レイラとモルテ
お茶会が終わって一時間が経っても、リアは部屋に閉じこもったまま、しばらく出てこなかった。
レイラはおろか、従者の誰も中に入れたがらない。
食事を摂ろうとせず、部屋からはすすり泣く声が聞こえてきた。
メイドが代わる代わる彼女の部屋の扉の前に立ち、見張りをしていたが、皆どう対応すれば良いか分からず困惑していた。
リアのことを好いている従者たちは、それぞれ床を掃きながら、窓を磨きながら、そうやって自分に与えられた仕事をこなしながら、心配そうに彼女の部屋に目をやっていた。
従者たちのその様子から、みんなリアを気にかけていて、彼女に寄り添いたいと思っているのは明らかだったのだが、リアの肩を持つことは、主であるモートン卿に背くことになるため、「どこかお加減は悪くないですか?」だとか「お食事をとってください」だとか、ドアの外から当たりさわりない言葉をかけることしかできなかった。
レイラはリアの部屋の前で見張りをしていたメイドの一人に、扉の前に置かれている冷めた料理を下げ、新しいものを持ってくるよう指示を出した。
言われた通りメイドが厨房へ向かうのを見送ると、レイラはそのまま扉の前に座り込んだ。
「……リア様、モルテです。お食事を摂られていないようですが、体調はいかがですか?」
扉越しに話しかけてみるが、返事は返ってこない。
構わず話し続ける。
「メイドは昼食を下げに行ったので、しばらく戻ってこないと思います。ここには私しかいません。──ですので、愚痴でも何でもおっしゃってください。心に言いたいことを溜め込んでいては、リア様がお辛いままになってしまいます。私では役不足かもしれませんが、どうか、おひとりで抱え込まないでください」
一方的に語り掛け、耳を澄まして待っていると、やがてリアが扉に近づいて来る気配がした。
呼吸が乱れていないので、泣いてはいないようだ。
「……モルちゃん、本当に一人?」
「はい。私しかいません。リア様」
それを聞いて、リアはほっとしたようだった。
扉越しに肩を撫で下ろしたのが伝わってくる。
リアは大きく息を吐き出すと、ゆっくり口を開いた。
「モルちゃん、どうしよう。私、あんなにたくさんのお偉いさんがいる場所で、悪態をついてしまったわ。この家の恥さらしよ。いくら腹が立ったとはいえ、感情に身を任せて怒鳴りつけるなんて。それも自分の夫である大公に対してよ? 私、妻失格よね……」
自分が予想していたのと違う話が切り出され、レイラはわずかに目を見開いた。
てっきり、リアはまだ憤慨しているとのだ思っていた。
他人を思いやる態度を見せない、自分の夫に対して。
だから『結婚なんてしなければよかった』だとか『政略結婚をさせた大人たちが憎い』だとか、そういう言葉が出てくると思っていたのに。
落ち込むリアを、レイラは励まそうとする。
「リア様はご立派な方です。自分のことより、他人のことをお考えになっていらっしゃいます。どこも恥ずかしくなんてありません。むしろ私は、──大きな声では言えませんが、先ほど大公様に食って掛かった姿も好きでした。とても恰好良かったです」
「でも、ひどい顔をしていたでしょう? それこそ鬼みたいな。不細工だったに違いないわ」
「そんなことないですよ」
「ううん、どうせ怒るならもっと可愛く怒ればよかった……」
「そんなことできるんですか」
「できないわ」
リアは笑った。
レイラも笑った。
「私ね、政略結婚だったから、結婚は乗り気じゃなかったし、正直、あの人のことも好きじゃない。でも、私の粗相はお父様の名に響くのよ。私、お父様の名を汚すことだけはしたくない。良い娘でいたいの」
レイラは普段の天真爛漫なリアからは思い浮かばない、令嬢として身を弁えた発言に、彼女のことを見直していた。
思えばリアはいつも、家族のことを大切にしていた。
もしかすると、その溌剌とした笑顔の裏で、リアは人知れず我慢したり考えたりしているのかもしれない。
むしろ普段のリアの気丈な明るさは、彼女の苦悩や影の部分を隠すための覆いなのかもしれなかった。
『良い娘でいたいの』
──私は今でも、お母さんにとって良い娘だと言えるだろうか?
