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バクの見る夢

窓から差し込む朝日に瞼がやかれ、目が覚める。


無機質な白い天井が目に入る。


起き上がってみると、自分が見知らぬベッドに横になっていたのがわかった。


壁際にはソファが備え付けられており、部屋の隅には棚と、その上にテレビがのっかっていた。


ここは病院だろうか?


俺はなんでこんなところに。


……確か、あのバケモノと戦って。


あ。たしか、ぶっ刺されたんだった!


あれ、生きてる?


急所は外れたのか?


いや、でも……。


あの時の感覚は、骨が砕かれて、内臓が破裂するような、強烈な痛みだった気がする。


だから失神してしまったんだと思うが……。


しかし、特に痛みも感じない。身体のあちこちを確認してみるが、痛みを感じることもない。


強いていうなら、多少の倦怠感があるくらいだろうか?


まったく傷がない、なんてことあるか?


完治するまでずっと意識が戻らなかったとか?


いやいや。さすがに傷が治るより意識が戻る方が早いだろう。


別に医者じゃないからそこらへんは分からんが……。


あるいは、あの魔法っぽいなにかで治療してくれたのだろうか?


なくなった足を丸まる再生させてくれたほどの代物だ。この傷もその場で治してもらったのかもしれない。


あの状況から察するに、そう考えた方が自然だろう。


今度会ったら妹に感謝を伝えなくては。


そうこうしていると、病室のドアが開いた。


「藤原さん、起きたんですね」


「あ、はい」


「体調に異常などは感じますか?」


「いえ、特には」


「意識を失う直前の記憶は?」


「あまり……」


「わかりました」


看護師さんは俺に二つ三つ確認をとると踵を返し、医者を呼びに行った。


さて、考えておかなければならないことができた。


あれ、なんて説明するかなぁ……。


 


自分の身に起こったことはあらかた、知らぬ存ぜぬで通した。


だって、あんなバケモノがいたと言っても、精神錯乱か薬物乱用の幻覚症状にしか思われんだろ。


木が折れているのだって地面がえぐれているのだって、多分そのままだろうから、下手に口を滑らせると公園を荒らしたのが俺であると、あらぬ疑いをかけられるかもしれない。


俺は木を数本投げただけだ。大したことでは……ないことにしよう。うん。


医者が話すところによるとどうやら俺は、早朝公園にランニングしに来た人に倒れているのを発見され、救急車が呼ばれたそうだ。


もみくちゃになったような服装の乱れの割には外傷がなかったし、脳の異常も見当たらなかったらしい。だが、一向に意識が回復する気配がなかったため、念のため入院という形になったそうだ。


今日は病院に担ぎ込まれた日からだいたい三日ほどたっているらしい。


今、父に連絡を取って迎えに来てもらっているとのこと。


事の顛末を聞いてなるほどと思った。あの後に何が起こったかはだいたい分かった。


だが、一つだけ気になる所がある。


「妹の春香はその場にいなかったんですか?」


「妹さん……ですか?」


医者は隣に立っていた看護師の方を向くが、看護師は横に首を振るばかりであった。


「さぁ、わかりません。なにぶん、現場に居合わせたわけではありませんから。救急隊員に聞けばわかるかもしれません」


医者が申し訳なさそうに答えてくれた。


「わかりました……。あ、では、面会のために病院にはきました?」


「いえ。お父様はいらっしゃいましたが、他には」


「……そう、でしたか」


「はい」


「ありがとうございます」


「いえいえ。では、これで。あと少しでお父様が到着される頃だと思われますので、もうしばらく安静に過ごされてください」


「わかりました」


医者と看護師が部屋から出て、病室はしんと静まり返る。耳が痛くなるほどの静けさであった。


窓の外、中庭を眺めてみれば、風に揺られて葉をなびかせる一本の木があった。


降り注ぐ日差しを独り占めしてゆたかに新緑の葉をつけた木は、誇らしげに枝を広げている。


しかし他に寄り添う樹木のないまま独り育ったその木は、どこか、さびしそうでもあった。


 


