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第3話 隠していた事

 シャーリィさんの口から出た言葉に私は自分でもわかるくらい震えていた。

 ここから何が起きるというのだろう?


 もしかしたら『そんな汚れた女はウチの息子に相応しくないから別れろ』とか言われるのだろうか?

 そう言われた時、私はそれに抗えるだろうか?


 彼と付き合いながらもやはり自分は傷モノだという気持ちはぬぐえない。

 私は政治の世界にも関わりあるモンティエロ家にとって、好ましい女性ではないのかもしれない。

 彼の事は好きだ。この気持ちは間違いない。

 だからもし別れろと言われたら……

 様々な考えが頭の中を駆け巡り続け涙が出てきた。


「母から……聞いたんですか?私が乱暴されたことがあるって」


 親同士がつながっていたのなら私について何かしら話題の共有があったかもしれない。

 結局、母様達は私が乱暴されてそれを隠していた事実に気づいていたのだ。

 何かの拍子に話してしまったのだろうか?


「息子をぶちのめした女傑ってのがどんなやつか知りたくて経歴を調べてみて気づいた。急に不登校になったことや周囲の状況から間違いないと確信した」


「何でそんな事を……」


 たとえ気づいたとしても触れては欲しくない部分だった。

 今、私の中には怒りや哀しみ。それに恥ずかしさ。

 あの日と同じ様な感情が渦巻ていてこの場から逃げ出したくなってきた。


 その様子に気づいたのか彼女は慌てだした。


「ああ、クソ。これじゃあ意地悪な姑みたいになってるな……誤解するんじゃねぇぞ。別にお前が息子に相応しくないとかそんなバカな事を言う気はない。むしろあんなバカ息子を好きになってくれたことに感謝してるくらいだ。それでその……考えたんだ。あたしにしかしてやる事が出来ない事があるだろうって」


「?」


 シャーリィさんにしかできない事?


「お前は気にしてるだろ?あたしらが『孫の顔が楽しみだ』とか言いだしたら何て言おうかとかさ」


「それは……はい。ユリウスとは話し合っているけど正直なところ、将来子どもが持てないかもしれないと思っています」

 

 付き合ってひと月。

 未だにキスのひとつもしていない。

 彼の事は好きだ。だけどやはり男性への恐怖感はたとえ彼相手であっても残っている。

 そんな状態だから子どもを持つなんて夢のまた夢。


「何て言えばいいんだろうな……あたしゃあんまり頭が良くねぇからな……いや、だからな。その……ああクソ、色々練習したんだけどいざとなると上手くいかねぇ!!」


 彼女は頭を抱えながら大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたいる。

 さっきまでの豪快な人とはまるで別人だ。


「そうだな。いつまでもあたしだけ隠してるのもフェアじゃないな…………お前に見せたいものがある」


 そう告げると彼女は腕に嵌めた大きなブレスレットをおもむろに外した。

 外したその腕には見えるのは無数の傷跡。


「その傷は…………」


「わかるよな……これはあたしが若い頃に自分でつけた傷だ」


 シャーリィさんは再度深呼吸をする。

 彼女は語り出した。

 

 若い頃はソロの冒険者をしていてそれなりに活躍をしていた。

 ある日、訪れた土地で悪人が人々を苦しめていると知った。

 腕に自信があったのでひとり組織に挑んだが思った以上に敵は強くすぐ捕まってしまった。

 そこで彼女は自尊心を粉々に打ち砕かれるような拷問を受けたという。

 後に今の夫であるノーマン氏に救出されたが何度も自傷を繰り返し続けた。

 やがてノーマン氏の支えもあ少しずつ立ち直ることが出来て来た。

 彼女はノーマン氏に求婚し二人は夫婦になったという。


「もしノーマンが居なかったらあたしはここには居なかった。あいつはバカだけど誠実な男でさ。目をそらさずあたしを見てくれていた……」


 その性質はユリウスにも受け継がれていると思う。

 

「あたしは、今のお前と同じでノーマンに子どもは無理かもしれないって言った。あいつはそれでもあたしの傍に居てくれるって言ってくれてさ。まあ、あたしらは幸運な事にユリウスを授かることが出来た。まあ、流石に二人目は無理だったけどな……」


 彼女にしかできない事。

 これがそうなのだ。彼女もまた、愛する人がいるが子どもは作れないかもしれないという想いに苦しんでいた。

 だから……


「だから、無理はしなくていい。ユリウスの間に子どもを授からなかったとしてもそれを責めたりはしない。もしユリウスがお前が嫌がる事をしそうになったら遠慮なくあたしを頼れ。味方になってやる。だから、悩まないでくれ」


 私は…………

 

「あの時、本当は全力で抵抗すれば返り討ちに出来たはずだった。だけど出来なかったんです。今まで感じたことがない恐怖だった。理不尽に振るわれる暴力に抵抗する気力も奪われて、自分はこんなに弱かったんだって……」

 

 同じ痛みを持っている人。

 いや、自分よりはるかに辛い目に遭ったかもしれない彼女に私は心の中にあったあの日に記憶を吐き出し続けた。

 そして……


「実は、まだ彼に言ってない事があります。今でもこれだけはどうしても心の整理がつかなくて、彼にも言えなくて……」


 私の事情知っている人たちの中でユリウス『だけ』が知らない事。

 何度も話そうと思ったがどうしても伝えられなかった。

 彼を信じていないというわけでは決してない。

 心配なのはこの事実に向き合った時、少しずつ前に進もうとしている自分がまた後戻りを始めてしまうのではないかという恐怖があったから。

 その内容を聞いたシャーリィさんは悲痛な表情を浮かべる。

 そして私に近づくと力強く抱きしめてくれた。


 ユリウスだけが知らない事。

 それは私を乱暴した上級生である『ルーク』と私の関係。

 実は彼とはあの事件で初めて顔を合わせたというわけでは無い。

 もっと昔から、幼い頃からよく知っていた。

 彼は私の『初恋の人』で将来『結婚』する約束をしていた男性だった。


次回、シリーズ屈指のクズ男が満を持して登場です。

アリス関連のエピソードに出てくる男達も大概クズでしたが負けないくらいクズです。

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