不意にそんな問いが持ち上がれば、あまりに答えが見え透いていて、レイラは俯いた。
「モルちゃん? どうかした?」
ドア越しに声を掛けられ、我に返るレイラ。
「大丈夫ですよ。リア様こそ、お食事は摂れそうですか? 一応、先ほどメイドに頼んだので、もうすぐバゲットとスープ、それからフルーツが運ばれてくると思うのですが」
「ありがとう。いただこうかしら」
リアはいくらか元気を取り戻した様子で言った。
「ねぇ、良ければモルちゃんも一緒に食べない? 独りでの食事って味気なくて嫌なのよ。もしモルちゃんがまだお昼を済ませていなければ、の話だけれど」
リアに言われて、そういえばまだお昼を食べていなかったと思い出したレイラは、「私でよければ」と返事をした。
リアが部屋の扉を開ける。
泣いたせいで目元が赤くなっている。
リアは目元をハンカチで押さえながら、レイラを部屋に招き入れた。
タイミングよく廊下の向こう側からメイドが食事を持ってきたので受け取り、レイラは新たに冷たいタオルと温かいタオルの両方を持ってくるよう言づけた。
* * *
リアと食事を摂った後、レイラはモートン卿に呼び出された。
緊張して卿の書斎に赴くと、長机の上には紙が散らばっており、卿は疲れた様子で椅子の背もたれに身を預けていた。
遠目に見える紙面には、文字がびっしり羅列している。
おそらく報告書なのだろうが、何の報告書かは分からない。
瞬時にそれらの情報を処理しながら、レイラは床に膝を着き、頭を垂れた。
「お呼びでしょうか、我が主」
ルイに関わることでありませんようにと願わずにはいられない。
「──リアの様子はどうだ」
顔を上げればモートン卿は無表情だったが、どうやら妻のことを心配していたらしい。
お茶会で『最低』と罵られたのだ。
心配していても体裁を考えれば、いくら相手が妻とはいえ、自分から様子を見に行くのはプライドが許さなかったのだろう。
レイラは率直に事実を伝えた。
「はい、リア様はご自身が失態を犯してしまったと気に病んでいる様子でした。ご自身の行動が家柄を汚してしまったのではないかと落ち込んでいらっしゃいました」
「なんだ、そんなことを気にしていたのか」
「はい、しばらく部屋に閉じこもっていましたが、先ほど昼食も摂られましたし、泣き疲れて今は眠っていらっしゃいます」
「そうか。大丈夫ならそれで良い。儂も少し大人気なかったのでな」
レイラは眉をピクリと動かした。
あの冷酷なモートン卿でも、自分の行いを反省することがあるのか。
明日は嵐になるかもしれない。
しかし一瞬でもそう思ったのが間違いで、やはり彼はどこまでも非情な男だった。
卿は嗤って続ける。
「ははは! どうせあんなピアノ弾きなんぞ殺すのだ! 儂としたことが、これから消える輩に感情をぶつけるなぞどうかしていた。無駄なエネルギーの消費であったわい!」
どういうことだ、とレイラはこぶしを握り締める。
モートン卿はニヤリと口角を上げ、レイラに告げた。
「モルテ、どうやらリアの浮気相手はあのピアノ弾きで間違いなさそうだ。先ほど情報屋から新たな情報が入ってきた。こないだ開かれたコンサートの後、二人が密会しているのを目撃した庭師がいたようだ。──いいか、標的は絞られた。ターゲットはピアノ弾きの青年。期日は明日。始末は頼んだぞ」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、レイラは動揺しているのを悟られないようにするので精一杯だった。
冷や汗をかき、しかし言うのだ。
いつものように。
「承知しました。我が主」
* * *