俺を迎えに来た父に妹の所在を訊ねてみれば、妹は俺が入院した日から行方が知れないらしい。


妹の友人の家を訪ねて何か知っていることはないかと聞きまわったそうだが、誰も妹の行き先を知らず。


むしろ、妹の友人たちは口を揃えて、『家出するなんて思えないくらいいい子でしたよ』と話していたそうだ。夜に家を空けていたことも知らなかったという。


学校でも素行が悪くなっていたのだろうと思い込んでいた父は、ひどく困惑していた。


まぁ、これは仕方ない。妹は本当に夜遊びしていたわけではなかったのだから。


父は友人の家に泊まっているわけでもないらしいことを確認したのち、警察に行方不明届を出したが、警察は思春期によくある家出としてしか見ていないようで、動いてくれる気配はなかったらしい。


父は病院から帰る車の中で、『事件に巻き込まれていなければいいんだが』と呟いた。


眉尻を下げ、覇気を失ったような父の顔からは、疲れと心配が滲んでいた。


父が病室に入ってきた時のことを思い出す。


ドアをバタンと開け、俺の姿を認めた父は、感極まったように息をのみ、飛び込んできた。


俺を力の限り抱きしめ、ただ、『よかった、よかった』と、噛みしめるように何回も言った。


あまりに突然のことで、しかも父がそんなに取り乱す姿を見たことがなくって、俺は戸惑ってしまった。


でもそのときはじめて、親が自分を心配してくれるということを、その重さを、知った気がする。


俺を包む父の大きな体は、身をゆだねたくなる温かさにあふれていた。


そっと抱き返し、俺は静かに呟いた。


「ごめんなさい」


父はこたえる代わりに、俺の頭を痛いくらいに抱きしめた。


 


帰宅し、自分の部屋のドアを開ける。


三日眠っていたらしいので少し間が開いたが、体感としては意識を失ってすぐのことなので、いつもの部屋のようにも思える。部屋の中をぐるりと見渡してみても……あれ、なんか見慣れないものが。


「なにこれ」


手に取ってみると、白く長いステッキであった。その先端には、宝石のように輝く水晶が乗っている。


「これって……」


「春香のものだね」


「え!?」


後ろから声が掛けられる。振り向くと、本棚の上にあの白キツネがちょこんとお座りしていた。


「あ、白キツネ!」


「テンコです」


「春はどこに行ったんだ?お前は春の傍にいつも一緒にいるわけじゃないのか?あ、あのバケモノは一体何だったんだ?俺の怪我はどうして治った?」


堰を切ったように聞きたいことがわいてくる。


詰め寄る俺を制止するように、白キツネはまぁまぁと俺の頭に前足を乗せる。


「う」


「順を追って説明するよ」


俺のベッドに飛び降りた白キツネはこちらに向き直る。


「まず、春香の居所からだね。そうだね……。端的に説明すると、彼女は今、君の中にいるよ」


「は?」


なんだ?なにを、急に。


「……いや、この言い方は語弊があるね」


すこし黙考した白キツネは、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。


「もうすこし詳しく説明すると、彼女は肉体をマナに丸ごと変換して、君に全部注ぎ込んだんだ。結果君は蘇った。けど、精神……記憶とかの情報はあのステッキに格納されてる」


「……は?」


なんだ、それは。


「む。これでも理解できなかったかい?でも、これ以上わかりやすく言うのは難しいなぁ」


「……」


違う、そうじゃない


「あぁ、うん、そっか。君たちになじみ深い言葉で言えばいいんだ」


「やめろ」


それ以上はダメだ。


「えっとね、春香はね」


「やめろ!」


黙らせようと伸ばした手をかいくぐって、白キツネは俺の肩に飛び乗る。


羽毛みたいに、嘘みたいに軽い。ふわふわとした毛並みが頬をくすぐる。


俺と目線を絡ませた美しい白キツネは、何でもないことのように、はっきりと告げた。


「彼女は、亡くなりました」


その言葉を掻き消すように、拒絶する叫び声が俺の喉を震わせた。


「ふざけるな!!!!」


 


