして立ち尽くし、会長は赤佐の方を見たままやはり、立ち尽くしていた。
「どうした?」俺は赤佐に近付き言った。
赤佐は、ため息をつき俯いたまま返事をしなかった。
会長は長く息を吐いた後、
「山吹君だし、話して良いよね?」と赤佐に向かって言った。
「事件の事も、土田さんの事ももう話してあります」赤佐は力の抜けたような声で言った。「山吹……俺の推理で土田さんを傷つけたんだよ」
俺は赤佐の推理を聞いた。確かにぶっ飛んでいるというか、でも赤佐が根拠のない推理をするとは思えなかった。
「もし、もしもだぞ。犯人が火災事件と同じことをするとして、どうやるんだ?パニックを起こすにしてもこれだけの規模で起こすとなると無理じゃないか?」
赤佐が顔を顰めたまま、腕を組んで校庭をあちらこちらと見ていると、昇降口の方へ視線を向けた。
「土田さんと話している時、昇降口の方を見たけど閉まってました。去年って閉まってましたっけ?」赤佐は、会長の方を見て言った。
「閉まってなかったと思う……でも閉まっててもおかしくないよ。学校の関係者以外を校舎に入れないように、セキュリティを強化するために閉めたのかもしれないし」
〜校内放送〜
午前の部はこれにて終了です。昼食休憩に入りますので、校舎に入って各々のクラスの教室に戻ってください。午後の部開始は13時です。
「待てよ」赤佐が言った。「昇降口が閉まってて開かなかったら、全校生徒は一箇所しかない昇降口に集まることになる。群集の先頭は昇降口が開かないと言い、後尾の方からは何故先が進まないんだとみるみるうちに大きな群集になる」
「それが犯人の狙いって事か」
「あぁ。群集事故を起こすのが犯人の目的だったんだ。火災事件はわざとパニックを起こして群集事故を起こした。犯人はこの目で火災事件の時の人の動きが見たかったんだ。見るためだけに火災を起こした」
「だとしたら昇降口が開けに行かないと。こうしてる場合じゃないよ」会長が俺達の方を見て、慌てて言った。
深く深呼吸した後、赤佐が「大丈夫ですよ。山吹、メガホンあるか?」
実行委員のテントにあったことを思い出した俺は、赤佐の方を見て、「あぁ」と力強く言うと赤佐が、
「山吹、他の生徒会や実行委員たちと、生徒の誘導を頼む。校内放送があって少しの時間しか経ってない。群集事故が起こるまではまだ時間があるはずだ」
「お前はどうするんだよ」
「犯人に会ってくるよ。犯人はきっとこの群集を離れた所から高みの見物をしているだろうから」
「分かった。気をつけろよ」
「お前もな」
俺はメガホンを取りにテントへ走って向かった。
●赤佐 雅寛
「会長は残るんですか?」
「うん」
校庭の中の生徒の人数がまばらになっていき、昇降口に人が集中していた。昇降口から校庭の出入り口まで直線距離で50メートル程だが、群集の最後尾が校庭の出入り口まで大きくなっていた。
急いで山吹達が向かうと、他の生徒会や実行委員たちの協力もあり、群集は他の校舎の入口に誘導されていった。俺と会長は校庭の中からそれを見ていた。
「良かった。これで大丈夫そうだね」会長が俺の方を見て言った。
「はい。本当に良かった」
俺はテントの方に視線を向けた。土田さんがテントの方に近付いていくのが見えた。テントにはまだ横溝先輩と藍葉先輩、一青先輩がいた。
俺と会長がテントまで来ると、
「やぁ、緑さんに赤佐君。君達はあの密集に巻き込まれずにすんだんだな。よかった」横溝先輩が穏やかに言った。「密集に巻き込まれないと、他の実行委員たちはテントには待機してもらった。そうしたらさっき山吹君が来て、他の実行委員たちとメガホンを持って誘導してくれると言うので任せたんだ」
「赤佐君が、山吹君に指示をしたの。2人の信頼関係は凄い。お互いに託しあって、赤佐君はここに来た」会長が俺の方を見て言った。
俺は会長の方を見た後、テントから2メートル程離れた位置にいる土田さんの方を見た。
「土田さん、少し近くまで来ていただけませんか?」
土田さんはずっとテントの方を見ていたが、俺と会長の方を見て、ゆっくりとこちらへ近付いてきた。3人で合流し、テントの中に入って行った。
「ごめん、緑さん、赤佐君。当たるようなまねしちゃって」土田さんが落ち込んだ声で言った。
「こちらこそ、すいませんでした」と会長が言うと、俺と会長は土田さんに深々と頭を下げた。
俺は頭を上げた後、
「赤佐君の推理は正しかったと思う。君の推理と、友人の山吹君の誘導のおかげで群集事故にならずにすんだ」土田さんは大きく息を吐き、続けた。「でも分からない。何で火災事件を起こしたの?群集事故を起こそうとした理由は何?」