レイラは自分の部屋に下がり、ジェーンが持って来てくれた夕食のサンドイッチを食べようか迷ったが、食欲が湧かなかったので手を付けず、ベッドに鉛のように重い体を横たえた。
鈍る思考の中で、しかし早急に答えを出さねばならない問題を突き付けられ、参っていた。
いよいよルイを殺さなくてはならない。
直視したくなくて決断を先回しにしてきた現実と、ついに向き合わなくてはならないときがきてしまった。
『モスクワは涙を信じない』というが、先人たちの言葉は正しく、泣いたところで誰も助けてくれない。
彼を殺すか、自分が死ぬか、決めるのは他ならぬ自分自身。
期日は明日。
ルイを殺さなければ、モートン卿の内情を知りすぎている自分は命を狙われるだろう。
この国における卿の情報網の広さなら、レイラは嫌というほど知っていた。
どこにも逃げ場などない。
他国に逃亡しようとしたところで国を出るには出国証明がいるし、関所の門番はモートン卿の息のかかった兵士が務めている。
袋のネズミもいいところだ。
とはいえ、万が一、仮に上手く身を隠して生きられたとしても、レイラは物乞いになってまで生きたいとは思わなかった。
ましてや修道院に戻るなんて考えただけで吐き気がする。
「だったら死んだほうがマシ」
レイラはもう、生きることに執着がなくなっていた。
自分が死んですべて丸く収まるならそれでいいとさえ思う。
しかし、どうしてもレイラを引き止める気がかりがあった。
──ミアだ。
自分が死んだらミアはどうなるのだろう?
ミアが修道院や貴族のもとに連れ戻されることなく、メイドとして暮らせているのは、レイラが殺し屋としてモートン卿に尽くしているからだ。
レイラが主を裏切れば、ミアの立場も危うくなってしまう。
ミアの泣き顔なんて、もう二度と見たくない。
そう思っているはずなのに、また違う自分が顔を出す。
やはりどうしてもレイラは、ルイを母と重ねずにはいられなかった。
ルイの命を奪うことは、母にも手をかけることのように思えて仕方がないのだ。
頭と心が一致せず、レイラは苦しんだ。
頭は彼を殺せというが、心は殺したくないと言う。
頭はミアを守れというが、心は母の面影を守りたいと言う。
そんな甘い考えをしていては生きていけないと頭が咎め、人の道を外れるなと心が戒める。
まるで自分自身が二つに分裂したようで、胃のあたりがキリキリと痛んだ。
これまでモートン郷が殺しを命じた相手は少なからず良い人間ではなかった。
レイラが調べ上げた情報からして、最低と罵って唾を吐いてやりたくなるような人間ばかりだった。
でもルイは違う。
レイラは首を横に向け、クチナシの花に問いかける。
「あの人を殺してまで、生きる価値が私にある?」
クチナシは穢れのない純白の花を咲かせ、月の光を受けて夜風に揺れていた。
その真っ白な花弁に母の笑顔を思い浮かべながら、彼を殺すくらいなら自分が死ぬべきだと思った。
あんなに美しい旋律を奏でられる指を奪うくらいなら、喜んで自分の命を差し出そう。
こんなこともあろうかと、レイラは任務で余った毒薬を、こっそりと隠し持っていた。
ベッドサイドにある机の引き出しを開ければ、ガラスの小瓶があり、その小瓶の中には小さくて丸い錠剤が五つ入っている。
これで致死量だ。
五錠を一度に飲み干せば、簡単に命を絶つことができる。
レイラは決意した。
「今夜、ルイのピアノを聴いて帰ってきたら、一息にこの薬を飲み干そう」
自分の命を絶つ覚悟をして、レイラはミアを守る方法を模索した。
やがて一つだけ策を思いついた。
上手くいくかは分からないが、その策に賭けてみるしかなさそうだ。
命の期限がもうすぐそこまで迫っていなければ、とても動くような気力はなかったが、ミアを守るための策を講じておかなくてはならないし、何よりあの美しいピアノの旋律も今日が聞き納めなのだと思えばこそ、重たい腰を上げることができた。