 


 


 


俺は、即死だったらしい。


死にかけのバケモノに胸を穿たれた俺は、心臓と肺がともに潰され、応急処置が意味をなさないほどであったそうだ。


水晶玉にたまっていたマナは足の再生に使ったため枯渇。


手の打ちようがなかったという。


なんとかしてと泣きわめく妹を見かねた白キツネは、唯一残された選択肢を提示する。


即ち。


“肉体をすべてマナに換えて、屍に注ぎ込む”こと。


それに際して、精神……記憶を担保する神経情報を丸ごと抽出して避難させることで、いつか肉体が復活した時に人格を取り戻すことができるのだそうだ。


肉体としては消失しているゆえに、白キツネは死んだといった。


記憶が外部に保存されていても、精神が外の世界と交わり、変化することがなければ、その意味でも生きているとは言えない。


あえて表現するなら、『精神のコールドスリープ』であると言っていた。


それならば。


「また、元に戻すことができるんだな!?」


食いつくように、白キツネを掴む。


「理屈の上ではね」


白キツネは顔をしかめながら、ぞんざいに言った。


「おい!無理なのか!?」


白キツネを激しく揺さぶる。


「わわわ、人の話は最後まで聞いてよ」


「あ……。あぁ」


力が緩んだのに合わせて、白キツネは俺の手からするりと抜け出す。


ぶるぶると身体を振って、毛並みを整えるように毛繕いを始めた。


「君の中にある春香のマナを取り出して、水晶にためた莫大なマナで固定する。うん……春香のマナから肉体を実体化させるといった方がいいかな。クローニングに近いイメージだね」


大きな耳を後ろ足で掻きながら、目を細めて白キツネは詳細を話す。


「それは、どれくらい必要なんだ?」


「君が一生かけて集めきれるよりもずっと多く。君自身をすべてマナにささげてもまるで足りない」


「なっ」


「ただ!」


激情に駆られ、つかみかかろうとした俺を押しとどめる。


「きっとすべてをまかなえるわけではないだろうけれど、一つ当てがあるんだ」


「……当て?」


白キツネは、『あのバケモノのことは“スエノ”と呼んでいるんだけど』と前置きして語りだした。


「マナはスエノが死ぬとき、消滅する時のエネルギーを取り込んで得られる。だから、敵が大物であればあるほど、得られるマナも多い。ま、大物と言ってもたいして量に違いはないけど。ただ、あのスエノどもの親玉、バクだけは別格だ」


「バク?」


「そう。悪夢を食らうものにして世界の底で悪夢をみる者。マナが流れだす源流、第一なる者」


「そいつを殺せば!?」


「でも、ね。きっとそいつを倒しても、すべてを賄えるわけじゃない」


「……」


「たぶん、君自身の肉体も、マナにして捧げる必要がある。しかも、今度は超常の力の源であったバクを殺すんだ。君はもう決して生き返れない」


「……で、でも」


「落ち着いて。焦らなくていい。君は春香に救ってもらったんだよ?」


「……うん」


「ま、もう少し話そうか」


白キツネは話が長くなるからと、俺を椅子に座るように促した。


滔々と語り出した白キツネの話は、スエノなるバケモノに相対した俺でも、にわかには信じがたいことであった。


先程白キツネが話した通り、スエノはバクから生まれ落ちる怪物。


そしてバクはかつて、白キツネたちが多大な犠牲を払いながら、封印した存在だという。


ただその封も劣化し、弱まったところで破られ、海へと逃げ出したという。


近年になって再び姿を現すようになったスエノに対しては、白キツネたちがリクルートした各地の魔法戦士たちが抗戦し、撃退していることもあって、幸いにも大きな被害にはいたっていないという。