土田さんの視線の先は横溝先輩の方を指していた。
「何の話をしているのか分からないな……」視線に気づいた横溝先輩は、笑みを浮かべながら言った。
「土田さん、火災事件の日、横溝先輩が火をつけているところを見ていたんですね」俺は土田さんの方を見て言った。「ずっと気になってたんです。犯人につながる手掛かりを徹底的に消してきた犯人がなぜボタンを落とすヘマをしたのか。それに土田さん、あなたは記者ではありませんね?一度もあなたから名刺を頂いていません」
「そう。私は記者じゃない」土田さんは開き直った。「ボタンを落としたのも私のウソ。赤佐君の言った通り、私は火災事件の日、犯人を見てる」
「じゃあ何で警察に言わなかったんですか?」会長が言った。
「私の手で復讐したかったから」土田さんは口角を上げて言った。
「あなたは火災事件で大切な人を亡くしている」
「そう。赤佐君の言う通り私は、妹と恋人を失った」土田さんは続けた。「あの日私は妹と恋人と3人でレストランで食事をする約束をしてたの。急な仕事が入って、遅れていったわ。レストランの前の横断歩道で待ってた時、火をつけようとする横溝を見たの。ハッキリ見えた。私が横溝を見つけたときにはもう、店の中は逃げようと1つしかない出入り口に群がってる人たちがいっぱいいた。消防の人も、お医者さんも懸命に助けてくれた。でもダメだった。私が遅れたせいだって自分を責めた。でも……横溝だけは許せないって思って、調べたの。記者のようにね。
まずは横溝は中学生か、高校生に見えたからレストラン付近の中学、高校を探した。1ヶ月も掛かったけど、横溝を偶然見つけた、図書館でね。一緒に歩いている奴を見るに中学生だろうと思った。それで私は夏休みに学生が多く利用するあなたを見つけたあの、図書館で探したの、協力者を」
「何で協力者を」紫が恐る恐る言った。
「動機を突き止めるため……ですね」瑠璃が言った。
「そう、探偵役が欲しかったの。私にはどう考えても分からなかったから、同じ学校のやつに理由を突き止めてほしかった。だから配った紙は謎解きのように、学生が興味を引くように作った。案の定、答え合わせに来る学生が多かった。でも答え合わせではなく、指摘をしてきたのは赤佐君だけだった。彼は横溝と同じ学校で、しかも生徒会。運がまわってきたと思った。頭もきれるようだし、探偵役にぴったりだと思った。彼から火災事件は予行練習だったって聞いた時は、体が震えるほど怒りでいっぱいだった……許さない」
土田さんがバッグから刃物を取り出そうとしたその瞬間、
「ごめんなさい」横溝先輩が声が上擦った。「こんなはずじゃななかった……俺は、俺を選ばなかった生徒たちに復讐したかっただけなんだ」
「選ばなかった?」土田さんが語気を強めて言った。
「去年の生徒会選挙、俺は会長に立候補していた。俺が会長になる筈だったんだ。俺が会長に相応しいと思ったんだ」
「そんなことのために、2人は死んだの?」力の抜けた声で土田さんが言った。
刃物を取り出そうとしていた手が力が抜けたようにバッグから出ていった。土田さんの手元には刃物は無かった。
土田さんは大きく溜息をつき、全身の力が抜けたような足取りで去っていった。
俺は去っていく土田さんの後ろ姿を見ていることしか出来なかった。
こんにちは、aoiです。最後まで読んで頂きありがとうございました。
登場人物のその後について話しますと、
横溝紅紫は警察へ出頭しました。土田さんについては、音沙汰のない状態です。
数年後、男性が刺殺体で見つかります。死亡推定日は火災事件が起きた日でした。偶然でしょうか……
題名が三原色ですが、黒色を表す人物も登場していました。
土田さんです。土と田を合わせると里という漢字になります。
そして天使(点が4つ)のような笑顔。里の下に点を4つ (れっか)をつけると黒になります。
この物語を読んで、嫌な気持ちにさせてしまったらすみません。
次回書くとしたら、明るく、読みやすい日常の謎を書きたいと思います。
追記
〈開会〉の序盤、校内放送にて横溝が遅れてやってきたのは、昇降口の鍵を内側から閉めて、校舎の別の出口からでて遠回りをしたので遅れた。
〈集結〉レストランの名前‘’フクシア‘’(フクシン)はマゼンタ(紅紫色)に関係している。横溝紅紫の両親がレストランのオーナーである。
〈開会〉にてオーナーが、被害届を出さなかったのは身内(息子)による犯行だったので明るみに出したくなかった。
色々な所で横溝紅紫が犯人であるヒントが出ていました。読んでくださった皆さんは気づきましたか?