レイラはいつもよりゆっくりと服を着替え、放置していたせいでパサパサに乾燥してしまったサンドイッチを手に取り、その中でもまだマシな部分を一口だけ齧った。
そしてグラスに水を一杯よそい、口の中の水分を奪うそれを流し込み部屋を出た。
しかし、出会いがしらに誰かとぶつかった。
「きゃあっ!」
驚いて声を上げたのはミアだった。
ちょうど部屋をノックしようとしていたところらしく、ドアに手を近づけた途端、部屋からレイラが出てきたのでびっくりしたようだ。
「レイラ! あの、寝ているところを起こしたら悪いなと思って……、なかなかドアをノックできなくて……」
お互いに目を丸くして見つめ合いながら、ミアはもごもごと弁明した。
しかしすぐに気を取り直して居住まいを正す。
「あのね、レイラ、これだけ伝えなくちゃと思って。──気を付けて。お茶会のとき、ピアノ弾きの青年がレイラを探しているみたいだったの」
寝耳に水の話だった。
『ピアノ弾きの青年』というのはおそらくルイのことだろう。
「私を? どうして?」
「さぁ。私も良く分からないんだけど、『良い香りがした』って言っていたわ。『香水をつけているのか』、って聞かれたの」
「香水?」
聞き返しながら、レイラは思考を巡らせた。
自分は香水などつけていないし、記憶を辿ってみても、匂いが付きそうな場所に行った覚えはない。
しかし仮に香りがしたとして、それがなんだというのだろう。
レイラは疑問に思ったが、きっと律儀な彼のことだ。
モートン卿に突き飛ばされたとき身を挺して庇ってもらったので、そのお礼が言いたかったのではないだろうか。
レイラは深く考えなかった。
「──わかった。気を付ける。ありがとう」
心配そうにこちらを見ているミアにお礼を言って、レイラは足早にその場を去ろうとした。
しかし引き止めるようにミアが口を開く。
「今夜もどこかへ行くの?」
ミアはいつもどこか鋭い。
「……ちゃんと帰ってくる?」
顔に何か書いてあるのを読んでいるのだろうかと錯覚するほど察しが良い。
レイラは彼女を安心させようと表情を緩めた。
「大丈夫だよ。ちょっと偵察に行ってくるだけ。重たい任務じゃない」
ミアは開きかけのドアの隙間からレイラの部屋の中を覗き見て、ほとんど手つかずのサンドイッチに視線を止めた。
「食事も喉を通らないほど、重たい任務なのね」
レイラは口をつぐむ。
何を言っても墓穴を掘るだけのような気がしたからだ。
不安そうに揺らぐミアの瞳。
「──私、待ってるから。ずっと、レイラが帰ってくるの待ってるからね」
ミアはレイラに抱きついた。
「死んじゃだめよ」
ミアの声は震えていた。
「うん」
柔らかいミアの髪に頬をうずめながら、レイラは、ミアとの抱擁もこれが最後かもしれない、などと思った。
* * *
部屋を出る前、レイラはリアに宛てて手紙を書いていた。
内容は自分の代わりにミアを守ってくれという嘆願だった。
一見するとリアにミアを任せるのは検討違いに映るかもしれないが、あの冷酷非情なモートン卿にとって、唯一抗えない存在がリアなのだ。
レイラは、もしミアが危ない立場に置かれたとき、あの屋敷の中でミアを守れるのはリアしかいないと思った。
彼女に宛てた手紙には、自分が死んだあと、ミアをリアの父親の屋敷でメイドとして雇ってほしいと書き記した。
できるだけ安全な立場においてほしい旨を、繰り返し繰り返し書き付けた。
心優しいリアならきっと、聞き入れてくれるだろう。
レイラが手紙を持ってリアの部屋に忍び込んだとき、リアはベッドで安らかな眠りについていた。