ただ、バクは滅ぼされない限りスエノを無限に生み出し続けるため、いつかは倒さねばならないという。


「そんな、おまえたちが勝てなかった奴をどうやって?」


「そこで、奏汰の出番なんだよ」


「え?」


マナはスエノが消えるときに放出されるエネルギーを、白キツネが媒介して魔法戦士が扱えるようにしたもの。つまりは、バク由来の物だという。


そして、マナを扱えるためには、バクと親和性が高くないといけないという。


「親和性?」


「うん。バクが見る夢に共鳴できる人。普通は多感な時期の少女に多いんだけど」


そこで言葉を切って、白キツネはこちらを見た。


「珍しいことに君も適性を持っているようだ。丁度、最近になって感受できるようになったようだね」


まじか。あれか。


「あの、毒電波みたいな……」


「あぁ、言い得て妙だねぇ」


ラスボスと同じ夢を仲良く見ていたことになるのか……。複雑な気分である。


「んで、君はマナを扱える適性を持っていたわけだけれど、そこに春香の分も加わった。これは、単純な総和ではない。バクに立ち向かえるだけの力を持つほどなんだ」


「そんなに……」


白キツネはこくっと頷く。


「その……適性があることは分かったんだが、どうして春が選ばれたんだ?」


「スエノはね。バクと共鳴できる人間を優先的に殺そうとするんだよ」


「……なぜ?」


「さぁ、そこまでは僕も知らない。ただ、春香はかなり親和性が高かったからね。自衛のためにも力は付けなきゃならなかったんだ」


「……なるほど」


「まぁこの辺りなら、しばらくスエノは出てこないだろうけれど、いずれにしろ君にも戦ってもらわなくちゃならなくなる」


「春の代わりに?」


「うん。自衛のためにも」


「……そうか」


白キツネは一通り話し終えると、俺の膝の上に丸まって、穏やかな寝息を立て始めた。


キツネの透き通るように白い毛並みを撫でながら、妹があの時ふるっていたステッキを、ぼうっと眺めていた。


 


 


 


 


「気晴らしにでも、マナ扱うの練習しようよ」


無気力にベッドに横になってばかりいた俺に、枕元に飛び乗ってきた白キツネが提案する。


俺は言われるがまま、ステッキを掲げて水晶から注がれる力に意識を向ける。


「自分が変わる、その瞬間を強く想像して」


曖昧なことを言う。


ひたすら集中していると、あの夜白キツネに力をもらった時と同じ、神経をせり上がってくるような感覚に襲われた。


今度は、身体が軽くなるだけではなく、全身が光に包まれた。


眩しさに瞑った目を開けてみれば、俺の服は妹があの夜着ていたのと同じ服であった。


袖口はシュシュのようにもこもこしていて、下はギャザースカート。


白を基調とした生地に、青いストライプをあしらっている。


つまりそれは、ふりふりした女物の服ということで。


「どうしてこうなる?」


「いやぁ、似合ってるよ?」


白キツネはにししと笑う。


「いや、これ以外にないのか」


スカートの裾をつまんで指さす。


さ、さすがに見るに堪えん。


「でもねぇ、そのコンベルティ……もといステッキ、春香のだしねぇ」


「え、つまり、もう変えられんってことか?」


これでバケモノと戦うの?マジで?


なんちゅう拷問や。


「まぁ、全く無理ってわけでもないけど。一度作ったものを、後から直すのは面倒でしょ?」


「それはそうかもしれんが……。やっぱりほら、あからさまに女装ってわかったら、目につきやすいだろ。外出られないじゃん」


「別に、一般人の目に触れることもないし」


「え。あぁ」


公園に入った時、あれだけ巨大なバケモノでも見えていなかったことを思い出す。結界か何かあっただったのだろうか?


