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第2話1-2:会話

「あのー」


 僕は震える声で決心しました。一人でいることが嫌になった、このままでは友達ができない、周りの目を気にしている場合ではないと心に言い聞かせました。もしかしたら相手も僕と同じように本当は話し相手が欲しいのかもと希望的観測をしました。


「――今度は何ですか?」

「僕、話し相手がいなくて寂しいから、話し相手になってくれません?」


 僕は自分でもすごくぎこちない話しかけ方だということだけは分かりましたが、どこが変なのかはわかりませんでした。体中が地熱発電のごとく熱くなり、まぶたや唇や心臓が電気の無駄遣いのごとく動きまくっていました。彼女は微動だにせず沈黙を続けていましたが、その空気に耐え切れずに僕は返事より先に言葉を続けました。


「ごめん、その、忘れてください」


 僕は自分の一世一代の発言をなかったことにして、心に安静を得ました。普通の人ならここから言葉を続けて交友関係を形成していくのかもしれませんが、どだい僕には無理なことでした。前を向き直し、周りの楽しそうな雑談が耳に、心に響いてきます。


「――それで、何の話をするの?」


 僕は風の如く俊敏に折り鶴の女子の方に向きました。その真面目に見つめてくる表情を見て、僕は首を絞められた鶏のように奇声を発したくなりました。後のことなんか考えていなかったので、会話プランなんてありませんでした。


「そうですね……いい天気ですね……知っています?……天気予報って、毎日晴れ予報しておけば80%当たるようですよ」


 僕は何を言っているんだ? 何も言うことがなくて思わず天気のことを言い始めてダメだと思ったのはいいが、話の軌道修正ができずにそのまま天気のうんちくを言ってしまった。こんな話をいきなりされたら相手も困るだろうと僕は頭を抱える心境でした。


「……どうりで傘をさす機会が少ないと思ったわ。たしかに言われてみたら少ないわね。ところで知ってるかしら、曇のほうが暑い場合があることを?」


 なぜか話に乗ってきました。普通なら相手にしないような会話に律儀にも乗ってくれました。僕は嬉しいよりもホッとするよりも、こんな会話に乗ってくれたことに申し訳ないという引け目が強くなり、会話を続けました。


「そうなんですか? 曇は涼しいと思いますが?」

「まずね、曇のほうが涼しいというのは、日光を遮ってくれるからなのよ。中東の人が着るトーブとかみたいに、それによって凉しくなるのと同じよ。日本だったら、日傘のほうがイメージしやすいのかもしれないわ」


 僕は中東の人が着る服をトーブと言われることに感心して、日傘がどうとかの説明は頭に入りませんでした。彼女は淡々と無機質に話しながらもどこか生き生きとした雰囲気で話を続けました。


「でも、地球の熱が宇宙に出て行くという現象があって、それを雲が防いでしまって熱が地球にこもってしまうことがあるのよ。イメージしやすいのは、冬場の服とか布団で、脱いだりしたら寒いでしょ? 冬場だったら嫌だけど、夏場だったら涼しくていいでしょ?それと同じように地球でも冬場なら暖かくていいけど夏場では暑くて困る場合があるのよ。でも、日光による熱のほうが地球からの放熱よりも人間のほうが感じやすいらしいから、あまり気にならないはずよ。そもそも、今は冷暖房が幅をきかせているから気温とかにそこまで気にすることもなくなって……」


 よう喋るな。それが僕の折り鶴女子に抱いた率直な感想でした。まさか、こんなに長々と話を続けるとは思わなかったので圧倒されました。


「……という理論もあるわ。以上よ」


 途中から聞いていなかったから、どういう理論なのかは全くわかりませんでした。以上、という言葉が聞こえなかったら会話の終わりに気づかずに咳払いしてごまかすような気まずい空気になっていたでしょう。そういう空気が恥ずかしくて嫌なのが人と話してこなかった理由の1つでしたが、さて、どう切り抜けましょう。


「……君、すごいね。博識だね。そういう話が好きなの?」

「好きかどうかは関係ないわ。そういう話をしているだけよ」

「ごめんごめん。そうですね。僕がそういう感じの会話をふってしまったからですね」

「あなたがどういう会話をしてくるか関係ないわ。そういうふうになったから、それだけ」


 よくわからない理屈で、折り鶴女子はそう突っ放してきました。もしかしたら彼女は突っ放してきたわけではなく普通に話しただけかもしれませんが、そういう印象を僕が持っただけかもしれません。その言葉には冷たさというか無機質なものを感じました。


「それはどういうことですか? よくわからないのですが……」

「あなたは自分の意思で天気の知識の話をして、私がそれに対して自分の意思で天気の話を返してきたと思っているでしょ? でも、それは違うのよ。あなたはそう言う会話をするように仕向けられたのよ」

「……ええっと、どういうことですか?」

「おそらく、あなたは私に話をするとき、こうなったと思うわ。話しかけたはいいものの何を話したらいいのかわからなくなり、とっさに天気の話でお茶を濁そうと思ったけど、それは流石に気まずいと思って少し話題転換しようとしたら天気に関するうんちくをしてしまい、それに対して私が変だという反応を示さないどころか、天気のうんちくを語り始めたのだから困ってしまった。そうでしょ?」


 僕は心を読まれているのかと思い、極寒の海に浮いているかのごとく背筋が寒くなりました。彼女の冷たい目は僕の心を読む何かを発動させているかのように深く沈殿する黒い影を忍ばせていました。


「もしかして、心が読めるのですか?」

「そうよ。私は心が読めるの」

「……嘘ですよね」

「そうよ、嘘よ」


 即答でした。待ってましたと言わんがばかりの即答。


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