レイラは手紙をこっそり枕元に置き、音を立てずに部屋を出て、ルイの屋敷へと向かった。
* * *
離れでは相変わらずルイがピアノを弾いていて、レイラは薄いカーテンの隙間からその姿を見守っていた
ルイの細い指が鍵盤の上を滑らかに移動する。
コンサートでは披露されることのない、切なくて淡い旋律。
月明かりに照らされた幻想的な空気の中、レイラは大きく息を吸って吐き、いつものように優しい音色に耳を傾けた。
どれくらいの間そうしていたのか、やがてネロがやってきて、さも自分の特等席とでもいうように、レイラの膝の上に乗り、うつらうつらと眠り始めた。
目を閉じて心地よさそうに眠っているネロの頭をそっと撫でれば、ネロは耳をピクリと小さく動かして反応したが、起きることはなく、そのまま穏やかに寝息を立て続けた。
「……ねぇ、ネロ。ネロは私がいなくなったら悲しんでくれる?」
小声でネロに話しかけながら、レイラの頭に浮かぶのは、お茶会ではじめて間近に見たルイの顔だった。
「あの人は──、ルイは……」
私がいなくなっても、何もなかったように生きていくのだろうな。
「当たり前よね。私の存在なんて、あってもなくても同じだもの」
ネロに意識が向いていたせいで、ピアノの音が止んでいることに気づかなかった。
「そんなことないよ」
いきなり背後から声がして、レイラはとっさに距離をとった。
瞬発的に足首に隠していた拳銃を抜きとり、構える。
びっくりしたネロがレイラの膝から飛び降り、逃げていく。
「レイラ。僕の話を聞いて」
──レイラ?
不意に本当の名を呼ばれ、眉を寄せる。
「どうして、その名前を?」
答えによっては、殺さざるを得ないかもしれない。
予想外の展開に、レイラは息を飲む。
彼も武器を持っていたらどうしよう。
力で男には敵わない。
しかし殺気立つレイラとは反対に、ルイは両手を上げて戦う意思がないことを示していた。
その場から一歩、慎重にレイラに近づこうとする。
「動かないで!」
レイラは叫ぶ。
ルイは肝が据わっているのか、銃口を向けられてもひるまない。
それどころか叫び返す。
「僕のこと、殺したいなら殺せばいい! 君に殺されるなら本望だ」
いったい何を言っているのだろう?
「質問に答えて! あなたは何者?」
レイラは叫ぶ。
「それは、」
ルイは一瞬言いよどみ、「……できればもっとゆっくり話がしたかったんだけど、そういうわけにもいかないか」と独り言をつぶやいた。
「王子だよ! 隣国、タリアテッレ王国の。サンダーバード家の次男だ! それ以上のことは君を避難させてからゆっくりと説明したい。いつ追手がかかるか分からないからね」
思いがけない発言の連続に、思考が追い付けずフリーズする。
王子?
隣国の?
追手というのはモートン卿からのだろうか。
それは誰を捕らえるための?
ルイ?
それとも私?
レイラは混乱した。
ひょっとしてルイは会話をすることで、従者が来る時間を稼いでいるのではないだろうか。
もしもルイの屋敷の従者に捕まれば拷問にかけられるかもしれない。
レイラは死ぬにしても痛いのは嫌だった。
誰かに痛めつけられて殺されるくらいなら、今ここで自分の頭を撃ち抜いた方がいい。
何よりもう、レイラは自決する覚悟でここに来たのだ。
そう簡単に自分の決意を翻すわけにはいかない。
ルイの話に耳を傾けていたら、せっかく固めた決意も揺らいでしまいそう。
レイラは銃口を自分の頭に突きつけた。
慌てた様子でルイが叫ぶ。
「待ってレイラ!!」
(だめ。もう、決めたから)
止めに飛び込もうとするルイを、目をつむって視界から消し、レイラは引き金に手を掛けた。
(さよなら、ミア、お母さん)
* * *