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第5話 決別

「ユリウス、ああっ、ユリウス!!」


 助けに来てくれたユリウスに泣きながら抱き着く。


「大丈夫かい?胸騒ぎがして君を追いかけたらこうなってて……あの男は一体」


「か、彼は……」


 もうここまで来たら隠し通せない。


「彼はルーク……私を乱暴した上級生で……そして私の、『初恋』だった人」


「…………そうか。こいつが……」


「何だよ色男が。お前がリリィをたぶらかした今の彼氏か!?」


「その通り。僕はモンティエロ・ユリウス。リリィ君は僕にとって最愛の女性だ。そんな彼女を傷つけるのは許せないね」


 ルークはペッと唾を地面に吐き捨てた。


「こんな男のどこがいいんだよ。いいか、俺はリリィと昔からの付き合いなんだ。お前みたいな半端者が入る込んでくるんじゃねぇよ。なぁ、そうだろリリィ。俺は誰よりもお前を愛してるからな」


 これほどまでに『愛』という言葉がどす黒く聞こえるのは無いだろう。


「ふざけるな!」


 ユリウスは怒りに身体を震わせながら叫んだ。


「何が『誰よりもお前を愛している』だ!ふざけるのも大概にしろ!!彼女を愛しているなら何故傷つけた!?彼女がどれだけ苦しんだと思っているんだ!!」


「そいつは素直になってないだけだ。今でも俺の事が好きなんだよ。そうだろ、リリィ?ほら、俺の方へ来いよ。大切にしてやるからさ」


「嫌よ。あんたの所へは行かない。私の恋人はユリウスだから!」

 

 私はユリウスの袖を握りしめる。


「こいつ!いい加減に!仕方ないな。ちょっと痛い目見てもらうぞ」


 ルークがナイフを取り出し呪文を唱えるとナイフが禍々しい形の剣へと変化した。


「君はどこまでも見下げ果てた男だな、ルーク」


「ユリウス!彼は元々凄腕の冒険者よ。あんたが適う相手じゃない」


「そうかもしれないね。でも、引くわけにはいかない時もある」

 

 ダメだ。

 あいつは間違いなくユリウスを斬り殺そうとしている。

 このままじゃユリウスが……私ならこいつに勝てる。

 武器を錬成して私が立ち向かえば……それなのに、形が定まらない。

 やはり恐怖から『創造錬金』が上手くいかない。


「さあ、思い知らせてやる。俺を裏切ったらどうなるのかってな」


 その瞬間だった。


「ルークゥゥゥゥゥゥゥッl!!」


 怒声と共に私達の横を流星の様に駆け抜け、ユリウスに斬りかかる影があった。


「アリス!?」


「見つけた!やっと見つけた!!お前が、お前がリリィを傷つけたんだ!!お前だけは絶対許さない!!!」


 怒りで叫びながらアリスはルークと斬り結ぶ。

 

「チッ、リリィの妹か……」


「リリィがどれだけ苦しんだかわかるか!?どれだけ泣いたと思ってるんだ!毎晩悪夢にうなされて、男の人を怖がるようになって。お前がリリィを、ボクの大事な姉さんを壊したんだ。やっと前に進みだしたのにそれをまたお前は!!!」


 アリスの剣がルークの剣を飛ばす。

 そして……


「死ねぇぇぇぇ!!!」


 アリスが大きく刀を振りかぶった。


「ダメ!アリスッ!」

 

 そいつを殺したらあんたが十字架を背負う事になる。

 だが間に合わず、アリスはルーク目掛け刀を振り下ろした。

 しかし刃はルークに届かず横から割って入ってきた男の剣に受け止められた。


「ホマレ!?」


 それは私達の弟、レム家の長男であるホマレだった。

 小さい頃は神童と呼ばれる天才で、私にとても懐いていた。

 だがある日を境に彼は才能をしぼませてしまった。

 何があったか聞くと彼は笑いながら答えた『どこかに置いてきた』。


「もう止めてくれアリス姉さん。こんな奴殺したって何にもならない!!」


「ダメだよ。ボクはこいつを殺さないと……こいつを生かしてたら折角リリィが幸せになろうとしてるのにいつか壊されてしまう!ボクがやらなきゃ。リリィが泣いて助けをを求めたのに気づかなかったボクがやらなきゃいけないんだ。だからホマレ、どいてよ!ボクはこいつが憎いんだ!!」


