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声なき私の生きる場所  作者: 三月うみ
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3.おでかけ

 ミアがトラペティアに来て1週間が経ったある日の朝。朝日があまりにもまぶしく差し込んでいたため、深呼吸でもして気持ちを新たにしようと窓を開けた時だった。


 「おう、おはよ。」


 窓の外、窓から一番近い木の枝にコウが座っていた。


 「…!」


 ミアは目を見開く。呼吸が止まりそうになった。


 ―どうしてそんなところにコウ様が座っているの!?


 驚きのあまり固まってしまったが、ミアは自分が寝間着のままで、髪もとかしていないことに気づき、思い切り窓を閉める。


 「おい! 悪かったって! 今日は天気が良いから、気分を変えて木の上で読書していただけなんだって! 顔を見せてくれ!」


 コウが慌てたように声を上げる。寝間着を着替える暇はなさそうで、とりあえず髪だけでもと櫛でとかしてもう一度窓を開けた。


 「悪かった。ここにいたらお前の顔見られるかなって思って、それで、暇つぶしに本を読んでいて。」


 コウはあたふたとしながら、本を持ち上げ振って見せた。あれは確か経済の専門家によって書かれたもので、かなり読みづらいと有名な本ではないだろうか。ホルボーンにいた時、今は亡きトリアがそう言って苦笑していたのを思い出した。


 「まあ、それはどうでもよくて。なあ、今日は暇か? もし時間があるなら、一緒に出掛けないか。」


 突然の誘い。コウはじっとこちらを見つめている。ミアは戸惑ったが、コウからの誘いを断るわけにはいかない。それにもっとコウのことを知りたいと思っていた。こんなチャンスはないのではないか。


 「…!」


 「よし、決まりだな。準備して俺の部屋に来い。」


 コウはにっこりと笑って木から降りていった。


◆◆◆


 その後急いで準備をしてミアがコウの部屋を訪れると、コウはいつもの王族の装束ではなかった。ホルボーンの国民たちが来ていたようないわゆる民衆の服を身にまとっている。その姿を見て驚いているミアを見て、コウはにやりと笑う。


 「お前はこれに着替えろ。そんな綺麗な服じゃ国民に見つかるぞ。」


 「…?」


 ミアは言われるがままに渡された服に着替えた。白いブラウスに黒のロングスカート。その上に大きな紺色のマントを羽織り、フードをかぶる。一体どこに行くつもりなのだろう。

 ミアが首を傾げていると、コウはその手をとって歩き出した。


 「…!」


 「さあ、行くぞ。今日は俺の大切な場所に連れて行ってやる。」


 2人は部屋から出ると、そのまま厨房の横の勝手口から外に出た。一国の王子がこんなところから外に出ていいのか不思議に思ったが、コウは何もなかったかのように鼻歌を歌っている。周りに従者がいる気配もなく、本当に2人きりのようだ。


 「…?」


 どこにいくの、と目で訴えれば、コウはいたずらっ子のように笑った。


 「城下町。トラペティアは水の街と言われていて、水路や噴水が本当に綺麗なんだ。一度お前に見せたくて。」


 コウは手をつないだまま、ゆっくりと歩いていく。ミアの歩調に合わせてくれていることを嬉しく思った。

 道中、コウの話は止まらなかった。トラペティア国の話、国王と王妃の話、城下町の話。声が出せないミアが暇にならないようにとたくさん話をしてくれているようだった。


 ―でも、コウ様はご自分の話をされないわ。


 それだけ周りを見ているということかと、ミアは勝手に納得する。

 そのまま城下町に出ると「これは水路」とか「この公園の噴水は幻想的なんだ」などとコウはいろいろと教えてくれた。その顔はきらきらしていて、本当にこの景色が好きなのだと実感する。


 ―コウ様はやっぱり周りをよく見ていて、この土地を本当に大切に思っていらっしゃる。


 一国の王子として勉強もしているし、城下町の様子も見にくる。なにより人を気遣うこともできるのに、どうしてコウが「自由奔放なわがまま王子」なのだろう。

 そう考えつつコウの顔を見上げると、ミアが考え事をしていたことに気づいたコウが不思議そうにこちらを見ていた。


 ―私も感想を言えたらいいのに。


 口を開いて声を出そうとするも、やはり掠れた息だけが漏れる。それに気づいたコウがゆっくりと頭をなでてくれた。


 「無理すんな。声なんて自然に出るようになるから。お前は街の感想を言おうとしてくれたみたいだけど、そんなの気にしなくていい。お前の心に残ってくれれば、それで。」


 「…。」


 それでもミアは早く声が出せるようになりたかった。いつも的確にミアの思いを拾ってくれるコウに、早くお礼がしたかった。

 そこでミアは思いつく。


 「…!」


 「え、声を出す練習をしたい? いや、だから無理すんなって…。」


 「…!」


 頑として聞かない態度を取れば、コウも渋々頷いてくれた。


 「わかった。でも声を出す練習は俺と一緒にやる。一人で無理したら元も子もないからな。」


 そうして2人の秘密の特訓が行われることが決定した。

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