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第2話 心配ごとは……

 

 ユリウスの実家である屋敷には門番が居た。

 こういうのを見るとやはり彼の実家は裕福なのだなと改めて思った。

 ウチなど家自体は大きいが生活は庶民的なので門番など当然おらず『頭のおかしいヤバイ人』であるイシダ・シラベが侵入し放題だ。

 まあ、あの女なら門番が居ても入ってくるだろうけど……


 この前など娘と一緒にやって来て普通に夕ご飯を食べた後、魔物に変身して庭で暴れ父様に倒されるとかいう訳の分からないイベントを行って帰っていった。

 まあ、昔からイベント毎には顔を出して魔物に変身するという事を繰り返しているのだが本当にあの女の行動は意味がわからない。

 いや、恐らくわかってしまったら人間として終わりだと思う。


 屋敷内に招かれ足を踏み入れたメインホールで彼の両親が迎えてくれた。

 ああ、良かった。父親はきちんと服を着ている。


「よく来たな……っておい待てバカ息子」


「どうしましたか母上?」


 彼の母親であるシャーリィさんが眉をひそめる。

 理由はコートを脱いだ彼の格好だ。間違いない。


「……手前、何でそんな変態的な格好をして実家帰りしてんだ?」


「いや、やはり恋人を連れて来るなら我が家伝統の正装をと思ったのですが……」


「は?バカかお前?服着ろよ。どう見てもただの変態だろ。常識だぞ?」


 今まで多くの人が思っていた事を親がぶっ込んで来た。

 彼はショックを受けた様子で固まっていた。

  

「おい、誰かこの馬鹿に服を着せろ」


 ユリウスは使用人に促され別室へ連れて行かれることになった。

 ああ、やっぱり私の予想は当たっていたんだ。


「まったく、誰だよあいつに変な事を教えたバカは」


 えーと、犯人はあなたの隣に居ますよ。

 横で視線をそらしているあなたの旦那です。

 間違いありません。


「さて、と。それじゃあ気を取り直して、リリアーナだな。あたしはモンティエロ・シャーリィ。ユリウスの母親だ。この家の主でこっちは旦那のノーマン」


「ユリウスさんとお付き合いをさせていただいています、ミアガラッハ・レム・リリアーナです」


「ふむ。やっぱりメイシーの奴とよく似ているな。礼儀正しい所もそっくりだぜ」


 彼女の口から出た母の名前にあたしは驚きを隠せなかった。

 しかも呼び捨てにしているあたりそれなりに仲が良いのだろうか?


「えっと……母を知ってるんですか?」


「おや、聞いてないのか?あたしらはもう10年来の茶飲み友達だ。メイシーだけじゃねぇ。アンジェラやリゼットもな。ほら、家出騒動があっただろ?あれから仲良くなってな」


 『家出騒動』とは私とユリウスの運命が交わった事件だ。

 あの頃のユリウスは最低な男で、私は彼にドラゴンスープレックスをかけて大怪我をさせた上、父様の故郷である異世界『地球』に家出した。

 当時はかなりの騒ぎになり地下組織が父様達に壊滅させられるなど大勢の人を巻き込んでしまった。

 

「まあ、立ち話もあれだからな。座って話そうぜ」


 私は客間に通された。

 しばらくして服を着せられたユリウスも合流する。

 私達はお茶を頂きながらしばらく歓談した。

 今の所、心配していたような事態は起きていない。


「それにしてもよくやったなぞユリウス。まさかお前が本当にこの子を射止めることが出来るとは」


 父親であるノーマンさんは私達が交際しているという事実に感動している様子だった。


「まあ、リリアーナの婿になれないなら親の子縁を切るって脅してたからな。ショック療法って奴だぜ」


「え?」


 そんな事は初めて聞いた。

 ユリウスの顔を見るとバツが悪そうな表情だ。


「ま、まあ確かにそう言われていたね」


「怒ってドラゴンスープレックスをぶちかましたって聞いてよ。ああ、こいつは是非とも義理の娘に欲しいなぁって思ったもんだぜ」


 何というかシャーリィさんは本当に元貴族なのかと疑問に思うくらい男っぽい性格だ。


「……ユリウス。あんたそんな事一言も言わなかったじゃない」


「いや、あの頃はどちらかというと嫌われていただろう?もしこの話をしたら、家を追い出されたくないからアプローチをしているんだって思われただろうからさ」


 まあ、否定はしない。

 間違いなく『知るか、さっさと追い出されなさい』とか言ってそうだ。


「確かに家を追い出されるかもしれないという状態だったが、君に対する気持ちに偽りはない。あのドラゴンスープレックスで僕は君に運命を感じたんだ」


 相変わらずこっちが恥ずかしくなるくらい真っすぐに恥ずかしい言葉をかけてくれる。


「わ、わかった。信じるから。まあ、その、色々驚く事があっただけだから……」


 割と日常の光景となっているドラゴンスープレックスだったがやはりこういう場では恥ずかしさも感じてしまう。

 私達のやり取りを見ながらシャーリィさんはにやにやと笑っている。

 何だろう、嫌な予感がする。

 

「さて、と。あたしゃこいつと話したいことがあるんでな。ノーマン、ちょっと頼むわ」


「ああ。わかったよ」


 ノーマンさんはうなづくとユリウスを促し二人で部屋から出ていく。

 ユリウスが何やら戸惑っている様子だ。

 

 客間に、私達は二人きりになった。

 先ほどまでの雰囲気とは打って変わって沈黙が続く。

 見れば彼女の表情も真剣そのものになっている。

 怖い怖い。もしかして私、凄くピンチなのでは?

 何か試されようとされてる?


「えーと……話したいことって」


「そうだな……あたしはまどろっこしいのが苦手でな……あー、えーとだな。お前ってさ、男にヤられた経験あるよな?」


 その言葉に私は息を呑む。

 自分でも血の気が引いていくのを感じた。

 私を今なお苦しめている過去。

 学生時代、ユリウスと出会う前に通っていた学校で私は上級生に乱暴された。

 その事実は彼と付き合う直前に色々な誤解があって感情のままぶちまけてしまい彼も知っている。

 彼はそれを聞いても尚好いてくれ、私の痛みを受け入れてくれた。

 そして私が思わず口走った彼への想いを聞かれてしまい、観念した私は彼の告白を受け入れて今に至る。

 

 実は彼に『まだ言ってない』事があった。

 もしかしてシャーリィさんはそれを知っているのかもしれない。

 どうしよう……


「そ、それは……」


 心配していた事というのは9割が起こらない。

 だがそれは『心配していた以上の事』が起こる可能性もあるといいうことだ。

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