「絶対に嫌だ!リリィ姉さんにはユリウスが居るからもう大丈夫だ。あんたも前に進んでくれよ。姉さん!もう自分を赦せ!!」


 弟の言葉にアリスの手から力が抜け刀が地面に落ちた。

 そう、アリスはあの日からずっと自分を責めていた。

 私が乱暴されていた時、アリスはたままた近くで友達と遊んでいた。

 一度だけ助けを求めたけどその声は届かなかった。

 後で気づいたんだと思う。自分が遊んでいるすぐ近くで何が起きていたか。


「こ、こいつら……何を内輪で盛り上がってやがる」


 怒声をあげるルーク。

 私はある決意をして前へ出る。


「リリィ君?」


「大丈夫。見ていて……」


 私はたくさんの人達に助けられてきた。

 それでもずっと怖くて、ルークに怯えていた。


「リリィ。俺はお前を愛しているんだ。わかるだろ?」


「そうね。よくわかったわ」


 私はルークを見据えて言い放った。


「あんたの言う事なんか『うんこ』にしか聞こえないってね!」


「なっ!?」


「私はユリウスと生きる。その為に、あんたと決着をつける!」


 その言葉にルークは逆上し、拳を振り上げ走ってくる。

 ああ、そうか。この男はこんなにも小さかったのか。

 ルークのパンチを手で弾きバランスを崩した所に軽く裏拳をいれる。

 蹴りが飛んでくるがそれも素早く捌き距離を詰めるとハイキックを叩き込む。


「こいつ、女のくせに生意気な事を!!」


 剣を拾い上げたルークが剣を振るってくる。

 こんなにも弱い男だったんだ……それを怖がっていたんだ。

 刃を手で掴み力を籠める。


「ふんっ!!」

 

 パキンッと音を立てルークの剣が折れた。 


「そうやって暴力を振るっていればいつまでも私が怯えていると思ったら大間違いよ!!」


 ジャンプしてルークの頭を足でホールドすると後ろに回転する勢いで投げつけた。


「ぐはぁぁっ!!


 かなりのダメージだが戦闘不能にはさせていない。

 最後にするべきことがあるから。

 身体を起こすまで敢えて待ちゆっくりと彼に近づいていく。


「リリィ、やり直そう。俺はお前が居ないと……」


 パァァァァンッ!!

 力いっぱい彼の頬を叩く。


「なっ!?」


「さようならルーク。あんたなんか大嫌いよ。もう2度と私と、私の愛する人の前に現れないで!!」


 唖然とする彼に背を向けユリウスの傍まで歩くと彼の手を取る。


「リリィ君……」


「…………怖かった」


 涙がこみあげてくる。


「えーと、これはその……」


「何やってんだユリウス。抱きしめろ!!」


「え?あ、ああ。えーとそれでは抱きしめさせてもらうよ?」


 ホマレに促されユリウスは一応許可を通った上で私を抱きしめる。

 傍から見ればかっこ悪いけど彼らしい。そんな不器用ながらも誠実な所が好き。


「……くっ。く、ふっ、ははははははは!これで終わったと思うなよ!!リリィ、俺を裏切ったお前を幸せになどさせるものか。学生時代の事を世間にばらしてやる!俺にヤられて喜んでたって言いまわってやる!!」