「あ、でも、仲間と一緒に戦うこともあるでしょ?さすがに気を散らせちゃまずいって」


「そんなに?似合わなくもないと思うけどねぇ」


「いや。お前がそう思っても他の人はそうじゃないって」


「気にしてもわざわざ指摘する人なんていないよ」


「それ、触っちゃいけない人って思われているだけだろ!」


「心配ないさ~」


白キツネは面倒くさくなったようにこちらに背を向けて、コテンと横になる。


こ、こいつ、人の尊厳がかかっているときに……。


「それに、さ。万が一親父に見られでもしたら」


「悲しい顔して受け入れてくれるだろうね」


不覚にもその様がありありと目に浮かんでしまった。


遠い目をしながら言うのだ、『それも奏汰だからな……』と。


「いやいやいや。ムリムリ!」


たいそう面倒くさいというように溜息をついた白キツネは、寝返りを打ってこちらに顔を向ける。


「少し変えるくらいなら、できるよ」


「お、マジか!」


膨らむ嬉しさに思わず前のめりになる。


「期待しないでね」


「おう……」


気勢が削がれたように、おれはしなだれた。


 


 


 


 


「へぇ、こんなのもあるんだ……」


「スエノはバクの見る夢だから、いろんな形をとる。それは、上半身が鷲で下半身がライオンのグリフォンみたいに、縦横無尽に空を駆け回るような奴もいれば、こいつみたいにずっと静かにたたずむだけの奴もいる」


街の裏手にある大きな山、日が沈んだ頃にそこを深く分け入ると、頂上あたりの開けた場所に、昼間はなかったはずの巨木が鎮座していた。


冬でもないのに葉はすべて枯れていて、枝に差し込む月光は寒々しい。


大きな虚が幹をくりぬき、月明かりにも照らされない奈落の闇を湛えている。


朽ちる木のようなどんよりとした雰囲気を漂わせた大樹であった。


「人の顔?」


「いや。ノエルは意志を持っていないから、多分そういうのは意図していない」


虚をずっと見つめていると、苦悶にあえぐ人の顔にも見えてくる。


まるで木に縛り付けられ、地獄の責め苦を受けているかのように、苦痛に満ちている。


ひどく不気味だ。


「こいつを倒せばいいんだな!」


「いや、倒さなくていいよ」


ステッキを手に取って変身しようとした俺は、出端をくじかれた。


「え、いいの?」


「うん。まずは練習だからね。それにこいつは、ただここにいるだけ。本当に動かないんだ」


「へぇ……。気づいたら別の場所にってこともないの?」


「うん」


「反撃は?」


「しない」


「ふぅん」


「どんな植物でも、移動できないなりに環境変化を察知して対応するものなんだけどね。オジギソウとかがわかりやすいかな。ただ、こいつは本当の意味で動かない。……石みたいって言った方が適切かもしれない」


「なるほど」


植物は葉が食べられているのを察知して、化学物質を生成すると聞いたことがある。


虫への毒としてだったり、他の植物へ警告するためだったり、葉を食べる虫の天敵を呼ぶためだったり、いろいろ。


生物の先生は、植物を擬人化させて“知覚している”と考えないようにといっていたけれど、その一方で、植物同士やその中の変化は目に見えないからわかりにくいだけで、いろんなことが起こっているのだとも言っていた。


向日葵が太陽に向けて花を回すように、動けないなりにできることをやるのが植物というものなのだろう。


だからその意味で、なんら環境へのレスポンスのないこいつは、『石のようなもの』ということか。


「練習台ってこと?」


「そそ。近場にいる子たちはみんな、最初はこれで練習してる。とはいえ、マナを使いすぎると枯渇するから、他のノエルを倒せる量は残しておかないといけないけどね。だから、魔法を扱う要領を得るくらいまでかなぁ」


「魔法……はるちゃんが使ってたやつ?」


「そう。春香のコンベルティを使うから、同じ技になると思うけど」


「なるほど」


「とりあえず、変身してみな」


「分かった」


二度目の変身だ。感覚はつかめている。


パーッと光が溢れたかと思ったら、俺は戦闘服に着替えていた。


「お、やっぱり似合ってるねぇ」


「ホントか?」


俺はじとっとした視線を白キツネに送る。


「ホントホント。ボク、ウソツカナイ」


改めて自分の服を眺める。


足首まである丈の長い黒色のタックプリーツに、深い紺色のジャケットをはおり、全体的に落ち着いた雰囲気。図らずも夜に溶け込む暗めのコーデ。これなら、夜に紛れて大して目につかないかもしれない。もしばれても、お洒落の一環……末端だと言い訳できる。


