転生したらカラスの糞だった件
カンカンカンカン
いつも通りのただの夕刻に,いつも通りのただの踏切。
警報機が鳴り,遮断機が下りる。
電車が,通る。
そしてそこに,一人の少年が吸い込まれるように,飲み込まれた。
*************
気がついたら,俺はどこか暗い所にいた。
何も見えん。
ただ,俺を包む得体の知れない“ナニカ”――生暖かいそれ――だけを認識していた。
そしてそれは脈打つように揺れている。
「おい。
誰かいないのか」
念のため,声を出す。
普通に出たことに驚きつつも耳を澄ます。
予想通り返事はない。
でも,もう一回だけ……。
「誰か―――」
「オイうるせえぞ!
こんなに静かに寝られる事ぁ早々ねぇんだ。
黙れ」
どこかからかすごく口の悪い答えが返って来た。
俺は驚いた。
なぜこのような空間に複数人の人間がいるのか……。
だが黙れと言われた以上黙るしかない。
俺は湧き出る疑問を全て飲み込み暫し黙考した。
暫くの後。
ガサガサガサ
周囲が大きく揺れた。
「うわ,何だコレ」
俺は,これは転生ではないかと考えていた。
ここは母体の中で,もう一人は双子。
こんな口の悪い奴は正直御免ではあるが。
俺は先程死んだ。
死んだ,はずだった。
電車に飛び込んで。
傍迷惑なのはわかってる。
でももう限界だった。
日々積み重なって,でも消化できないストレス。
人間関係。
自分の容姿や学力その他諸々へのコンプレックス。
生きる事が苦痛でしかなかった。
気がついたら踏切の前にいた。
迫って来る電車が,砂利の上に敷かれた線路が。
俺を祝福するかのように手招きしているように見えた。
遮断機の警報音に導かれるように,俺は線路に飛び込んだ。
そして,だ。
気付いたらこれだ。
やはりこれは明らかに転せ―――
「ああ,お前新入りかぁ~。
転生だとか甘い希望持つ前に言っといてやる」
さっきのと同じ声だ。
「ここは,カラスの体内。
それも腸に位置する場所だ」
……。
……。
……。
「……。
は????」
俺は驚いた。
必ずやかの邪知暴虐の――――
ではなく。
「え?
じゃあ俺カラスのう○こに転生したって事??」
「まあそうとも言えるが……。
お前もどうせ何かの犯罪者だろ?
ここに今何人いるのかは知らんが,俺が話した奴は大抵そうだったぞ」
んな……。
俺が犯罪者だと?!
俺は……。
いや。
どうなんだろうか?
自殺,は?
犯罪? 悪い事?
俺は,あれ以上生きることが出来ないと,そう思ったから……。
「何にせよ,多分次で俺は消えるな。
お前も出る時の覚悟決めとけよ」
次?!
ナニソレ……。
怖い怖い。
出る?!
て言うか何でカラスのう○こ何だよ!!
オイ神!
と。
カァー
カァー
鳴き声が凄い近くから聞こえて来る……。
最悪だ。
本当にここはカラスの体内らしい。
そして。
独特の浮遊感。
「じゃなー」
という声と共に,落ちていく名も知らない彼。
暗かった部屋に僅かに光が差す。
う,わ。
う○こや……。
めっちゃう○こやった……。
俺,いつ落されるんだろう……。
こりゃ,死んだのは間違いだったかもしれない。
カァー
周囲が激しく揺れる。
「んあー」
と。
「え,ちょま,え?
俺早くね??」
言われなくても解った。
出る!!
いやあああああああああ――――
光の穴が近付く。
カラスの飛ばした羽がうっすらと見えた。
眼下には街。
そして俺は,無事にカラスからう○ことして排出された。
*************
「うっわ」
頭を殴られたような衝撃で,俺は声を上げた。
そりゃそうだ。
あの高さから落ちたんだか――――
「お,お兄さん……。
大丈夫?
これ,使って」
目の前にはなぜかすごい憐れみの目で俺を見る会社員風のおじさん。
「え?」
目の前を,電車が通り過ぎた。
俺は改めて,周囲を見回した。
そして頭上の悪臭と憐みの視線。
カラスの鳴き声。
(ああ,そう言う事か……)
「ありがとうございます」
俺は笑顔でおじさんが差し出すティッシュを受け取った。
この世界もまだ,捨てたもんじゃないか……。
あともう少し,生きてみるのも良いかもしれない。
それに,う○こになるのは一度でいい。
読んでいただきありがとうございました。