 この男、本当にどこまでもクズすぎる。


「ホマレ、やっぱりボクはこいつを斬らないと……」


「ダメだ姉さん。こんなやつ斬る価値すら……!?」


 その時、気づく。

 ルークの背後から咢を開いた巨大な獣の口が近づいていた事に。


「えっ……?」


 一瞬だった。

 獣はルークの頭からかぶりつくとあっという間に彼を飲み込んでしまった。

 その正体は巨大な口から脚が生えた異形の怪物『アギト』という上級モンスター。

 こんな街中に出てくるとしたら理由は……


「うぇっぷ、マズ……」


 アギトから発せられた声に確信する。


「あんたはイシダ……」


 変身が解け、アギトは女性の姿に戻る。

 それは我が家と昔から因縁がある『頭のおかしいヤバイ人』、イシダ・シラベだった。

 彼女は異世界『地球』の出身者で父様の元同僚。

 数多の人間を手にかけて来た凶悪犯で父様が転生してくる原因を作った女。


「いやいや、お熱いねリリアーナ。これはいい物が見れちゃった。君もいい男になったね、ユリウス君」


「イシダ……あんたどうして?」


「私も母親の端くれだからね。自分の娘がもしって思うと殺さずにはいられなかったよ。それだけさ」


 イシダはアリスの方を向き、言った。


「アリスちゃんさ。君は『こっち側』に立っちゃダメ。向いてないから。こういうのは私みたいに人を殺しても何とも思わない人間が立つ場所なんだよ」


 ケラケラ笑いながらイシダはこちらに向き直る。


「幸せにね、リリアーナ。本当は君達と遊びたかったけど今日は流石に止めておくね。それじゃ、ばいばい」


 そう告げるとイシダは転移魔法を使いその場を去っていく。

 あいつ、多芸多才になってるわ……


「リリィ君……その……」


「うん……多分あいつは、イシダはルークから私達を守ってくれたんだと思う……」


 私が二度と怯えない様に。

 アリスがその手を汚さない様に。

 多分、それは彼女なりの私達への愛情。

 まあ、大分歪んでるけど……


「リリィ姉……ボクは……」


 刀を拾い上げるとアリスに手渡す。


「…………ごめんね、アリス。あんたをずっと苦しめてきた」


「謝るのはボクの方だよ。リリィ姉が助けを求めてたのにボクは…………」


「仕方が無かったのよ……それでもあんたやケイトが居てくれたから……私は独りじゃなかったから、こうして今もここに居られる」


 ふと、視界の端でホマレが唇を噛んでかを歪めているのが見えた。


「ホマレ、あんたも……そうよね。気づいてたのよね?」


 そうだ。

 あの日ケイト達に脇を抱えられながら家に帰った時、ホマレは家に居た。

 心配して駆け寄ってくれた弟を、私は拒絶したんだった。


「いや……俺は……」


「あんたも見守ってくれてたのね。ありがとう……」


「違うんだ。俺は、あれは俺の……いや、いいよ」


 ホマレは何か言いたげだったが言葉を飲み込んだ。

 ふと、言葉が出た。


「あんたのおかげで私はもう一度生きることが出来たよ。ありがとう」


「ッ!!」


「あれ?今の何で……」


 何故そんな言葉が出たのだろう?

 意味が分からないがホマレは泣きそうな表情でこちらを見て、そして……


「ははっ、大袈裟だなぁ。姉さんは。しっかしあれだなぁ。姉さんを誰より大事に想っているのは俺だと思っていたがもうこれはユリウスに負けちまったなぁ」


 いつもの弟に戻っていた。

 この子にも何か事情があるのだろう。

 敢えてそれを暴く必要はない。

 私に出来る事、それは……


「みんな、ありがとうね」


 感謝の言葉を伝える事だった。

今回ホマレが言いかけたのは自分が転生者でその際の神とのやり取りでリリィの運命を歪ませてしまったということです。


ただ、歪んだせいでルークがおかしくなったとかではなく性根がクズな奴とリリィが出会って恋をしてしまったというのが真実なのでやはりルークはクズということになります。

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