「多分、明るい色だったからきついんでしょ?」


「それはそう」


「色が暗いだけでも、だいぶ変わるもんねぇ」


「うん」


街を往来する人を見ても、特に秋や冬は、男性は寒色系、女性は暖色系の色に身を包んでいるように思う。おそらく、「カッコイイ」と「カワイイ」に対応する色合いとして選ばれる傾向にあるのだろう。


多少服の形を崩して性差を薄くできても、割り当てられた色を変えるのは難しいようにも思う。


まぁ、服装に気を使うなんて、人生で初めての経験なので、知ったようなことも言えないのだが。


「とりあえず、はるちゃんが使ってた技を思い浮かべればいい?」


「うん。春香はコメットって言ってたねぇ」


「ほう」


彗星か。確かにあれはそう見えた。


「水晶にマナを集中させて、光が流れるイメージを思い浮かべるんだって」


「分かった」


ステッキを大樹にむけ、光をイメージする。


しかし、何も変化がない。


う~んと唸っていると、白キツネが助け舟を出してくれた。


「最初は、自分の中を流れるマナを感じ取るんだ」


「自分の中」


「そう」


言われた通り、目を閉じて身体の内側に注意を向けてみる。


なんとなく、ピリピリした感覚が全身を駆け回っているのを感じた。


「身体をマナが循環する」


白キツネが、イメージしやすくするためか、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「マナが腕を伝って、手を伝って、水晶に流れ出す」


腕にヒリヒリするような感覚が生まれ、それが手に向かってのぼっていく。


「注がれた光があふれ返ろうとする」


水晶が月よりもあかるく輝き始める。


「いま、光が、零れ落ちた」


来た!


「あ、威力は相当絞ってね」


「え?」


水晶がピカッと明滅し、極大の光線が放たれる。


その光線は大樹を貫いた。


吹き飛ばされるような反動に耐えきれず、後ろに倒れこむ。


ステッキが上にはね上げられ、光線もそれに従って空に流れる。


しばらくすると光の奔流がやみ、あとには大樹の切り株が残るのみとなった。


「……まぁ、力を弱めるのは難しくないから、最初はこんなもんでいいんじゃないかな」


「あ、えっと。これ、また再生できるのか?」


切り株の方を指さして白キツネに問う。


「死んじゃったねぇ……」


「そっかぁ……」


「ま、初めに言わなかった僕も悪いし」


「ごめん」


「いや、謝んなくていいって。ほら、枯れたマナを補給しないといけないし、貸して、コンベルティ」


「あ、はい」


ステッキを白キツネに差し出せば、白キツネは器用にしっぽを絡めて受け取り、切り株へと駆け寄る。


ステッキを切り株の上でゆっくりと揺らせば、水晶が徐々に明るくなっていった。


「よし、こんなもんでいいかな」


駆け戻ってきた白キツネから、ステッキを受け取る。


「ど、どうも」


「そんな難しいこと考えなくてもいけるから、あとは実戦あるのみだね」


「え。もう、実戦?」


「うん。多分、そんな遠くないうちにまた出るんじゃないかな」


「はやいな……」


俺はうつむいて呟く。


「ま、そんなに心配することもないよ。君にはぜひバクを倒してもらいたいし、全力でサポートするから」


「わかった」


そこで白キツネは座りなおして、居住まいをただす。


「じゃあ、改めてまして。僕は君の盟友になる、テンコだ。あだ名はお好きに」


それを見て俺も正座する。


「あぁ、よろしく。藤原奏汰だ。よろしく、テン」


テンコは大きな目をぱちくりさせ、目を細めた。

ひとくぎりですね。

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